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読書会 2023年10月21日

久しぶりに開催された「SF、ミステリー、ホラー読書会」です。異なるジャンルを一括りにして語るのは一筋縄ではいかない複雑さがありますが、純粋にエンターテインメントとしての楽しさを追求して開催されました。

伝統的なSFの傑作から、緻密なプロットを持つミステリー、ぞくりとするホラーまで、バラエティに富んだ選書が並びました。

一部、ネタバレになるような箇所もあるのでご注意下さい。


処刑台広場の女 / マーティン・エドワーズ(ハヤカワ・ミステリ文庫)

■1930年代の雰囲気が漂う冒険ものミステリーを読みたいあなたにおすすめの1冊

密室での奇妙な自殺や不可解な焼死の真犯人は、名探偵レイチェル・サヴァナクなのか? 記者ジェイコブが暴きだす、彼女の秘密とは

引用元:(版元ドットコム)より

■興味深い質問

「モンテクリスト伯を下敷きにしているんですか?」

具体的な内容や展開についてはネタバレを避けるため深く触れられませんが、巻末の解説を読むと、そういった箇所やモチーフに対する言及があるようです。この解説が示唆するところには、両作品間の微妙な関係性や、作者の意図を読み解くヒントが隠されているかもしれません。

■参加者が盛り上がったところ

「1930年代の冒険ものの雰囲気。少年探偵団。ルパン。ホームズのような……」

この小説を読むと、1930年代の冒険物語が頭に過ぎったそうです。それは少年探偵団、ルパンやシャーロック・ホームズの冒険を彷彿とさせる……。その独特の雰囲気やキャラクターたちの駆け引き、謎解きのプロセスが読者を引き込み、ワクワクするような興奮を感じさせます。

■この本をより楽しめる情報

早川書房がこの夏、熱烈に推し進める「夏の出版社イチオシ祭り」で取り上げられている本作。エドワーズは、評論『探偵小説の黄金時代』においてその鋭い洞察力で多くの読者から高評価を受けており、2020年にはその業績が称えられ、CWAダイヤモンド・ダガー賞(巨匠賞)を受賞しています。

そんな著者の深い知識と独自の筆致が詰まった本作は、ミステリーファンとしては読んでみたくなる1冊です。


大宇宙を継ぐ者 / K.H.シェール , クラーク・ダールトン (ハヤカワ文庫)

■今も広がり続ける歴史的な大宇宙の物語を読みたいあなたにおすすめの1冊

ペリー・ローダンを含む4人の宇宙飛行士を月へ送った。彼らは高度な文明を持つ異星人、アルコン人と遭遇。帰還後、アルコン人の助けで地球統一政府を建設し、銀河航行種族の攻撃を退ける。地球人類は大宇宙で他種族との関係や困難を経て拡大していく。――

興味深い質問

「全シリーズ読んでる人って、いるんですか?」

本シリーズは、1961年にドイツで初めて刊行されたもので、SF界では世界最長とも称されるスペースオペラ小説シリーズとして知られています。驚くべきことに、現在でも連載が続いるそうです。

そんな壮大なシリーズを、日本で初めから最新作まで追い続けて読んでいる読者が実際に存在するのか? という興味深い問いかけがありました。
「実際に全巻を読んでいる方がいるとは断言できませんが、このような歴史的な作品を読み続けているファンは、おそらくいるでしょう」真実は、謎のままです。

■参加者が盛り上がったところ

「クトゥルフ神話やスターウォーズ」

H.P. ラブクラフトの『クトゥルフ神話』や映画『スターウォーズ』のように、その世界観と詳細に練られた設定を持つ作品群が存在します。このような作品は、多くの場合、その壮大な設定を活かして、異なる作家やクリエイターたちによってさまざまな物語が生まれるプラットフォームとしての役割を果たしています。

ペリーローダンのシリーズも、このようなプラットフォーム型の作品の一つです。その壮大なスケールと複雑な設定のため、一人の作家だけで何十年も書き続けていくのは非常に困難です。シェアされた世界観は、30人以上の作家にものぼります。

■この本をより楽しめる情報

このシリーズは週間という驚異的なペースで掲載され、既に600巻以上もの膨大な作品群を誇っています。この圧倒的な数とスピードにより、ギネス世界記録にも認定されたことがあるこの作品は、読書の世界においてまさに特異な存在です。

興味を持った方は、一度体験してみるのはどうでしょうか?


異常【アノマリー】 / エルヴェ ル・テリエ (早川書房)

■想像を絶する”異常事態”を読みたいあなたにおすすめの1冊

殺し屋、ポップスター、売れない作家、軍人の妻、がんを告知された男……なんのつながりもない人びとが、ある飛行機に同乗したことで、運命を共にする。飛行機は未曾有の巨大乱気流に遭遇し、乗客は奇跡的に生還したかに見えたが――。ゴンクール賞受賞作

引用元:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「”異常”な事態とはなんだと思います?」

この小説を手にすると、その表紙には「あらすじ検索厳禁」という帯が巻かれています。紹介者がこの作品についての話をする際、内容については注意が必要です。

紹介者から投げかけられたクイズ形式のこの質問は、参加者たちにとっても新しい体験でした。そのため、会場内は一瞬の静寂の後、和やかな笑いに包まれました。しかし、すぐに深く考え込む表情へと変わり、皆、真剣にその問いに答えを見つけようとしました。

■参加者が盛り上がったところ

「あらすじ厳禁」

この小説の帯には、目を引く大きな文字で「あらすじ厳禁」と書かれています。以前、RENSの読書会でこの作品を紹介した際、内容の要約やストーリーの核心に触れることは避けられました。その代わりに、物語に登場するキャラクターたちの性格に焦点が当たりました。

今回は、キャラクターの経歴や職業を手がかりに、巧妙に物語の背景や深層を解明しようという試みが始まりました。

■この本をより楽しめる情報

ゴンクール賞受賞作。

帯にもあるとおり、普通の群像劇と思いきやとんでもない”異常事態”が起きます。
その事件には驚かされますが、それだけではなく一人ひとりのキャラクターが立っていて、彼らが抱える問題もそれぞれしっかりと描かれています。

しかもその群像劇は各キャラクターに合わせた文体となっているので、読み応えが十分にあります。


嘘と正典 / 小川 哲 (ハヤカワ文庫JA)

■テッド・チャンやヴォネガット好きの読者におすすめしたい現代日本SF小説

稀代のマジシャンが本物の時間旅行に挑む「魔術師」、名馬スペシャルウィークを仰ぐ傑作青春小説「ひとすじの光」など全6篇収録

引用元:版元ドットコム

興味深い質問

「この小説は、万人受けするような内容ではないんでしょうか?」

紹介者がこの小説に対して感じたことは一般的な読者に寄り添うというより、作者自身の情熱や興味を追求して書かれているというものでした。作者の独特な筆致や視点から、これは明らかに「万人受け」を目的とした作品ではなく、むしろ作者が深く掘り下げてきたテーマや趣向が詰まっていると感じたのです。

■参加者が盛り上がったところ

「タイムトラベルものの時間・存在への干渉」

この作品は、あるキャラクターが過去にタイムトラベルして特定の事件を阻止しようとする経緯が描かれています。タイムトラベルをテーマとしたSF作品は、小説や映画の中で数多く取り上げられており、ファンからも非常に人気があります。

しかし、過去の出来事を変えると、その結果として未来の歴史や存在自体が変わってしまうのではないかという点で、いくつかの考察がされました。

■この本をより楽しめる情報

著者は第3回ハヤカワSFコンテストで大賞を受賞し、次の作品『ゲームの王国』で日本SF大賞と山本周五郎賞を獲得。この短編集にもさまざまなジャンルの傑作が収録されています。

また著者自身はテッド・チャンやカート・ヴォネガット好きを公言。


姑獲鳥の夏 / 京極 夏彦(講談社文庫)

■文句なしに面白いオカルト小説(ホラー・ミステリー)を読みたいあなたにおすすめの1冊

この世には不思議なことなど何もないのだよ―古本屋にして陰陽師が憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第一弾。東京・雑司ケ谷の医院に奇怪な噂が流れる。娘は二十箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したという。文士・関口や探偵・榎木津らの推理を超え噂は意外な結末へ。

引用元:「BOOK」データベースより

興味深い質問

「日本のオカルト小説を読んだ中で面白かったベスト3に入るんですか?」

「百鬼夜行シリーズ」を全て読破した参加者によると、幕開けとなる本作。そして続く『魍魎の匣』は、彼がこれまでに読んだオカルト小説の中で特に印象的だったとし、ベスト3に間違いなく入ると強調していました。

ちにみに他の2作品として、中島らも氏の『ガダラの豚』、そして高橋克彦氏の『総門谷』が挙がりました。

■参加者が盛り上がったところ

「メインキャラクター京極堂と関口の会話」

序盤に続く京極堂と関口の奥深い会話の中がこの作品のエッセンスとも言えます。一見、本筋とは関係なさそうな話題が語られますが、それぞれが物語の中で重要な伏線として機能しています。

その長大な会話の中で、微妙なヒントがちりばめられているのですが、その量と深みのため、真実は読者から巧みに隠されています。こうした会話は、単に怪異や科学の話題だけでなく、宗教、心理学、民族学、哲学、そして社会が共有する幻想など、多岐にわたるテーマを取り入れています。

この会話の部分が、物語の中で非常に重要な役割を果たす導入部分となっており、これを楽しめるかどうかが、京極夏彦ワールドをどれだけ受け入れられるかのバロメーターとなるでしょう。

■この本をより楽しめる情報

「百鬼夜行シリーズ」の第一弾、これがシリーズの始まりであり、キャラクターたちの魅力は早くも際立っていました。その存在感は、初めから読者を引き込む力を持っていたのです。実は、この作品は京極夏彦氏が講談社に提案した際、その独特な世界観と物語の魅力が評価され、メフィスト賞の創設の背景にもなった名作として知られています。


【まとめ】

今回の読書会は、ホラー、ミステリー、そしてSFという三大ジャンルを網羅する非常に充実したものとなりました。参加者たちは、それぞれのジャンルの名作や隠れた名作、さらには最新の話題作まで、幅広い範囲の小説について熱心に話されました。

来月は通常の紹介型読書会のほかに課題本バルザックの『ラブイユーズ』読書会も開催を予定しております。どうぞよろしくお願いいたします。

『ラブイユーズ』読書会はこちら


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