海外小説読書会で紹介された 『ブルックリン・フォリーズ』 / ポール・オースター(2023年3月11日)
ポジティブで、生きる楽しみを感じたいあなたにおすすめの一冊
RENSの読書会に登場する機会の多い”ポール・オースター”。今回は積み重ねられたエピソードから紡ぎ出される物語です。
著者の小説はストーリーラインが曖昧であることがしばしば見られます。奇妙な登場人物たちや、不思議な状況に遭遇しながら、哲学的問題に直面するような展開だったりです。
『ブルックリン・フォリーズ』も一言で筋を説明できません。エピソードの積み重ねが物語を作り上げていると。
映画『スモーク』
紹介された方は、ポール・オースターが脚本も手掛けている『スモーク』という映画を観て再度興味をもったそうです。この映画の舞台もブルックリンです。
それまでに著者ポール・オースターの代表作『ムーン・パレス』を読んで、途中でよくわからなくなって読むことをやめて、再読してもやっぱり途中でよくわからず本を閉じたそうです。
『ムーン・パレス』は私の最も好きなポール・オースターの作品だったので、これが合わないようであればポール・オースター自体が趣味に合わないのかもしれない……と思いました。
が、『ガラスの街(シティ・オヴ・グラス)』『幽霊たち』『鍵のかかった部屋』といった『ニューヨーク三部作』は面白く読めたようです。
この三部作にも独特の世界観があり、現実と幻想が交錯する要素が多く含まれています。読み進める上で混乱することもあるかもしれません。その混沌とした雰囲気こそが魅力なのですが、『ブルックリン・フォリーズ』はどうでしょうか。
【あらすじ】
六十歳を前に、離婚して静かに人生の結末を迎えようとブルックリンに帰ってきた主人公ネイサン。わが身を振り返り「人間愚行の書」を書く事を思いついたが、街の古本屋で甥のトムと再会してから思いもかけない冒険と幸福な出来事が起こり始める。そして一人の女性と出会って……物語の名手がニューヨークに生きる人間の悲喜劇を温かくウィットに富んだ文章で描いた家族再生の物語。
(引用元:版元ドットコム)より
なくしちゃったお人形と少女
『ブルックリン・フォリーズ』の作中に登場するフランツ・カフカの「人形と少女」のエピソードが秀逸でした。
カフカが女性と公園で歩いていると、わあわあ泣いている少女と出会います。少女はお人形さんがいなくなったと嘆き、カフカはすぐに消えた人形の物語を創作しました。『人形は旅にでかけたんだ』と。人形から手紙を受けっとったからそれを知っている、とカフカは少女に伝えます。そして、翌日カフカが書いた”人形からの手紙”を持って公園に戻ります。手紙を読んだ少女は喜び、カフカは手紙を書き続けます。このやりとりが三週間ほど続いたーー。
「これって本当のエピソードなのでしょうか?」
「どうでしょうね」
カフカらしい、またポール・オースターらしいエピソードです。
それでも後味の良い余韻
ストーリーラインの曖昧な『ブルックリン・フォリーズ』にも実は”オチ”のようなものがあります。
その”オチ”をポジティブにとらえるか、それともネガティブにとらえるかでこの小説の評価は変わるのかもしれません。紹介された方はポジティブにとらえていました。
1冊すべての物語(エピソード)を読んでみるとその”オチ”をどう感じるのか興味深いです。
ポール・オースターの文体
この小説を読んで紹介された方は、著者の文章に特別なものをそれほど感じなかったと言っていました。『ブルックリン・フォリーズ』を読んでいない私にはわかりません。
が、「詩はかけたが、長いものはかけなかった」ポール・オースターはこうインタビューにこたえています。そして、現在では感覚的なものがほとんで、意識的なものは少ない。何度も推敲を重ねて、音楽のように作り上げるーーこれがポール・オースターの文章に対する姿勢です。
個人的にポール・オースターは好きな作家のひとりなのでぜひとも読んでみたいと、一人鼻息を荒く聞きました。