フリージャンル読書会で紹介された『トゥルー・ストーリーズ』 / ポール・オースター(2023年2月17日)
ユーモア溢れる不思議なエッセイを読みたいあなたにおすすめの1冊です。
著者であるポール・オースターは私が好きな小説家のひとりです。今回はフリージャンルの読書会ということで、小説ではなくエッセイを紹介してくれました。
紹介された方はポール・オースターの代表作である『ムーン・パレス』や『ニューヨーク三部作』は途中で読むことやめてしまったそうです。が、その文章の巧みさや世界観には良い感触があったようなので、また読みたいと思っていたところこの『トゥルー・ストーリーズ』に出会ったとのことでした。
偶然や奇跡的な一致
ポール・オースターの小説を読んでいて度々感じるのは、偶然性の高いエピソードです。偶然知り合いだった、窮地から奇跡的な救済があった。また逆もしかり。
小説家の中には、物語(特にミステリー小説や推理小説)の中にある『偶然』を排除しようとすることともあります。1度目の偶然はいいが、2度目はない……。
しかし、ポール・オースター自身はこの「偶然の一致」に重要性を見出し、現実だからこそ起こる偶然の物語を描いています。
このエッセイも不思議なテイストに仕上がっているに違いないと思いながら話を聞きました。
【あらすじ】
ちょっとした偶然。人知を超えた暗合。ときに茫然とし、ときに立ち尽くしたその瞬間を人は容易に忘れるが、作家は忘れない。自らの体験を元に驚くべき偶然の連続を、しかし淡々と綴る名作「赤いノートブック」を始め、無名時代の貧乏生活を軽やかに描く「その日暮らし」、9.11直後のNYに捧げた「覚え書き」など、柔らかななにかも力強い声が聞こえる傑作エッセイ集ーー
(引用元:版元ドットコム)より
『トゥルー・ストーリーズ』は日本独自編集ということでポール・オースター自身が要望した内容になっています。
明るい貧乏エピソード
紹介された方はポール・オースターに対して天才的な文体や作風でありながらどこか”冷たさ”がある印象を持っていました。しかし、このエッセイ集を読むとイメージは一転したそうです。
貧乏生活を悲観的ではなく、明るく描いている点がそうさせました。
ポール・オースターが作家として大成する前の貧乏エピソードは、貧しい生活や経済的な苦労があったにもかかわらず、ユーモアを交えることで深刻さを回避しています。
その”ユーモア”という点においては高い表現力を持っているのがポール・オースターという作家です。
カードを使った野球ゲームを考案
「野球は好きですか?」
「はい、テレビで見たりしますよ。ちなみに阪神ファンです」
貧窮から起死回生の脱出を試みたポール・オースターが金儲けの策として考えたのが、野球のカードゲームでした。細かいルールや条件はわかりませんが、投手や捕手、一塁者などがカードの数字で表されているカードゲームです。
このカードゲームの陳腐さにポール・オースターという作家が身近に感じられました。
映画
『スモーク』『ブルー・イン・ザ・フェイス』や『ルル・オン・ザ・ブリッチ』といった映画の脚本や監督も手掛けているそうです。紹介された方は、映画だけではなく小説の方もまた読みたいと思うような満足感が得られたそうです。私もポール・オースターが好きなので嬉しく思いました。
アメリカの小説家でポスト・モダンの担い手とも言われ、ノーベル文学賞も期待されいる著者の活躍が今後も楽しみです。