おそらく2023年最後に読んだ小説 読書会 / 2023年12月30日 開催 RENS(大阪の箕面にある読書空間)
小説限定(ジャンルは自由)読書会 2023年12月30日(土)
2023年最後の読書会でした。
それにふさわしく「選び抜かれた小説」たちが紹介されました。
では早速、読書会の内容をお伝えします。
内容にはネタバレも含んでいますので、ご注意下さい。
ちぎれた鎖と光の切れ端 / 荒木 あかね (講談社)
■江戸川乱歩賞ファン・孤島ミステリー好きにおすすめの1冊
――「私たちが絆を断った日、島は赤く染まった。」
引用元:「講談社BOOK倶楽部」より
復讐を誓う男がたどり着いた熊本県の孤島(クローズドアイランド)で目にしたのは、仇(かたき)の死体だった。
さらに第二、第三の殺人が起き、「第一発見者」が決まって襲われる――。
■興味深い質問
「計画を実行する前にターゲットが殺されているケースってよくあるんですか?」
「けっこうあると思いますよ。ぱっと浮かぶのは『ハサミ男』という作品ですね」
「あー『ハサミ男』。作者は誰でしたっけ? 漢字が読みづらい……」
「ああ、殊能将之さんですよね」
■参加者が盛り上がったところ
「装丁がいいですね」
特に目を引いたのは、夕日が茜色に染め上げた島の光景を描いた表紙の本でした。まるで一枚の絵画のような、その美しさには参加者を魅了しました。
ところどころにガラスの破片のようなものが描かれており、その中には物語の一部が映し出されているようです。この破片の中に描かれた場面は、物語の中で重要な象徴的な意味を持っているのではないか? と参加者たちの間で話題になりました。
この独特の表紙デザインは、読み手の好奇心を掻き立てます。
■この本をより楽しめる情報
江戸川乱歩賞受賞の第一作として、2022年のミステリーランキングに新たな風を吹き込んだ、Z世代のアガサ・クリスティーです。
2部構成になっていますが、1部だけでも本当に面白いとのことでした。
■興味深い質問
「なぜ読もうと思ったのですか?」
『スタンド・バイ・ミー』は多くの人にとって、映画としての印象が強烈です
小説を紹介された方は、映画を観た後に原作の深みを探求したいと感じ、小説版を手に取ったそうです。映画では伝わらない細かな心理描写や背景の詳細、登場人物の内面に深く切り込んだ文体が、原作小説ならではの魅力を放っています。
最近は様々な映画を観ることから、小説にも手を広げてみようと考えた彼らが、読書会に参加してくれました。
■参加者が盛り上がったところ
映画と小説の違い
「思ったよりもかなり暗い」
映画と小説版の異なる雰囲気が話題になりました。映画が持つ比較的明るいトーンとは対照的に、原作小説にはより重厚で暗い雰囲気が漂っているようです。スティーヴン・キングのホラー作家としての背景を踏まえると、この暗さは彼の作品の特徴的な一面を反映しているとの意見がありました。
また事件の後日談についてもかなり触れられているそうです。
■この本をより楽しめる情報
説明不要の名作。しかし、上記にあるように映画と比較するとさらに楽しめます。
トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー / ガブリエル・ゼヴィン (早川書房)
ゲームの創作を通じた青春物語を読みたいあなたにおすすめ1冊
死んでしまいたいと思うとき、そこに明確な理由はない。心は答え合わせなどできない。(「健やかな論理」)尊敬する上司のSM動画が流出した。本当の痛みの在り処が写されているような気がした。(「そんなの痛いに決まってる」)生まれたときに引かされる籤は、どんな枝にも結べない。(「籤」)等鬱屈を抱え生きぬく人々の姿を活写した、心が疼く全六編。
引用元:「版元ドットコム」より
■興味深い質問
「ゲームよくされるんですか?」
「ゲームはほとんどやりませんが、この作品には魅了されました」
ゲームに興味を持たない方でも、この作品の面白さに引き込まれることは、その青春もののストーリーの魅力にもあります。
また表紙のデザインにもいい感じです。葛飾北斎の影響を受けたアートワークは、ファミコンのようなレトロなテイストを備えており、見る者に懐かしさを感じさせます。
■参加者が盛り上がったところ
「同じような感想」
本屋大賞翻訳部門で第1位に輝いた『書店主フィクリーのものがたり』で知られる作者の最新作です。
この新作は前作に劣らず、読みやすく心温まる物語が展開されるとのことです。
肝心の感想ですが、前作と「同じような感想」だったそうです。前作をお好きな人におすすめです。
■この本をより楽しめる情報
小説の中に、スーパーマリオブラザーズ、ゼルダの伝説、テトリス、ストリートファイターといった、夢中になった伝説のゲームたちが登場します。
ツミデミック / 一穂ミチ(光文社)
■コロナ禍を題材にした小説を読みたいあなたにおすすめの1冊
大学を中退し、夜の街で客引きのバイトをしている優斗。ある日、バイト中に話しかけてきた女は、中学時代に死んだはずの同級生の名を名乗った。過去の記憶と目の前の女の話に戸惑う優斗は――「違う羽の鳥」
引用元:「光文社」より)
調理師の職を失った恭一は、家に籠もりがち。ある日、小一の息子・隼が遊びから帰ってくると、聖徳太子の描かれた旧一万円札を持っていた。近隣に住む老人からもらったという。翌日、恭一は得意の澄まし汁を作って老人宅を訪れると――「特別縁故者」――
■興味深い質問
「どうして読もうと思ったのですか?」
「タイトル買いです」
『ツミデミック』はそのタイトルだけで、多くの読者の心を掴んだと思います。この一風変わったこのタイトル、もちろん新型コロナウイルスのパンデミックを連想させます。
そして内容も、現代を生きる私たちにとって、深く考えさせられる一冊となることでしょう。
■参加者が盛り上がったところ
「ロマンス」
「ロマンス」という短編について紹介されました。この物語は、フードデリバリーのイケメン配達員に会うために、主婦が繰り返し注文する様子を描いています。
ウイルス蔓延の渦中、閉塞感のある日常生活でロマンチックな出会い? が物語の核です。これをガチャにハマったと表現しているのですが、臨場感のある、感情のこもった紹介者の語り口が面白くて、盛り上がりました。
■この本をより楽しめる情報
コロナ禍の罪を題材にした短編集です。
紹介者からおすすめされた短編は『特別縁故者』と『ロマンス』でした。
HHhH プラハ、1942年 / ローラン・ビネ (東京創元社)
■メタフィクションと歴史小説の融合を読みたいときの1冊
ナチにおけるユダヤ人大量虐殺の首謀者ハイドリヒ。〈金髪の野獣〉と怖れられた彼を暗殺すべくプラハに送り込まれた二人の青年とハイドリヒの運命。ハイドリヒとはいかなる怪物だったのか? ナチとはいったい何だったのか? 登場人物すべてが実在の人物である本書を書きながらビネは、小説を書くということの本質を自らに、そして読者に問いかける。「この緊迫感溢れる小説を私は生涯忘れないだろう」──
引用元:「東京創元社」より
■興味深い質問
「タイトルはどういう意味ですか?」
『HHhH』というユニークなタイトルは、ドイツ語のフレーズ「Himmlers Hirn heißt Heidrich」(ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる)の頭文字から取られており、この作品を象徴しています。
読めないので、なんという発音をすればいいのかわかりませんが……。このタイトル気になりますよね。
■参加者が盛り上がったところ
「メタフィクションの歴史小説」
『HHhH』は、第二次世界大戦中のハイドリヒ暗殺計画を中心に据えた歴史小説ですが、力は単なる歴史の再現に留まりません。
この小説の特異性は、語り手の独特なスタイルにあります。物語を進行させながら、語り手は歴史小説の描き方に対する深いこだわりや、場面に対する激しい感情を随所に表現します。
この直接的かつ感情的な語り口は、読者に歴史の出来事を新たな視角から見せ、感情の移り変わりをリアルに伝えます。
「あまり読んだことのないスタイルの歴史小説でした」
■この本をより楽しめる情報
『HHhH』は、第二次世界大戦中のドイツを舞台にした小説で、その類稀なる質の高さで世界中の賞を獲得しています。フランスでの「ゴンクール賞最優秀新人賞」受賞に加え、日本でも「本屋大賞翻訳小説部門第1位」「Twitter文学賞海外編第1位」に輝くなど、国際的に高い評価を受けています。
またこの作品の際立った特徴は、その精緻な歴史的調査にもあります。著者は、第二次世界大戦という時代背景を深く掘り下げ、細部にわたる調査を通じて、当時のドイツのリアルを描き出しています。
斜陽 / 太宰治(岩波文庫)
■日本的な貴族の生活に興味があるあなたにおすすめの1冊
敗戦直後の没落貴族の家庭にあって、恋と革命に生きようとする娘かず子、「最後の貴婦人」の気品をたもつ母、破滅にむかって突き進む弟直治。滅びゆくものの哀しくも美しい姿を描いた『斜陽』は、昭和22年発表されるや爆発的人気を呼び、「斜陽族」という言葉さえ生み出した。――
引用元:「BOOK」データベースより
■興味深い質問
「そんなに好きではないんですか?」
実は紹介された方は太宰治の小説をそんなに好きではないようでした。(紹介しているのに!)
ただ、この『斜陽』は好きとのこと。「『人間失格』よりは好き」だそうです。
なんかわかるような気もしますが、これも好みですね。
■参加者が盛り上がったところ
「太宰の描く女性」
この小説に登場する”お母さま”の存在感は異質です。不穏な雰囲気を身にまとったなんともいえぬ印象が残っていることを覚えています。ほかにも『女生徒』で描かれる女性の描写も秀逸です。
「太宰って、女性を書くのが上手いですね!」
■この本をより楽しめる情報
「超名作」
言わずと知れた太宰治。一番有名な『人間失格』よりも好きな人がいるのではないでしょうか?
『人間失格』が合わなあった人にもおすすめです。
【まとめ】
2023年の締めくくりとなった読書会は、終始盛り上がりました。
一年間を通じて紹介された多彩な小説の中から、新たに記憶に残る作品が数多く生まれ、積読リストがさらに充実しました。
これらの本を一冊ずつ丁寧に味わっていく楽しみが増えました。
そして、2024年も新たな小説との出会いを心待ちにしています。ありがとうございました。