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小説限定(ジャンルは自由)読書会 2023年10月14日(土)

今回も2週連続「ジャンルフリーの読書会」を開催しました。

時代やジャンルを超えた幅広い範囲からの選書、さまざまなテーマや作品が紹介されます。
が、今回紹介された作品たちは、現代の小説の中でも特に注目度が高いものが多く紹介されました。

小説はこちらです。

内容には一部のネタバレも含んでいますので、ご注意下さい。


カササギ殺人事件 / アンソニー・ホロヴィッツ(東京創元社)

■巨匠をリスペクトした現代ミステリーを読みたいあなたにおすすめの1冊

1955年7月、サマセット州にあるパイ屋敷の家政婦の葬儀が、しめやかに執りおこなわれた。鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけたのか、あるいは…。その死は、小さな村の人間関係に少しずつひびを入れていく。余命わずかな名探偵アティカス・ピュントの推理は―。

引用元:「BOOK」データベースより

■興味深い質問

「コナン・ドイルの正当後継者ですか?」

著者アンソニー・ホロヴィッツはただのミステリー作家ではありません。彼はコナン・ドイル財団が公式に認定した、名探偵シャーロック・ホームズの続編『モリアーティ』を執筆し、ドイルの世界観を見事に表現しています。

しかし、彼の真の力は『カササギ事件』に表れています。この作品では、ある作品のオマージュでありながらも、ホロヴィッツが真に描きたかった独自の世界が展開されているように感じました!

■参加者が盛り上がったところ

「上下巻でわかれている理由」

『カササギ事件』は、その壮大なスケールと緻密なプロットのため、上下巻の2冊に分けられています。物語のボリュームが一定の厚みを超えると、作品はしばしば分冊されるのが一般的です。

一方、『カササギ事件』の場合、この分冊は単なる物理的な必要性を超え、物語の核心的な要素と深く結びついています。

ネタバレを避けながらも示唆すると、上下巻の構成は単に物語を区切るためだけではなく、作品全体の構築によるものです。

■この本をより楽しめる情報

本書は数々の権威ある賞を席巻しています。「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「本格ミステリ・ベスト10」を筆頭に、さらには「このミステリーがすごい!2019年版」海外部門での第一位に輝き、ミステリ界に旋風を巻き起こしています。

ミステリの歴史上でも快挙です!


存在のすべてを / 塩田 武士 (朝日新聞出版)

■リアリティ溢れる社会派の事件の裏側を覗きたいときの1冊

平成3年に発生した誘拐事件から30年。当時警察担当だった新聞記者の門田は、旧知の刑事の死をきっかけに被害男児の「今」を知る。異様な展開を辿った事件の真実を求め再取材を重ねた結果、ある写実画家の存在が浮かび上がる――。質感なき時代に「実」を見つめる、著者渾身、圧巻の最新作。

 引用:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「そんなストーリー展開なんですか?」

“平成3年に実際に発生した、奇妙な誘拐事件”。その出来事から紡がれる本作は、読者のあらゆる予想を裏切る展開を披露します。

紹介者の熱のこもった話によれば、この作品はただのミステリー小説ではありません。それは、過去と現在、真実が入り混じる、驚愕のリアリティを含んだ作品です。事件の背後に隠されたものはなにか……。

事件そのものも驚くべきものですが、それを基に織りなされる人間模様、予想もつかないような展開がこの物語の真骨頂です。

■参加者が盛り上がったところ

「最初から破綻した誘拐」

始まりがあまりにも即興的で、計画性に乏しい誘拐事件から幕を開けます。犯行の背後には、ずさんな下調べのなさが露呈しており、それが話題となりました。

犯人は被害者の家庭の経済事情を把握せずに身代金を要求し、計画していた額を得られないために、仕方なく身代金を減額してしまう……。信じられないほどの手荒なやり方です。

「もっとちゃんと下調べしないとっ!」

■この本をより楽しめる情報

グリコ・森永事件を題材にした『罪の声』では、その綿密な取材に基づくリアリティが際立ち「週刊文春」ミステリーベスト10 2016の国内部門で第1位を獲得し、第7回山田風太郎賞を受賞するなど、各種メディアからの高い評価を受けました。

本作も事件を紐解くことで社会に対する深い洞察とメッセージを読者に伝え、リアルな物語作りで読者を引き込む塩田ワールドが展開されています。


ジュールさんとの白い一日 / ダイアナ・ブロックホーベン (赤ちゃんとママ社)

■穏やかな夫婦の終焉物語を読みたいあなたにおすすめの1冊

突然に夫を失ったアリスは、彼をおくるため二人だけの儀式を考えた―雪に閉ざされたアパルトマンの一室。アリスとジュールと、風変わりな闖入者の濃密な24時間のドラマが進行してゆく。

引用元:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「死んだ夫に対しても嫉妬はするんですかね?」

ある老夫婦の夫の死をきっかけに展開する物語が繰り広げられます。物語が進むにつれ、妻は過去の記憶を辿り、夫がかつて他の女性と親しげにしていたことを思い出します。これが原因で、彼女の中には怒りや悲しみの言葉を死んだ夫に対して吐露します。

「配偶者が亡くなった後も、過去の浮気に対して嫉妬や怒りを感じることはあるのでしょうか?」

「そりゃそうですよ!」

■参加者が盛り上がったところ

「自閉症」

作品の中で特に印象的なのが、自閉症の少年の描写です。彼の行動や思考プロセスに対する深い洞察が読者にはっきりと伝わってきます。このキャラクターがどのタイプの自閉症であるのか? 自閉症が一様ではないことが話題にあがりました。

例えば自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群、低機能自閉症(カナー症候群)、サヴァン症候群……。

■この本をより楽しめる情報

ダイアナ・ブロックホーベンは、ベルギー出身のフリージャーナリスト兼作家です。若者向けの多数の小説で知られる作家です。

この作品は『赤ちゃんとママ社』から出版されています。このユニークな名前の出版社は、育児雑誌で、“安心できる楽しい育児”をモットーに掲げ、雑誌、書籍、パンフレット、相談等を通じて、家族と社会の強い絆を築くための支援も行っています。


探偵伯爵と僕 / 森 博嗣 (講談社)

■シリーズ外の森博嗣作品を味わいたいあなたにおすすめの1冊

もう少しで夏休み。新太は公園で、真っ黒な服を着た不思議なおじさんと話をする。それが、ちょっと変わった探偵伯爵との出逢いだった。夏祭りの日、親友のハリィが行方不明になり、その数日後、また友達がさらわれた。新太にも忍び寄る犯人。残されたトランプの意味は?探偵伯爵と新太の追跡が始まる。

引用元:「版元ドットコム」より)

興味深い質問

「SF要素はありますか?」

最近、森博嗣氏の作品には目を見張るようなSF要素が散りばめられていることから、この『探偵伯爵と僕』にもそのような斬新なテーマが織り込まれているのではないかと質問が飛びました。

「SF要素はありません」
既存のシリーズとはまた異なる味わいの独特な世界観とストーリーテリングです。

■参加者が盛り上がったところ

「シリーズ外」

森博嗣氏は、数多くの魅力的なシリーズで知られています。「S&Mシリーズ」や「四季シリーズ」、「Gシリーズ」……など、独特のキャラクターと複雑に絡み合うプロットで数え切れないほどのファンを魅了してきました。しかし、今回取り上げられたのは、これらの有名なシリーズとは一線を画した作品です。

本作を紹介された方によると、森博嗣氏のシリーズ外の作品を初めて読む経験は新鮮で刺激的だったとのこと。これまでシリーズ作品に目を向けることが多かったようですが、今回の作品の鮮烈な印象により、作者の別の一面を垣間見ることができました。

シリーズものの安定した魅力はもちろんのことですが、シリーズ外作品には作者の新たな試みや、異なるテーマが詰まっています。

■この本をより楽しめる情報

上記のとおり、シリーズ外の児童書です。この児童書は、容赦ない現実を描きながらも、森ワールドのエッセンスが散りばめられています。

表面上は児童書ですが、深いテーマを含み、終盤の伯爵からの手紙には現実の重みを感じさせられます。子ども向けの読み物としてはやや残酷な面もあるため、推薦する際には注意が必要ですが、どのように感じるのかは興味深い作品となっています。


ベーシックインカムの祈り / 井上 真偽 (集英社文庫)

■現在のテーマ・予言的な物語を読みたいときの1冊

遺伝子操作、AI、人間強化、VR、ベーシックインカム。
未来の技術・制度が実現したとき、人々の胸に宿るのは希望か絶望か。
美しい謎を織り込みながら、来たるべき未来を描いたSF本格ミステリ短編集。――

全国民に最低限の生活ができるお金を支給する政策・ベーシックインカム。お金目的の犯罪は減ると主張する教授の金庫から現金が盗まれて――

引用元:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「あの大森望さんが賞賛しているんですか?」

帯には、著名な翻訳家であり評論家でもある大森望氏からの賞賛コメントが掲載されています。大森望氏は、その卓越した翻訳技術で数多くの海外SF小説を日本語に訳しています。また、《文学賞メッタ切斬り!》​シリーズでは、率直で歯に物を着せぬスタイルで時には辛口でありながらも的確な批評を加えることで知られています。

一般に厳しい意見を述べることで知られる大森望氏が賞賛するという事実自体、質の高い短編集であることを物語っています。

■参加者が盛り上がったところ

「ベーシックインカムを短編で描くことへの興味」

『ベーシックインカムの祈り』というタイトルが非常に興味を引きます。社会保障制度として北欧諸国で実験的に導入されていたり、その革新的なアプローチから世界中の政策立案者や社会科学者の注目を集めています。このような複雑かつ微妙なテーマを短編小説の題材として扱うことは、作家にとっても一種の挑戦だと思います。

しかしこの作品で興味深いのは、ベーシックインカムが直接のテーマではなく、むしろ作中作、つまり物語の中の物語として描かれている点です。

ほかにもこの短編集は未来のテクノロジーや社会制度を予測するかのようなストーリーを含んでおり、それが現代社会に対する鋭い洞察であることは間違いありません。

■この本をより楽しめる情報

以前にRENSの読書会で取り上げられた著者の『アリアドネの声』も、参加者から高い評価を受けました。そして、最新作『ぎんなみ商店街の事件簿』は、発売と同時にその人気の高さを証明するかのように、多くの書店で売り切れとなるほどの反響を呼んでいます。

その中で、『ベーシックインカムの祈り』は昨年文庫化され、その手軽さが一層の注目を集めています。短編集という形式は、読者が作家の世界に気軽に足を踏み入れられます。

【まとめ】

今回の読書会では、現代のミステリーや未来を予見するような作品、さらには社会的な問題を掘り下げた事件など、魅力的な内容の作品が多数取り上げられました。

さて、次回の読書会では特定のジャンルに焦点を当てた特別なセッションを予定しています。
『ホラー・ミステリーSF読書会』ですので、心躍るラインナップで参加者を待ち受けています。

また、課題本を来月の11月に計画しています。前回はバルザックの不朽の名作『ゴリオ爺さん』を取り上げ、参加者から高い評価を得ました。第二弾として選ばれたのは『ラブイユーズ』です。

興味をお持ちの方は、是非ともこの機会にご参加を心よりお待ちしております。

『ラブイユーズ』読書会はこちら
https://rens-cycle.com/information/20231118/

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