東野圭吾作品読書会(秘密) / 2023年7月30日(日)に開催されました。RENS(大阪の箕面にある読書空間)
前回の『汝、星のごとく』読書会に引き続き開催された課題本読書会です。
『秘密』 著者:東野圭吾 出版社:文春文庫
交錯する記憶、魂の行方、ひと家族の秘密の物語
今回開催された読書会では、東野圭吾氏の感動的な作品『秘密』を共に読み、話し合いました。
本作は、家族と愛、そして生と死を見つめ直す物語。複雑な感情や人間の心の奥底にあるものが盛りだくさんです。
どのようにして平介はこの状況を受け入れ、また、直子と藻奈美の二つの魂が同じ身体を共有する生活をしたのか? そしてそれがどのようにして彼らの運命を形成し、どのような結末を迎えるのか……。
読書会では、複雑なテーマや人物描写を詳細に話しました。
ネタバレが含まれていることを予め理解していただきます。
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【あらすじ】
妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密”の生活が始まった。
(引用元:「BOOK」データベース)より
——————–以下はネタバレを含みます——————–
【参加者の感想】
序盤の違和感「これって、ファンタジー??」
妻である直子の葬儀が行われた夜、奇跡的に意識を取り戻した娘、藻奈美の中には、亡きはずの直子の魂が宿っていた――。
・物語の序盤に、疑念を抱かずにはいられなかった。東野圭吾さんの作品の中にこんなにファンタジー的要素が含まれているなんて!
・もしかすると藻奈美は直子の人格を模倣しているのだろうか? または、夫である平介を悲しませないために、藻奈美が母親である直子の役を演じているのではないか? という疑念が頭をよぎり、物語を読み進める中で、その疑問は簡単には払拭できなかった。
・母親の魂が娘の体に宿るという、信じがたい超常現象、現実的には考えられない。
・中盤に差し掛かる頃には、なんとなくその状況を受け入れるようになった。11歳の娘である藻奈美が理解することのできない行動、または知る由もないような情報が、多すぎるから。
・生前の妻である直子が、藻奈美に夫である平介の個人的な情報や家系、料理の技術などを教えていたとしても、その情報量はとても一人の少女が覚えられる範疇を超えている。
「妻・直子は恋愛する気がなかった?」
直子は娘の体で恋愛する気はなかったのではないか? という話になりました。
・藻奈美の体で恋愛すると、もし藻奈美の意識が戻った場合に勝手に恋愛するのは申し訳ないという気持ちから。
・直子からすると学生や出会う男は年齢が低すぎて恋愛対象にはならない。
・なによりも平介をずっと愛していくつもりだったから。
いずれかの理由が挙げられましたが、真相は直子に聞いてみないとわかりません。少なくとも学生の内は直子は本当に恋愛する気がなかったように感じました。
「娘の外見をした妻」
独特の状況。直子は要所要所で何度か平介に夜の誘いを持ち掛ける。しかし、平介は彼女の提案を頑なに断り続けた。
・人格は妻の直子とはいえ、外見は娘の藻奈美。平介の立場として父親であるという現実がある。その事実は平介が藻奈美の外見を見て、それが直子の魅力ではなく、自身の娘としての存在であることを彼に悩ませる。
・平介が直子の誘いを断ることは、なんらかの道徳的もの、あくまで彼の父親としての役割を保持しようとするもの。そう考えると、彼がそのように行動するのは仕方のない。
・ここにはさらに複雑な問題が潜んでいまる。それは、この父と夫、母と妻、そして娘の間にある関係性が崩れてしまったのではないかという問題。当然だが直子の夜の誘いという行為自体が、既に一般的な父娘関係を逸脱したものである。
・平介はどう対応すべきだったのか? これに対する明確な答えは存在しない。結局のところ、平介自身がどのように感じ、どのように行動すべきかを決定する彼自身の問題だからだ。
・物語の中で見える平介の内面は、まさにそのような葛藤と混乱に満ちている。彼の理性や倫理観は、直子という女性への欲求と娘に対する親としての威厳とが交錯している。
それら全てが、平介の心の中で混然となり、彼の決断を難しくさせました。この物語の複雑な人間関係や道徳的な問題の一例であり、読書会の参加者とっては彼の振る舞いと心情を理解する上で重要なポイントとなりました。
【盛り上がったところ】
「やっぱり、ラストをどうとらえるのか?」
藻奈美(直子の魂が宿っている)が結婚式の直前に、テディベアに隠されていた指輪を新たな結婚指輪にリデザインさせた行動。この選択が偶然ではなく、あえて平介に知らせる意図が含まれていたのではないか?
・藻奈美が直子の魂を宿していたことを考えると、この行動は平介へのメッセージであった可能性がある! 彼女は平介に対し、新たな結婚という新しい人生への一歩を踏み出す決意を示すと同時に、直子の魂がまだ藻奈美の中に存在していることを伝えるために、意図的にこの行動を選んだのかもしれない。
・藻奈美という少女の身体を通して世間に振る舞いながら、その精神は妻であった直子として長年の束縛と規制に直面し、自由が奪われていた。ここには皮肉と、それに対する恨みのようなのネガティブな感情が生まれたのだろう。
・その真意は彼女だけが知ること。読者がここでできることは、その可能性を考えることだけで、確固たる結論を導くことは難しい。そうした推測が東野圭吾の作品を読む醍醐味であり、その複雑さと深遠さを改めて感じる。
「平介と直子どちらに同情するのか?」
直子としての精神を持ちつつ、藻奈美という少女の身体を介して世間に振る舞うという難しさ。それは、長年にわたる束縛と規制に直面し、彼女の自由が完全に奪われたという状況を示しています。また、それは彼女が常に偽の存在として生きるという厳しい状況を描き出しています。
・一方で、愛する妻としての直子に裏切られ、同時に娘を失った平介の絶望感。彼が感じた愛する人からの裏切りは、深く心を揺さぶるものであり、その痛みは計り知れない。
・それぞれの立場から見れば、誰がより可哀想か、誰に対して同情するべきかは非常にセンシティブな問題だ。性別によって意見が分かれるかもしないし、永遠に答えの出ない問題、平行線たどるのみ。
・一方が絶対的に正しいとは断じることはできない。それぞれが困難な状況に立ち向かいながらも、彼らは自身の道を歩んでいる。
【まとめ】
『秘密』読書会では、物語の結末が焦点となりました。ファンタジー要素はともかく、答えのない物語は、実際の生活の中で常に起こる事です。
今後『秘密』を読んだ人々からの様々な意見や感想がどのようなものになるのか、非常に興味が湧いてきます。物語が提示する問いに対するそれぞれの解釈や考え方を知ることで、物語の多面性を深く理解することができました。
(記事については、あくまで読書会で出た個人的の感想です)
次回以降も課題本読書会を開催したいと思いますので、要望があれば是非ともご連絡ください。