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読書会 2023年4月1日

再読したくなる小説というのはどのような魅力があるのでしょうか。
今回は、再読したことのある小説に限定して読書会を開催しました。
1度読んだだけでは物語のすべてを理解することは困難です。2回目読んでみると新しい発見をしたというこは少なくありません。

初めて読んだときに気づかなかった鋭い描写や伏線が再読することで明らかになり、物語の深みが増します。はたまた注目していなかった登場人物たちの魅力に惹かれることも……。

ということで、どんな再読ポイントがあるのでしょうか、紹介された本はこちらです。


猫の舌に釘をうて / 都筑 道夫
(徳間書店)

■”束見本”に書かれた昭和の香りが漂うミステリを読みたいあなたにおすすめの1冊

一人三役の奇妙な殺人事件+非モテ男の残酷な

「私はこの事件の犯人であり、探偵であり、そ
してどうやら被害者にもなりそうだ」。非モテ
の三流物書きの私は、八年越しの失恋の腹いせ
に想い人の風邪薬を盗み〝毒殺ごっこ〟を仕組
むが、ゲームの犠牲者役が本当に毒死してしま
う。誰かが有紀子を殺そうとしている! 都筑
作品のなかでも、最もトリッキーで最もセンチ
メンタル。胸が締め付けられる残酷な恋模様+
破格の本格推理。史上初の文庫連載、幻の「ア
ダムと七人のイヴ」第2話も特別収録。

引用元:(版元ドットコム)より

■なぜこの小説を再読したのですか?

「2度目に読んだときに読み心地の良い印象に変わったからです。それで3度目を読みました」

これぞ再読の醍醐味です。

紹介された方が初めて読んだ時は、物語のトリックや仕掛けに気を取られたため、細部に注意を払う余裕がなかったようです。しかし、2度目に読むと、新たな発見があり、物語の細部に注目できるようになったそうです。そして、その読み心地の良さから再度熱中し、3度目の読書に至ったということです。

■参加者が盛り上がったところ

「束見本(つかみぼん)ってご存じですか?」
「束見本」とは、製本加工物や外ケースが必要な時に作るサンプルのような本です。実際の製本時と同じ紙を使って試作し、本の厚みや重さ表紙や本文、口絵や扉などを正確に把握できます。

実はこの小説『猫の舌に釘をうて』、このつかみ本に書かれたメモが物語になっているようです。
私も含めて”つかみ本”がどういうものか知らなかった参加者にはとても興味深い内容でした。

また、“探偵であり犯人であり被害者゛という点から、ミステリ論にも発展しました。
例えば、アンフェアなミステリ(推理)小説とはどのようなものか、作者が意図的に情報を操作することの公平性や、嘘を書いてもいいのかなど、話題が広がりました。

■この本をより楽しめる情報

「作中で描写される当時(昭和30年代)の風景・生活文化が秀逸です」トリック以外にも読み応えがあるといえます。

この小説『猫の舌に釘をうて』は、東京創元社から出版されているフランスの推理小説家ジャプリゾ・セバスチアンの『シンデレラの罠』との共通点があるそうです。その点についても気になるところです。

『第54回日本推理作家協会賞』や『第6回日本ミステリー文学大賞』を受賞している著者の中でも傑作と名高いこの小説。紹介された方も3度も再読した想い入れのある作品なので、興味のある方はどうぞ!


こころ / 夏目 漱石
(新潮社)

■日本を代表する大文豪の小説を読みたいあなたにおすすめの1冊

親友を裏切って恋人を得たが、親友が自殺したために罪悪感に苦しみ、自らも死を選ぶ孤独な明治の知識人の内面を描いた作品。鎌倉の海岸で出会った”先生”という主人公の不思議な魅力にとりつかれた学生の眼から間接的に主人公が描かれる前半と、後半の主人公の告白体との対照が効果的で、”我執”の主題を抑制された透明な文体で展開した後期三部作の終局をなす秀作である。

 引用:「版元ドットコム」より

なぜこの小説を再読したのですか?

「以前読書会で『物語の序盤、先生の性別がわかないように描写されている?』という話題になったので、それを確かめるために再読しました」

紹介された方は、再読してもやはり先生が女性であるイメージはできませんでした。

■参加者が盛り上がったところ

「海水浴場で仁王立ちの西洋人の横に女性がいると思いますか?」

ひと際目立つ猿股一つの西洋人。
時代背景として当時(おそらく明治末期 or 大正初期)の女性がこのような大胆な格好をした西洋人のすぐ傍で、超然とした態度でいられるはずがない! でした。

ほとんど裸に近い姿で「仁王立ち」という力強いワードが何度も飛び交いました。

■この本をより楽しめる情報

教科書にも載っている日本を代表する小説『こころ』は明治時代末期に書かれました。

日本が急速に近代化を進め、西洋文化が取り入れられた時期でもありました。小説の中で描かれる登場人物たちが抱える問題や、彼らの行動や言動を理解するために、当時の社会情勢や思想に触れられます。


海底二万里 / ジュール・ヴェルヌ
(偕成社)

■いつまでも少年少女の冒険心を大切にしたいあなたにおすすめ1冊

フランスの博物学者アロナクス教授は、謎の人物ネモ船長がひきいる巨大潜水艦ノーチラス号にとらわれ、海底の冒険旅行にまきこまれる。驚異に満ちた世界を旅する、傑作冒険小説。完訳版。

引用元:「偕成社HP」より

なぜこの小説を再読したのですか?

「初めて読むキッカケになったのは、小学生の頃に行ったディズニー・シーでした」

ディズニー・シーに『海底二万里』のアトラクションがあるのは知りませんでした。あたかも海底探検隊の一員になったかのような気分を味わうことができるのでしょうか。

紹介された方は、そのアトラクションが面白かったらしく、小説を読み始めたそうです。そして何度も再読することに。

■参加者が盛り上がったところ

『海底二万里』という作品でつながる

紹介された方は、映画『バックトゥザフューチャー』を観ていたときも『海底二万里』に出会いました。この映画の中に登場する科学者ドクが『海底二万里』について触れているシーンがあるそうです。

ほかの参加者もバックトゥザフューチャーはもちろん知っていましたが、そのシーンについては覚えていませんでした。それにしてもドクっていいキャラクターですよね。

■この本をより楽しめる情報

この小説は1870年に発表されました。
執筆されたのはおそらくそれよりも前で、日本は江戸時代や明治時代でした。ヴェヌルにはすでに、潜水艦で海底を冒険するという構想があり、その文化や科学技術の差に驚かされます。

そしてこの『海底二万里』から数多くの関連作品が生まれました。
『ふしぎの海のナディア』もそのひとつです。ノーチラス号やネモ……懐かしさがこみ上げてきます。


あまりにも騒がしい孤独 / ボフミル・フラバル(松籟社)

■シュールで喜劇的、”三十五年間”働く主人公に共感したいあなたにおすすめの1冊

20世紀チェコを代表する作家ボフミル・フラバルの代表的作品。
 ナチズムとスターリニズムの両方を経験し、過酷な生を生きざるをえないチェコ庶民。その一人、故紙処理係のハニチャは、毎日運びこまれてくる故紙を潰しながら、時折見つかる美しい本を救い出し、そこに書かれた美しい文章を読むことを生きがいとしていたが……カフカ的不条理に満ちた日々を送りながらも、その生活の中に一瞬の奇跡を見出そうとする主人公の姿を、メランコリックに、かつ滑稽に描き出す、フラバルの傑作。

引用元:版元ドットコム

なぜこの小説を再読したのですか?

「三十五年。この三十五年間という言葉を耳にして再読しました」

『あまりにも騒がしい孤独』には”三十五年間”という書き出しが多くあります。これは主人公であるハニチャが故紙処理係として働いた年数です。
会社の平均的な定年退職は何歳なのでしょうか? 三十五年間働いたという人の話を聞いて、主人公のハニチャと重ねあわせ、また再読したくなりました。

■参加者が盛り上がったところ

「ビールがぬるいんです」

作中にはビール醸造所や、主人公ハニチャがビールを大量に飲酒している描写があります。著者であるフラバル自身もビール醸造所で幼少期を過ごしています。

ところでヨーロッパには常温でビールを飲む習慣があり、この話で盛り上がりました。やっぱり冷えたビールが一番です。

■この本をより楽しめる情報

時代背景は「プラハの春」以降のチェコです。当時の状況が物語にも色濃く映し出されています。思想書は発禁処分になり、それらは世に出回ることがありませんでした。

それにしても主人公の語り口調や、比喩がとても素晴らしく、それだけでも何度も読み直したくなります。


夜の床屋 / 沢村 浩輔 (東京創元社)

■論理の飛躍を楽しめる”日常の謎”を読みたいあなたにおすすめの1冊

第4回ミステリーズ!新人賞受賞作の「夜の床屋」をはじめ、四季折々の「日常の謎」に予想外の結末が待ち受ける、新鋭による不可思議でチャーミングな連作短編集全7編。

引用元:「版元ドットコム」より

なぜこの小説を再読したのですか?

「この『再読読書会』に参加するために再読しました」
理由が前後しているようにも思いますが、嬉しい限りです。ありがとうございました!

■参加者が盛り上がったところ

「日常の謎」

RENSの読書会に何度か登場したこのワード。覚えています。ミステリー小説における「日常の謎」が好みかどうかの話になりました。

この小説、山道で迷った大学生が無人駅で一泊するらしく、この大学生的なノリがまたいい雰囲気らしいです。行き当たりばったりに行動することで、予想外の出来事や巻き込まれていくのもまた一興です。

■この本をより楽しめる情報

この小説、『第4回ミステリーズ!新人賞』を受賞しています。しかしあまり話題にならなかったそうです。紹介された方によると「派手さはありませんが、評価は高い」とのことでした。



【まとめ】

再読したいような小説があるということは、その小説がその人にとって本当に素晴らしい作品であると思います。そして、再読することで、その作品がまた読書ライフを豊かにしてくれます。

私も再読したいような小説をたくさん増やしたいですし、それらを大切にしています。再読することで、また新しい発見や感動が待っています。

再読小説はフリージャンルなので、また機会があれば開催したいと思います。


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