小説限定の読書会を開催しました。 / 2024年1月20日(土曜日)RENS(大阪の箕面にある読書空間)
小説限定(ジャンルは自由)読書会 2024年1月20日(土)
2024年初の小説限定読書会が開催されました。
新年の素晴らしいスタートを切り、どのような小説が紹介されたのでしょうか。
では早速、この読書会のハイライトを一緒に振り返ってみます。
内容にはネタバレも含んでいますので、ご注意下さい。
クララとお日さま / カズオ・イシグロ (ハヤカワepi文庫)
■AIと人間関係や感情の交差点に興味があるあなたにおすすめの1冊
人工知能を搭載したロボットのクララは、病弱な少女ジョジーと出会い、やがて二人は友情を育んでゆく。愛とは、知性とは、家族とは? 生きることの意味を問う感動作。
引用元:「版元ドットコム」より
■興味深い質問
「ロボットのクララは自発的に感情を表すことがあるんですか?」
太陽の光で動く人工知能を持つロボット、クララ。クララはその優しさと共感力を持っています。人間と同じような振舞いをみせる彼女ですが、感情の表現には一定の制限があります。自発的に感情を示すのではなく、相手の反応や表情から適切な対応をします。
またクララには人間特有の排泄という機能がありません。これが興味深いポイントとなりました。
精神分析学者フロイトの言葉を引用し「排泄なしには成長しない」というような内容の話題が広がりました。
■参加者が盛り上がったところ
「ラストの続きを書きました」
紹介された方は、特に最後の展開が印象深かったようです。そして、物語の続きに対する強い想いを抱き、自ら物語の続編を書くという挑戦をされたようです。
「情熱が素晴らしいですね」本作を読んだ後は是非とも読んでみたいです。
それにしてもラストはどういうものだったのかも気になります。
■この本をより楽しめる情報
ノーベル文学賞 受賞第一作。テーマは令和の現代にマッチしており、テクノロジーの進化と人間性に関する問いを投げかけます。
また装丁に使われたイラストは、物語の感性を捉えて暖かい魅力を持っています。著者自身もこのイラストを絶賛されているようです。
■興味深い質問
「そんな壮大な物語をひとりで書いているんですか?」
「いえ、シェアードワールドシステムです。」
『宇宙英雄ペリー・ローダン』シリーズや『クトゥルー神話』体系のように世界観を設定して複数の作者がその物語を引き継いでいくシステムです。
「さすがにこの壮大な世界観を一人で書くのは無理ですよねー」
■参加者が盛り上がったところ
「モンスターの生態」
沼地に潜むドラゴンがその獲物を沼に引きずり込み、独特の方法で漬物に変えて保存するという驚くべき習性を持っています。
ほかにも、砂漠のモンスターは獲物を天日干しにして干物にするといった習性があったりさらに奇想天外です。
「モンスターの設定が詳細でめっちゃ面白いですね」
■この本をより楽しめる情報
アメリカで生まれたファンタジー・テーブルトークRPG「ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)」は、その魅力的な世界観と革新的なゲームであり、本書はその関連小説です。
またウィザードリィ、ドラゴンクエスト(ドラクエ)、マジック・ザ・ギャザリングなど、多くの後続のファンタジーゲームや作品に大きな影響を与えたと言われています。
福翁夢中伝 / 荒俣 宏 (早川書房)
■教育や社会変革に関心があるあなたへおすすめ1冊
咸臨丸での渡米、不偏不党の新聞『時事新報』創刊、そして慶應義塾の創設と教育改革――。開国に伴う体制一新の時代、勝海舟、北里柴三郎、川上音二郎ら傑物との交流と葛藤の中で、国民たちの独立自尊を促し、近代日本の礎を築いた福澤諭吉の知られざる生涯。
引用元:「Hayakawa Online」より
■興味深い質問
「大阪ですか?」
福沢諭吉といえば、日本の近代化に大きく貢献した啓蒙思想家として知られていますが、彼の出生地に関するあまり知られていません。実は、福沢諭吉のお父さんが大阪にある中津藩の蔵屋敷に転勤してきたときに生まれたとされています。
大阪のイメージと福沢諭吉があまりにもかけ離れてて、想像しにくかったです笑。
■参加者が盛り上がったところ
「この時代に男女平等」
令和の時代では当たり前かもしれませんが、福沢諭吉は、明治時代の日本において、男女同権を唱えた先駆的な思想家でした。
福沢諭吉は「生殖器以外に男女間に異なるところはない」というようなことを公言されています。「明治の時代にすごいですね」こんなことを言えばどんな仕打ちを受けるかわかったもんじゃあありません。
■この本をより楽しめる情報
荒俣宏氏による斬新な解釈で再生された『福翁自伝』は、福澤諭吉の生き様を新たな視点で捉え直した作品です。
このメタフィクションは、福澤諭吉自身が晩年に記した口語文体の自叙伝を基に、著者が対話形式で展開。
読者はまるで諭吉自身と直接対話しているかのような臨場感を味わえます。
孤高の人 / 新田 次郎(新潮文庫)
■冒険好き、すべての山岳小説のファンにおすすめの1冊
昭和初期、ヒマラヤ征服の夢を秘め、限られた裕福な人々だけのものであった登山界に、社会人登山家としての道を開拓しながら日本アルプスの山々を、ひとり疾風のように踏破していった“単独行の加藤文太郎”。その強烈な意志と個性により、仕事においても独力で道を切り開き、高等小学校卒業の学歴で造船技師にまで昇格した加藤文太郎の、交錯する愛と孤独の青春を描く長編。
引用元:「BOOK」データベースより)
■興味深い質問
「孤高? 孤独?」
「孤独」は一般的に、社会的なつながりや人間関係の欠如を指します。他人から見て、孤独な人はしばしば社交的なつながりが少ないか、感じられない状態にあると捉えられることが多いです。
一方で、「孤高」という表現は、他人からの評価としては一般的にポジティブな意味合いを持ちます。これは、ある人が独自の道を歩んでいる状態や、他人とは異なる高いレベルの能力や思考を持つことを示唆します。
そういった意味では『孤高の人』の主人公は後者の表現がしっくりきますね。
■参加者が盛り上がったところ
「無理無理」
『孤高の人』における神戸の須磨から宝塚までのルートの描写は、物語の舞台設定として重要な役割を果たしています。このルートは、有馬温泉を通過することになりますが、この距離を1日で進むことは、実際にはかなりの挑戦となります。
読書会の参加者が同様のルートを実際に歩こうとして断念したエピソードは、このルートがどれだけ困難なものであるかを示しています。徒歩での移動では、「無理ゲー」と表現されるほどの大変な挑戦になることは間違いありません。
■この本をより楽しめる情報
『孤高の人』は、山岳をテーマにした小説の中でも高い評価を受けている作品です。読書会の参加者の中でも「最高峰」と声が上がっていました。また著者は富士山の測量士としての経験も持っており、その背景が作品に深いリアリズムと専門的な知識をもたらしています。
デイヴィッド・コパフィールド / チャールズ ディケンズ (新潮文庫)
■登場人物の魅力、リアルな人間描写が好きなあなたにおすすめの1冊
誕生まえに父を失ったデイヴィッドは、母の再婚により冷酷な継父のため苦難の日々をおくる。寄宿学校に入れられていた彼は、母の死によってロンドンの継父の商会で小僧として働かされる。自分の将来を考え、意を決して逃げだした彼は、ドーヴァに住む大伯母の家をめざし徒歩の旅をはじめる。多くの特色ある人物を精彩に富む描写で捉えた、ディケンズの自伝的要素あふれる代表作。
引用元:「BOOK」データベースより
■興味深い質問
「ディケンズのすごいところは?」
「著者の作品の魅力は、特に高度な超絶技巧によるものではなく、登場人物たちの人物描写にあります」
読者がディケンズの小説を読む際、そのリアルな描写によって、まるで物語の中にいるかのような感覚に包まれます。
読んでいると「登場人物に周りを囲まれている!」と感じるられるリアリティがそこにあります。
■参加者が盛り上がったところ
「くねくね、ぬらぬら」
この作品には、非常に興味深いキャラクターが登場するそうです。
卑屈であったり、滑稽な性格をしている登場人物たちが物語を彩ります。イメージとしては、ダウンタウンのコントに出てくる「キャシー塚本」のように、不安定で狂気じみた特徴を持つ人物も笑。
紹介された方はキャラクターについて、「誤解を恐れずに言うならば、ドリフのようなユーモアがある」と述べています。ドリフのコントに登場する人物たちは、その人間観察の鋭さとユーモラスな表現で、観る者を爆笑させました。
この作品のキャラクターも、そのような魅力を持っているのでしょう。
ユライア・ヒープ……耳に残るその名前。
■この本をより楽しめる情報
サマセット・モームの世界の十大小説にも挙げられている超名作です。サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』主人公、ホールデン・コートフィールドもこの小説を意識しているとか、していないとか……。
愚者(あほ)が出てくる、城寨(おしろ)が見える / ジャン=パトリック マンシェット (光文社古典新訳文庫)
■映像的で過激な暗黒小説を読みたいあなたにおすすめの1冊
精神を病み入院していたジュリーは、企業家アルトグに雇われ、彼の甥であるペテールの世話係となる。しかし凶悪な4人組のギャングにペテールともども誘拐されてしまう。ふたりはギャングのアジトから命からがら脱出。殺人と破壊の限りを尽くす、逃亡と追跡劇が始まる。
引用元:「BOOK」データベースより
■興味深い質問
「タイトル面白いですね。なんですか?」
この作品のタイトルは、アルチュール・ランボーの詩『地獄の季節』からインスパイアされています。ランボーの作品にある有名な一節「おお季節よ、おお城よ!」が、この小説のタイトル「愚者が出てくる、城寨が見える」へと変容されています。このユニークなタイトルは、原詩の雰囲気を反映しつつ、新しい文脈を作り出しています。
■参加者が盛り上がったところ
「しっかりイカれた登場人物たち」
暗黒小説やハードボイルド小説の要素を兼ね備えているかのようです。登場するギャングたちだけでなく、物語の中心人物である女性ジュリーも強烈なキャラクターを持っています。彼女は、物語の展開において、多くのインモラルなシーンで中心的な役割を果たし、読者を驚かせます。過激なシーンが連続することで、物語は緊迫感と興奮を提供し、ジュリーの複雑な内面と彼女が抱える闇を探求しています。
■この本をより楽しめる情報
『愚者(あほ)が出てくる、城寨(おしろ)が見える』は、「フランス推理小説大賞」を受賞した実力派の推理小説です。映像的な描写が際立つ一方で、日本ではまだ映画化されていない、未発掘の逸品と言えます。作中では、心理描写を意図的に排除し、ハードボイルドな文体で物語が進行します。その巧みなストーリーに深く引き込まれるでしょう。
【まとめ】
今回の読書会では、『クララとお日さま』、『ダークエルフ物語』、『福翁夢中伝』、『孤高の人』、『デイヴィッド・コパフィールド』、『愚者が出てくる、城寨が見える』など様々なジャンルの小説が紹介されました。
AIの感情表現、壮大な世界観、ユニークなキャラクター描写などに引き込まれ、「アッという間の2時間」でした。
2月には歴代『本屋大賞』(ノミネート作品含む)や『芥川賞・直木賞』(最終候補作品含む)読書会も予定しております。