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小説限定(ジャンルは自由)読書会 2024年1月27日(土)

2024年第二回目もジャンルは自由な小説限定読書会を開催しました。
ジャンルにこだわらないこの読書会では、様々な背景を持つ多彩な小説について話がされました。

紹介された小説たちは以下です!

内容にはネタバレも含んでいますので、ご注意下さい。


イギリス人の患者 / マイケル・オンダーチェ (創元文芸文庫)

■映画との比較、詩的な小説を楽しむあなたにおすすめの1冊

砂漠に墜落し燃え上がる飛行機から生き延びた男は顔も名前も失い、廃墟のごとき屋敷に辿り着いた。世界からとり残されたような場所へ、ひとりまたひとりと訪れる、戦争の傷を抱えたひとびと。それぞれの哀しみが語られるとともに、男の秘密もまたゆるやかに、しかし抗いがたい必然性をもって解かれてゆく──

引用元:「東京創元社」より

■興味深い質問

「読みにくくはないんですか?」

物語の中で複数の視点に導きます。通常の章分けに頼らず、章の中でさえも語り手が変わることで、初めは読み手を混乱させるかもしれません。が、それもこの作品の魅力の一部です。各キャラクターの独特な視点から物語が展開されることで、読者はそれぞれの登場人物の感情や行動がわかります。

そして著者の独自の表現スタイル、言葉選びや文体は、詩的で豊かなため、読者をその世界に引き込みます。

■参加者が盛り上がったところ

「映画を観てから小説を読んだ方がいいのかもしれません」

この小説は、『イングリッシュ・ペイシェント』(イギリス人の患者)として映画版も有名です。
レイフ・ファインズやスコット・トーマスといった一流の俳優たちの圧倒的な演技が、光っているようです。映画を観た後に小説を読むと、その情景がわかりやすく読解を深める手助けとなります。

一方で、小説を読んでから映画を観るという選択肢は?
「うーん、どうでしょう」と。
結局のところ、映画と小説のどちらを先に体験するかは個人の好みによりますが、どちらの順番でも『イングリッシュ・ペイシェント』の魅力を十分に味わうことができるでしょう。

■この本をより楽しめる情報

2024年の創元文芸文庫では、ブッカー賞受賞の『イギリス人の患者』がラインナップに含まれています。ブッカー賞は日本でも注目され、2018年には50周年を記念してゴールデン・マン・ブッカー賞が開催されました。


八月の御所グラウンド / 万城目 学 (文藝春秋)

心温まる奇跡や運命に惹かれるあなたにおすすめの1

死んだはずの名投手とのプレーボール
戦争に断ち切られた青春
京都が生んだ、やさしい奇跡
女子全国高校駅伝――都大路にピンチランナーとして挑む、絶望的に方向音痴な女子高校生。
謎の草野球大会――借金のカタに、早朝の御所G(グラウンド)でたまひで杯に参加する羽目になった大学生。
京都で起きる、幻のような出会いが生んだドラマとは--

 引用:「文藝春秋BOOKS」より

興味深い質問

「感動しました? 泣きました?」

この中編小説には、青春の輝きと挑戦を描いた2つの物語が含まれています。特に、高校女子駅伝をテーマにした作品は、若さのまっすぐな感情が生き生きと描かれており、読者をその熱い心情に引き込みます。登場人物たちのひたむきさと献身的な努力は、終始読者の心を洗い、深い感動を与えます。

「泣いた?」
「めっちゃ感動しましたけど。涙は出ていません。泣いていませんよ」

■参加者が盛り上がったところ

「京都の魅力」

この物語は神秘的な京都を舞台にしており、その街並みが細部にわたって描かれています。古都のお寺や神社、石畳の道、そして鴨川、読者を時間を超えた不思議な世界へと誘います。また京都の古い町並みがただの背景ではなく、その雰囲気が物語全体に溶け込んでいます。

「また同世代の京都の作家といえば森見登美彦さんも不思議な世界を描きますよね」
「『四畳神話体系』でしたっけ」

■この本をより楽しめる情報

16年の時を経て、ついに直木賞を受賞したこの作品も京都を舞台にした感動の物語です。『鴨川ホルモー』で知られる著者が、6度目の直木賞候補を経て、その卓越した文才でこの栄誉を手に入れました。

歴史と現代が交差する京都の街で繰り広げられる物語は、読者の心に残る感動的なものになることでしょう。直木賞受賞作としての賞賛に値する、心温まる一冊です。


万事快調〈オール・グリーンズ〉 / 波木 銅 (文藝春秋)

■ヒップホップな青春小説を読みたいあなたにおすすめ1冊

主人公は北関東の“クソ田舎”の工業高校に通う朴秀美。
地元の閉塞感や機能不全を起こした家族に絶望し、
ヒップホップとSF小説を心の逃げ場としていた彼女は、
ある出来事を機に〈大麻の種〉を入手する。
これがあれば今の状況から逃げ出せるかもしれない――。
そう考えた朴は似たような境遇のクラスメイトたちと、
学校の屋上で大麻を育て売り捌く計画を始める。
はじめは順調に思えた彼女たちの“ビジネス”だが、
危険は静かに迫り――。

引用元:「文藝春秋BOOKS」より

興味深い質問

「オール・グリーンとは?」

「倫理観は置いておいて、大麻の隠語です」この物語の中心にあるのは、「大麻」です。
タブー視されるこの題材を、作品は独自の切り口で爽快な青春小説に昇華しています。

帯に記載された「とにかく金がいる! だったら大麻、育てちゃえ(学校の屋上で)。」という一文、大胆さとユーモアを象徴しています。学校の屋上というありきたりでない場所で大麻を育てるというアイデア、一見すると軽率ですが、若者たちのリアルな悩み、夢、そして現代社会の問題点を鋭く描き出しています。

強く記憶に刻まれました。

■参加者が盛り上がったところ

「サンプリング文化」

ヒップホップとラップの要素があります。特に、ヒップホップの曲制作におけるサンプリング技術「すでに存在している楽曲から、エッセンスを切り取って、ビートにのせる技術」も描かれています。

このユニークな音楽的手法を物語の構造に取り入れており、多くの引用や文化的な表現があります。読者は、ヒップホップの音楽が持つリズムと韻律を、文字の世界で再体験することができます。作中でのサンプリングは、単なる音楽的技法ではなく、登場人物たちの感情やストーリーの展開を豊かに表現するための独特の手段として使用されています。

新しくて、激的な一冊。

■この本をより楽しめる情報

『八月の御所グラウンド』とは全く異なるテーマとスタイルで描かれるこの青春小説は、ラップ、ヒップホップ、ギャルカルチャー、そして「グリーン」という独特の要素を取り入れ、新たな青春の形を描き出しています。この作品は、その斬新なアプローチと鮮やかな描写により、満場一致で第28回松本清張賞を受賞しました。


タスキ彼方 / 額賀 澪 (小学館)

■極限の中、駅伝の魅力を堪能したいあなたにおすすめの1冊

 ボストンマラソンの会場で、とある選手から古びたボロボロの日記を受け取った新米駅伝監督・成竹と学生ナンバーワンランナー神原。それは、戦時下に箱根駅伝開催に尽力したとある大学生の日記だった。その日記から過去を覗いた二人が思い知ったのは、美談でも爽やかな青春でもない、戦中戦後の彼らの壮絶な軌跡。そこには「どうしても、箱根駅伝を走ってから死にたい」という切実で一途な学生達の想いが溢れていた。――

引用元:「小学館」より

興味深い質問

「どうやって駅伝やタスキの概念を説明したんですか?」

この物語は戦時下と戦後の日本を舞台にしており、そこでは駅伝やタスキという独特な日本の文化がGHQに伝えるシーンが少しだけ描かれています。”駅伝”や”タスキ”という日本固有の概念をGHQにどのように伝え、その価値を認めさせたのか気になりました

文化的な壁、日本の伝統とアイデンティティをどのように守り、伝えたのか。

■参加者が盛り上がったところ

「戦争に行ったらそれで終わり……」

戦時中、後の日本を背景に、駅伝のランナーたちが直面した極限の状況が書かれています。徴兵によって彼らの日常生活が一変し、好きなランニングさえも制限される厳しい環境の中で、駅伝大会をどのように維持し、続けることができたのか。

更に、ランナーたちが戦争に行き、もう帰ってこられない可能性という重い現実も深く刻まれています。戦争という過酷な現実の中で、彼らがどのようにして自分たちの情熱を保ち続けたのか、言葉がでません。

■この本をより楽しめる情報

『タスキメシ』シリーズ。駅伝に関する深い知識と洞察をもって描かれたベストセラーシリーズ。駅伝関係者はもちろん、多くの読者を魅了しています。このシリーズは、リアルな競技描写とランナーたちの心理風景を巧みに表現し、駅伝の魅力を存分に伝えてきました。そして、今回の作品でもそれが健在です。


ホーム / トニ・モリスン (早川書房)

■人種問題に興味のあるあなたにおすすめの1冊

元兵士のフランクは戦争の悪夢から逃れられず虚ろな日々を送っていた。しかしある日、妹のシーが勤め先で病床にあるという知らせが彼のもとに届く。シーを迎えに行ったフランクは、ともに帰郷しようと決める。小さく息苦しかった故郷の町、ロータスを出たいがために、 昔の彼は入隊したのだが……。 1960年代のアメリカを舞台に傷を負った兄妹の旅路を描いた、ノーベル賞作家による静かな慰めに満ちた物語。——

引用元:「Hayakawa Online」より

興味深い質問

「時代背景は?」

この物語は、第二次世界大戦後の混乱と朝鮮戦争の影響を受けた時代を背景に、疲弊した元兵士である兄妹の葛藤を描いています。朝鮮半島における韓国、朝鮮、ソビエト連邦、アメリカの間の複雑な政治的対立。その背景があり戦後、彼らの運命を大きく左右します。

■参加者が盛り上がったところ

「トニ・モリンに共通するテーマ」

トニ・モリスンの作品では、人種差別という普遍的で深刻な問題が鋭く描かれています。彼女の作品は、人種差別が単に人種間の問題に留まらないこと、そして人種内部においても複雑な形で存在することを明らかにしています。このような多面的な視点は、物語の語り口やテーマが読者に思考を促します。

■この本をより楽しめる情報

このピュリッツァー賞およびノーベル賞を受賞したアフリカン・アメリカの女性作家。人種差別という深刻な社会問題に鋭敏に焦点を当てています。著者の経験からリアルな描写で表現し、人種差別の根深さを描き出しています。


【まとめ】

今回の読書会では、それぞれ異なる時代背景とテーマを持ち、参加者たちから多様な感想が飛び交いました。映画との比較、文化的な背景、人種差別の問題など、興味深かったです。

さて、今後の読書会も色々と考えておりますので、興味のある方はご連絡ください!

↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓今後の読書会スケジュール↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓


2月11日(日)歴代『本屋大賞』(ノミネート作品含む)
2月17日(土)小説限定
2月23日(金)『芥川賞・直木賞』(最終候補作品含む)
3月17日(日)『青い脂』ウラジーミル・ソローキン
G・ガルシア=マルケス『百年の孤独』、中上健次『鳳仙花』、オノレ・ド・バルザック『幻滅』


読書会も予定しております。

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