読書会参加者が紹介する「まわりに読んだ人がいない小説」 / (2023年5月27日)RENS(大阪の箕面にある読書空間)
読書会 2023年5月27日
今回は第2回目の開催となった「まわりに読んだひとがいない小説」の読書会です。
自分だけが心躍るような秘めたる名作や、まわりに読んだ人がいないような隠れた小説に出会うことがあります。
そんな作品を見つけた時、一人でその魅力を味わうのも素敵ですが、まだ知られていない名著や作品について、誰かと話すのも楽しいと思います。
ということで、紹介された小説はこちらです。
未必のマクベス / 早瀬 耕(ハヤカワ文庫JA)
■香港が舞台の恋愛✗犯罪小説を読みたいあなたにおすすめの1冊
IT企業Jプロトコルの中井優一は、東南アジアを中心に交通系ICカードの販売に携わっていた。同僚の伴浩輔とともにバンコクでの商談を成功させた優一は、帰国の途上、澳門の娼婦から予言めいた言葉を告げられる―「あなたは、王として旅を続けなくてはならない」。やがて香港の子会社の代表取締役として出向を命じられた優一だったが、そこには底知れぬ陥穽が待ち受けていた。異色の犯罪小説にして、痛切なる恋愛小説。
引用元:「BOOK」データベースより
以前RENSの読書会で紹介された『彼女の知らない空』に続いて、早瀬耕氏を代表する作品が再び登場しました。
■興味深い質問
「『未必のマクベス』とは、どういう意味ですか? 『未必の故意』?」
紹介された方は『未必の故意』をドラマ『相棒』で知ったようです。
「未必の故意」とは、犯罪をするつもりはないけれども、犯罪の可能性があることを知りながら、それでもかまわないと思っている状態。
プラス『マクベス』です。いわずと知れた劇作家・詩人ウィリアム・シェイクスピア“4大悲劇”の一つです。この『マクベス』が物語にどう関わってくるのでしょうか。お楽しみです。
■参加者が盛り上がったところ
「その子会社に出向して、生きて帰ってきた者はいない……」
まるでホラー小説のようなフレーズ。あらすじにもある通り、主人公が香港の子会社に出向するところから物語が大きく動きます。殺し、スナイパー、死の匂い。「時代は現代?」「IT企業で起こった事件とは思えない!」
ハードボイルドやクライムノベルのような世界観ながら、恋愛要素も追加。スリリングな犯罪や陰謀に巻き込まれた主人公、ヒーロータイプではなくどこか優柔不断な面も持つ? この物語をまとめあげているのは言葉が綺麗で読みやすい著者の筆力だと紹介された方は言いました。
■この本をより楽しめる情報
第17回の『大藪春彦賞』の候補作ともなった本作。以前紹介された『彼女の知らない空』とも毛色が違います。紹介者いわくどちらかと言えば男性の方が楽しめるのかもしれません。ということですが、恋愛要素もあり、ひとつの切り口だけでは語れない魅力が備わっています。
エタンプの預言者 / アベル・カンタン (KADOKAWA)
■人種差別や社会問題を考えるあなたにおすすめの1冊
かつてタレント歴史学者を夢見たロスコフは、落ち目だった。95年に「冷戦下米国のソ連スパイ事件」を巡る書籍を刊行したが、翌日CIAが機密解除、本は一夜にして紙くずに。妻とは離婚し大学を退職、酒浸りだったロスコフは、同性愛者の娘のフェミニストの恋人に刺激され、研究を再開、サルトルやボリス・ヴィアンと親交があったアメリカの詩人・ウィローについての書籍を刊行する。客わずか5人の出版記念トークショーの席上、ロスコフはウィローが黒人であることを記述しなかった理由を問われる。翌朝掲載された匿名のブログ記事が炎上し、ロスコフはレイシストだという非難にさらされる。さらに自分を擁護するツイートに返信したロスコフは、炎上を煽ってしまう。ツイートした知人は、極右政党に入党していたのだ――。
引用:「版元ドットコム」より
■興味深い質問
「『ラヴクラフト・カントリー』とのつながりは?」
まず紹介された方がなぜこの『エタンプの預言者』を手に取ったのか? 遡ると『ラヴクラフト・カントリー』/マット・ラフを読んだことが心の片隅に残っていて、それが読む動機となったようです。
『ラヴクラフト・カントリー』のあらすじは割愛しますが、この小説には人種差別の問題が描かれている箇所があるそうです。また『エタンプの預言者』にも共通する人種間の問題が浮かび上がっています。
■参加者が盛り上がったところ
「日本の視点からみる海外の人種問題」
人種差別は長い歴史を持つ社会問題であり、様々な経済的、政治的、文化的な要素と絡み合っています。そのため、人種差別問題は単純には語ることが難しかったです。
読書会の参加者は全員が日本人でした。異なる文化や背景を持つ人々がかかわる人種差別問題に対するアプローチに誤解や、言葉が適切に伝わらなかったりすることに懸念があります。
人種差別について公正かつ効果的な対話を行うためには、十分な知識や言葉の選び方、文化の尊重等が必要でした。
またこの小説中盤まで登場人物が黒人であることが判明しません。このあたりがカズオ・イシグロ氏の『わたしを離さないで』に似たような書き方だと感じたそうです。
■この本をより楽しめる情報
フランスの文芸賞「フロール賞」の受賞作です。将来が期待される若者に贈られる賞ですので、今後も注目したい作家のひとりです。また、フランスの権威ある文学賞「ゴンクール賞」「フェミナ賞」ほか数ある賞の候補作にもなったようです。
ジェルミナール / エミール・ゾラ(論創社)
■このシリーズを読めば当時のフランスが全てわかる1冊
近代産業社会の資本と労働の相剋!資本家と労働者の対立はその家族をも巻き込んだ過酷なストライキに突入する。
引用元:「BOOK」データベースより
■興味深い質問
「家系図はありますか?」
「ネットで調べればすぐに出てきますよ」
『ルーゴン=マッカール叢書』は、ルーゴン家とマッカール家の者が複数作品に登場します。このシリーズは、一つの大きな物語体系を構築し、それぞれの作品が独立したストーリーとして読むことができる一連の作品であり「いうなればスピンオフ集のようなものです」
論創社から出版されているこの本、一般的な単行本サイズとは違って正方形に近い形をしています。特別感のあるシリーズだということがすぐにわかりました。
■参加者が盛り上がったところ
「落盤の描写」
特にその描写の迫力と臨場感は目を引くようです。このシーンは、細部にわたって緻密に描かれていて、読者を圧倒させるために工夫を凝らしたものでしょう。そのため、文学の愛好家や批評家の間では広く知られているようです。
ほかにも貧困の描写が光ります。当時のフランス社会における貧困層の生活や状況がリアルかつ痛烈に描かれており、社会的な問題や不平等に対する洞察が窺えます。
■この本をより楽しめる情報
フランス第二帝政下の社会をすべて描き尽くそうとする野心的な試みでもある『ルーゴン=マッカール叢書』全20作。有名な『居酒屋』と『ナナ』も含まれています。
『ジェルミナール』はそのうちのひとつで、第13巻にあたります。プロレタリア文学として炭鉱労働者のありのままを描いています。
オズの魔法使い / ライマン・フランク・ボーム(岩波少年文庫)
■1900年前後のアメリカが比喩として描かれた1冊
大竜巻に家ごと空高く吹き上げられた少女ドロシーは、愛犬トトとともに不思議なオズの国へ着陸しました。かかし、ブリキの木こり、おくびょうなライオンが仲間に加わって、一行はエメラルドの都をめざします。
引用元:「BOOK」データベースより)
■興味深い質問
「『オズの魔法使い』って続いているんですか?」
一般的に知られている『オズの魔法使い』は実はシリーズ化されていて、すべて合わせると13、4作品ほどあるようです。
■参加者が盛り上がったところ
「オズ王国はアメリカを表している」
カカシは”脳”、ライオンは”勇気”、ブリキの木こりは”心”、そしてドロシーは”素直さ”。参加者の中には小学生の頃に『オズの魔法使い』を読んで「なんてわかりやすい例えなんだ!」と思ったそうです。
児童書として、また教育関係の教材にもなっているそうです。紹介者いわく、自己啓発本『人を動かす』のD.カーネギーとも同じようなことを主張してる、そうです。
■この本をより楽しめる情報
この作品は当時のアメリカ社会や政治状況に対するメタファーとして読み解くことができます。
物語の中にアメリカ合衆国の実態や社会的なテーマを巧みに取り入れています。そのため、この作品の背景やつながりについて深く探求すればするほど、当時の時代背景や社会の側面に対する理解が深まり、興味深さを感じるのではないでしょうか。
六枚のとんかつ / 蘇部 健一(講談社文庫)
■占星術殺人事件を読んだ後の息抜きにおすすめの1冊
空前絶後のアホバカ・トリックで話題の、第3回メフィスト賞受賞作がついに登場! 新作『五枚のとんかつ』も併録。またノベルス版ではあまりに下品だという理由でカットされた『オナニー連盟』もあえて収録した、お得なディレクターズ・カット版。トリックがバレないように、必ず順番にお読みください。
引用元:「講談社BOOK倶楽部 HP」より
■興味深い質問
「オマージュ作品がもっとあっても良いと思いませんか?」
表題作である『六枚のとんかつ』と『五枚のとんかつ』このふたつの短編は島田荘司氏の『占星術殺人事件』のトリックに深く関係しているそうです。
「占星術殺人事件」のトリックは非常に巧妙なものです。そのようなトリックを一つの作品に限定するのは勿体ないという観点から、オマージュとして他でも使用すべきだという話題になりました。
■参加者が盛り上がったところ
「有能なのか、無能なのかわからない」
この短編集はかなり下品な作品もあり、また主人公が著しく勘違いをするところから滑稽な展開になります。と思っているとキレのある推理で鮮やかに事件を解決することも。
本文にはクイズの出題のようにイラストや時刻表、地図、路線図等が描かれています。これを無能なのか、有能なのかわからない主人公が挑む姿は話を聞いているだけでバカバカしくてたまりません。(褒め言葉です)
■この本をより楽しめる情報
なんと第3回『メフィスト賞』を受賞している本作。紹介者いわくミステリー8:おバカ2の「バカミス」です。
しかもこのシリーズ?『六枚のとんかつ』は『六とん2』『六とん3』と続いていきます。
コアなファンがついています!
個人的には純粋なエンタメ作品としてかなり興味が湧きました。
【まとめ】
今回紹介された作品は様々な時代背景や人種差別問題を取り扱った社会派の作品から、全く方向性の異なる下劣でポップなエンターテイメント作品もありました。
笑わせたり楽しませることも重要だと感じました。そして推しの作家も紹介いただきました、何度も推されているとやっぱり読みたくなります。
まわりに読んだ人がいなくても、話せる機会があればという声があればまた開催したいと思います。