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小説限定(ジャンルは自由)読書会 2024年6月1日(土)

今回も開催されました、小説に限定した読書会。
参加者が集まり、それぞれが熱の困った紹介作品について、感想が交わされました。

内容にはネタバレも含んでいますので、ご注意下さい。


俺たちの箱根駅伝 / 池井戸 潤 (文藝春秋)

■池井作品のスポーツ小説を読みたいあなたにおすすめの一冊

古豪・明誠学院大学陸上競技部。
箱根駅伝で連覇したこともある名門の名も、今は昔。
本選出場を2年連続で逃したチーム、そして卒業を控えた主将・青葉隼斗にとって、10月の予選会が箱根へのラストチャンスだ。故障を克服し、渾身の走りを見せる隼斗に襲い掛かるのは、「箱根の魔物」……。
隼斗は、明誠学院大学は、箱根路を走ることが出来るのか?ーー

引用元:「文藝春秋」より

■興味深い質問

「連合チームがあるんですか?」

「はい、箱根駅伝には、シード権を持つ大学チーム、予選を勝ち抜いたチーム、そして学生連合チームの三つの区分があります」
ちなみに、学生連合チームは予選落ちした大学の優秀な選手から成り、公式記録には残されないものの、彼らにとっては大きな経験になるはずです。
「さすが池井戸さんですね。連合チームのドラマと人間模様に焦点を当て、選手たちの挑戦、成長、チームワークとかが描かれているんでしょうか。見てるところが違いますね」

■参加者が盛り上がったところ

「マラソン・駅伝」

以前の読書会で『タスキ彼方』という小説が紹介された際、特に「タスキの概念」が話題になりました。タスキというものが、日本固有の文化的象徴だと感じます。駅伝のタスキが単なるリレー用具ではなく、精神的にも走者間のつながりの象徴だと。
「それにしても駅伝やマラソンの選手が長時間アスファルトの上を走り続けることって膝への負担もかなりのものですよね」

■この本をより楽しめる情報

ご存じ著者の池井戸氏は、多くのヒット作を生み出してきた売れっ子作家。スポーツ小説が好きでない人でも楽しめる内容でになっています。物語の魅力のひとつに、メインのチームが常に主役でなく、連合チームに焦点があたっている点にあります。単なる競技以上の深い人間ドラマが描かれています。


高熱隧道 / 吉村 昭 (新潮文庫)

歴史的な大規模工事の裏舞台に興味があるあなたにオススメの一冊

黒部第三発電所――昭和11年8月着工、昭和15年11月完工。人間の侵入を拒み続けた嶮岨な峡谷の、岩盤最高温度165度という高熱地帯に、隧道(トンネル)を掘鑿する難工事であった。犠牲者は300余名を数えた。トンネル貫通への情熱にとり憑かれた男たちの執念と、予測もつかぬ大自然の猛威とが対決する異様な時空を、綿密な取材と調査で再現して、極限状況における人間の姿を描破した記録文学。

 引用:「新潮社」より

興味深い質問

「タイトル、どういう意味ですか?」

この作品は非常に過酷な環境での工事現場が描かれています。黒部川の地下にある高熱の断層帯を舞台にしており、掘削作業が進むにつれて岩盤の温度が摂氏70度を超える状況なんです。わずか30メートル掘り進むだけで、このような極端な高温に達する水路トンネルや軌道トンネルの中の作業者……。
「そういう意味だったんですね。内容はタイトルの字面以上に強烈ですね」

■参加者が盛り上がったところ

「過酷な工事、壮絶な現場」

「吉村昭さんはノンフィクション作家としても名高く、この小説は、実際の黒部宇奈月キャニオンルート核心部の掘削工事を題材にしています」
「300人も犠牲者が出たのですか?」
「大規模な工事では、しばしば多くの犠牲が伴うんでしょうね。人間関係の軋轢や工事のプッシュのために、無理な要求が行われることもあります。現場の作業員、監督、経営者、技術者など、様々な立場から多くの意見が交錯しています」

■この本をより楽しめる情報

著者の綿密な取材と調査に基づき、自然の恐ろしさと人間の複雑な情緒が絡み合う様子が見事に描かれています。人間の執念、狡猾さ、そして深い情愛といった要素が、自然界の厳しさと対峙しながら展開されるドラマ。
名作ぞろいの作品群の中でも、この作品は特に評価が高いです。


スローターハウス5 / カート・ヴォネガット・ジュニア (ハヤカワ文庫 SF)

■風刺のきいた戦争体験からなるSF小説を読みたいあなたにオススメの一冊

時の流れの呪縛から解き放たれたビリー・ピルグリムは、自分の生涯の未来と過去とを往来する、奇妙な時間旅行者になっていた。大富豪の娘と幸福な結婚生活を送り……異星人に誘拐されてトラルファマドール星の動物園に収容され……やがては第二次世界大戦でドイツ軍の捕虜となり、連合軍によるドレスデン無差別爆撃を受けるビリー。時間の迷路の果てに彼が見たものは何か? ーー

引用元:「HAYAKAWA ONLINE」より

興味深い質問

「あらすじがわかりにくい?」

「というと?」
「この小説の時間軸が定まっていないため、はじめは理解が難しかったです。主人公が特殊な能力を持っており、過去、現在、未来を自由に行き来できるため、物語の展開が非常に複雑です。初めて読むと戸惑うかもしれません。でもあらすじに囚われずに楽しめる作品かもしれません」

■参加者が盛り上がったところ

「コミカルなブラックユーモア」

「ヴォネガットの作品は、そのブラックユーモアが特徴的で、読者を引き込む要素の一つですねー」
「はい、この小説も戦争をテーマにした作品です。凄惨なエピソードを含みながらも、その重さを感じさせない独特の語り口があります。軽快であり、時にはポップな印象さえ受けました、それでいて不思議な魅力があります」

さらに物語の結末が予測不可能であり、明確な着地点が見当たらなかったそうです。

■この本をより楽しめる情報

著者自身の戦争体験に基づいて書かれており、その背景には深刻なテーマが潜んでいます。が、この作品が持つ独特の魅力は、その重たいテーマを、SF小説という形式を通じて軽やかに、そしてエンターテインメント性豊かに描いている点にあります。ストーリーの面白さというより、何とも言えない独特の空気感です。この作品を手に取ると、ページをめくる手が止まらなくなるような、読み続けられる気軽さもあります。


ストーナー / ジョン・ウィリアムズ(作品社)

静かに人生の内面や意味を探求したいあなたにオススメの一冊

これはただ、ひとりの男が大学に進んで教師になる物語にすぎない。ーー

 引用:「作品社」より

興味深い質問

「ストーナーの魅力は?」

「魅力は、その”平凡さ”にあると思います。日常のささやかな出来事を、映画の一場面のように丁寧かつリアルに描写しています。初見では派手さは感じられず、すぐには没入することも難しいかもしれませんが、読むほどにその深い層へと引き込まれていくのです」

■参加者が盛り上がったところ

「教え子との不倫」

「この小説のほかにも年配の大学教授が主人公として登場し、教え子との不倫が描かれることがしばしばあります。一見落ち着いて見える年配の教授が、実は情熱的で複雑な内面を持つキャラクターとして描かれることが多いのでしょうか」

安定した外見とは裏腹に、内面の動揺や欲望を抱えているという対比を強調するために使われることがあります。教育者としての立場と個人的な感情の板挟みが葛藤を生み出しやすくなっています。

■この本をより楽しめる情報

第1回日本翻訳大賞を受賞。SNS上でその人気が高く「今年読んだ中で最も印象的だった」との声もあります。中には何度も繰り返し読む読者も。その静かな語り口で人生を見つめ直す良い機会であり、落ち着いた時間にじっくりと読みたいと思わせる作品です。


自転しながら公転する / 山本 文緒 (新潮文庫)

働く現代女性の悩みに興味のあるあなたにオススメの一冊

32歳の与野都は、2年前まで東京でアパレルの正社員として働いていたが、更年期障害を抱える母親の看病のため、茨城県の実家に戻ってきた。今は牛久大仏を望むアウトレットモールのショップで店員として契約で働いている。地元の友だちは次々結婚したり彼氏ができたりする中で、都もモール内の回転寿司店で働く貫一と出会いつき合い始めた。ーー

 引用:「新潮社」より

興味深い質問

「意味深なタイトルですね?」

作中の一場面で登場するキャラクター、店員の貫一による比喩だそうです。主人公や他の登場人物が直面している人生の動きや変化を表現しているのではいでしょうか。
「一秒たりとも同じ場所にはいません」

■参加者が盛り上がったところ

「読んでいると、女子会をしているみたい」

女性読者から特に高い共感を得ています。紹介された人もまるで女子会をしているかのような親密さと共感を感じながら読み進めることができると言っていました。特に同年代の女性や現代社会の悩みを抱える女性にとって、その共感度は高いです。

一方で、「でも、私は客観的に読めましたね」とも。

■この本をより楽しめる情報

第16回中央公論文芸賞と第27回島清恋愛文学賞を受賞し、特に現代女性の読者に高い共感を呼んでいます。現代社会で生きる女性たちのリアルな感情や対人関係が巧みに描かれています。2023年にはテレビドラマ化され大きな注目を集めました。


ピクニック・アット・ハンギングロック / ジョーン・リンジー (創元推理文庫)

不穏で緊張感のある上品な作品を読みたいをあなたにオススメの一冊

ピクニックの最中に消えてしまう少女たち。彼女たちの喪失をきっかけに、美しいものの全てが崩壊していく。ーー

 引用:「東京創元社」データベースより

興味深い質問

「実話ですか?」

この小説は、ある失踪事件を背景にしているとも言われていますが、実際のところ真実は定かではありません。
物語のリアルさと曖昧さが交錯していて、それが不穏で神秘的な雰囲気を作り上げています。

■参加者が盛り上がったところ

「イギリス文化と淑女のたしなみ」

登場する女子学校の生徒たちがハンギング・ロックという岩山を訪れる場面があります。彼女たちの服装は、当時の時代と背景を反映しており、上品で厳格なドレスコードが描かれています。ひらひらとした白いドレスに、肌の露出を控えるためコルセットを巻いた姿は、そのエレガントなビジュアルが容易に想像できるほど鮮明です。

■この本をより楽しめる情報

『ピクニック・アット・ハンギングロック』は、1967年にオーストラリアで初版が出版されました。カルト的な人気を誇る同名映画の原作としても知られており、映画化されたことでさらに注目を集めました。日本では、長い間未訳でしたが、2021年に東京創元社から本邦初の翻訳版が出版。




【課題本一覧】
重力の虹 / トマス・ピンチョン ←9月開催予定
幻滅 / バルザック    ←11月頃??
鳳仙花 / 中上健次 ←未定(参加希望者が2名以上になれば)
箱男 / 安部公房        〃
金閣寺 / 三島由紀夫        〃
海と毒薬 / 遠藤周作        〃

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