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コラボ読書会 2023年7月22日

今回の読書会は初のコラボ企画ということで、開催場所は尼崎の三和本通商店街にある「さんとしょ」で行われました。コラボ相手は地元の「尼崎読書会」さんです。
コラボ企画には、いつもと違った交流があり、新たな視点や本の魅力を発見できる良い機会になりました。

紹介された小説は以下の通りです。
内容にはネタバレも含んでいますので、ご注意下さい。


ゴリオ爺さん / バルザック (新潮文庫)

■バルザックの「人間喜劇」の中枢ともいわれる本書を読みたいあなたにおすすめの1冊

奢侈と虚栄、情欲とエゴイズムが錯綜するパリ社交界に暮す愛娘二人に全財産を注ぎ込んで、貧乏下宿の屋根裏部屋で窮死するゴリオ爺さん。その孤独な死を看取ったラスティニャックは、出世欲に駆られて、社交界に足を踏み入れたばかりの青年だった。破滅に向う激情を克明に追った本書は、作家の野心とエネルギーが頂点に達した時期に成り、小説群”人間喜劇”の要となる作品である。

引用元:「版元ドットコム」より

またまた登場しました”バルザック”。度々RENSの読書会に名があがります。今回はバルザックの中でも超有名なこの一冊が紹介されました。

■興味深い質問

「バルザックの『人間喜劇』にはたくさんの人物が登場しますけど、名前を覚えられましたか?」

「3人だけ覚えればいいだけです。3人だけ!」

物語は登場人物が多く、豊かな人間模様と社会的側面が描かれていますが、主要なラスティニャック、ゴリオ爺さん、ヴォートランの3人。

紹介者によると、この3人を覚えるだけで十分に物語を楽しめるとのことでした。

■参加者が盛り上がったところ

「全員がお金に執着しています」

物語の舞台は19世紀前半のフランスであり、当時の社会では娘の結婚においては持参金が重要な要素でした。持参金がなければ結婚が成立しないという現実。

この持参金をめぐる奔走。そして物語に登場する多くの人物たちが、お金のことばかりを考えて行動している描写がこの物語の醍醐味です。

■この本をより楽しめる情報

著者が体系化した超大作「人間喜劇」の中でも一番有名な本書。人間模様ややりとりが全く古さを感じずに面白くて、こちらも一気に読めるそうです。

また、本書で活躍するキャラクターが他の小説にも登場したりと、スピンオフ感覚で「人間喜劇」を楽しめるので興味のある方はどうぞ。


愛なき世界 / 三浦 しをん (中公文庫)

■植物をこよなく”愛する人”におすすめの1冊

恋のライバルが人間だとは限らない! 洋食屋の青年・藤丸が慕うのは〝植物〟の研究に一途な大学院生・本村さん。殺し屋のごとき風貌の教授やイモを愛する老教授、サボテンを栽培しまくる「緑の手」をもつ同級生など、個性の強い大学の仲間たちがひしめき合い、植物と人間たちが豊かに交差する――本村さんに恋をして、どんどん植物の世界に分け入る藤丸青年。小さな生きものたちの姿に、人間の心の不思議もあふれ出し……風変りな理系の人々とお料理男子が紡ぐ、美味しくて温かな青春小説。

 引用:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「植物の奥深さとは?」

難しい質問です。植物は人間とは異なり、言葉を持ちませんが、その生態には神秘的な魅力を感じるものがあります。

「感情」や「愛」といった人間の特有の要素はないにもかかわらず、植物の世界には私たちに何か学びや感じさせる深いものが存在しています。

■参加者が盛り上がったところ

「植物を育てる」

参加者の中には、植物を育てることに熱心な方がいました。自らの手で育てた植物を収集し、それらをフラワーアレンジメントのように巧みに飾っておられます。愛情深い手入れと創造力によって、植物は美しく輝きを放つのでしょう。

植物はそれほど身近で豊かな存在であり、育てたり飾ったりすることで心を豊かにし、自然とのつながりを感じます。

■この本をより楽しめる情報

『愛なき世界』というタイトルは秀逸です。

最初は無情な印象を受けるかもしれませんが、その実態が植物の世界に通じると一変して、新たな視点で物語を楽しむことができます。

著者の他作品である『舟を編む』(文系テイスト?)とは異なり、今回の作品では理系のテイストがうまく取り入れられています。


オイディプス王 / ソポクレス (岩波文庫)

■衝撃的なギリシャ悲劇を読みたいあなたにおすすめ1冊

オイディプスが先王殺害犯人の探索を烈しい呪いの言葉とともに命ずる発端から恐るべき真相発見の破局へとすべてを集中させてゆく緊密な劇的構成。発端の自信に満ちた誇り高い王オイディプスと運命の運転に打ちひしがれた弱い人間オイディプスとの鮮やかな対比。数多いギリシア悲劇のなかでも、古来傑作の誉れ高い作品である。

引用元:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「感情移入できましたか?」

物語の中では、「知らなかった」とはいえ、父を殺し、実の母と知らずに子を宿し、それを知った後に自ら目を潰すという壮絶な展開が描かれています。

悲劇的な過ちは、心の葛藤や罪の意識に対して強く訴えかけます。それが読者に強い感情を抱かせますが、強烈すぎて感情移入はしなかったようです。

ひとつの”ギリシャ悲劇”としてとらえるしかありません。

■参加者が盛り上がったところ

「えっ、そこまでが前提なんですか?」

物語の本題に至るまでの前提条件が盛りだくさんであり、その展開は非常に衝撃的でした。

自らの過去と真実を知るために奮闘する姿が描かれます。自分自身を知ることで衝撃的な過去の真実に直面し、それによって運命が変わることに……。

■この本をより楽しめる情報

フロイトが提示した「エディプス・コンプレックス」と「オイディプス王」は、少し意味合いが変わっているかもしれませんが、実際には深い関連性があります。

「オイディプス王」は、文学作品においてもしばしばモチーフとして取り入れられ、創作に使われることがあります。例えば、村上春樹氏の小説「海辺のカフカ」でも、「オイディプス王」の物語が影響を与えています。


成瀬は天下を取りにいく / 宮島 未奈(新潮社)

■破天荒な青春小説を読みたいあなたにおすすめの1冊

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」。各界から絶賛の声続々、いまだかつてない青春小説! 中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。コロナ禍、閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。さらにはM-1に挑み、実験のため坊主頭にし、二百歳まで生きると堂々宣言。今日も全力で我が道を突き進む成瀬から、誰もが目を離せない! 話題沸騰、圧巻のデビュー作。

引用元:「版元ドットコム」より)

興味深い質問

「西部大津店? 店閉めましたよ?」

作中で「ありがとう西武大津店」というタイトルの物語があります。

参加者の中には実際の西武大津店を知っている人がいました。その店は、現実に閉店したことが話題になりました。

■参加者が盛り上がったところ

「破天荒エピソード」

主人公”成瀬”の興味深いエピソードについて話されました。ネタバレを避けるため、詳細な内容は明かしませんが、彼女が坊主で学校に登校するエピソードは特に気になりました。

坊主というシンプルで特徴的な外見が、彼女のキャラクターや物語にどのような影響を与えたのか、参加者たちは興味津々でした。

「なぜ坊主……?」

■この本をより楽しめる情報

滋賀を舞台としたこの作品は、宮島未奈氏のデビュー作であり、第20回「女による女のためのR-18文学賞」において大賞、読者賞、友近賞の3冠を達成した作品「ありがとう西武大津店」が含まれています。

物語を進めるにあたって、視点人物が複数存在し、物語がそれぞれの視点から展開される構造は、作品の魅力の一つとなっています。


果てしなき逃走 / ヨーゼフ・ロート(岩波文庫)

■失われた世代の亡命小説を読みたいあなたにおすすめの1冊

オーストリアの将校トゥンダは第一次大戦のさなかロシア軍に捕えられ、赤軍の兵士として革命を戦うこととなる。10年ののち故郷に帰還したとき、もはやそこに彼の居場所はなかった…。ガリチアに生まれ、ウィーン、ベルリンを経てパリに客死した放浪のユダヤ人作家ロートが、故郷喪失者のさすらいを描いた代表作。

引用元:「BOOK」データベースより)

興味深い質問

「『ウクライナ・ロシア紀行』と本作どちらが先に書かれましたか?」

書かれた時期としては微妙な部分もありますが、おそらく「果てしなき逃走」はロシア・ウクライナ紀行の後に書かれたものでしょう。おおよそ1926年から1927年頃に執筆されたと推測されます。ロシア・ウクライナの現地を訪れた経験が、本作にも反映されているのはないでしょうか。

■参加者が盛り上がったところ

「救いがなさすぎる」

ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』やアゴタ・クリストフの『悪童日記』など、亡命した先での物語は数多く存在しますが、本作において特に注目すべき点は、物語のラストに見られる極めて厳しい結末です。

一方、フランツ・カフカもまた亡命作家として知られており、独特のスタイルで不条理文学を鮮やかに描き上げていきます。”亡命”という直接的な切り口とは異なる独特な雰囲気と深い哲学性を持ち、読者を考えさせます。

■この本をより楽しめる情報

物語の中でユダヤ人の登場人物たちの生き様は、その歴史的背景や文化に根ざしたものとして描かれています。

また、失われた世代についての描写は、物語に深い感慨をもたらします。戦争や亡命、あるいは社会的変動などによって失われた時間や経験が、過去や心の闇に影を落としています。



特許やぶりの女王 / 南原 詠(宝島社)

■特許、リーガルミステリーを読みたいあなたにおすすめの1冊

特許権を盾に企業から巨額の賠償金をふんだくっていた凄腕の弁理士・大鳳未来。
現在は「特許権侵害を警告された企業を守る」ことを専門にし東奔西走している。
今回のクライアントは、映像技術の特許権侵害を警告され、活動休止を迫られる人気VTuber・天ノ川トリィ。
調べるうちにさまざまな企業の思惑が絡んでいることに気づいた未来は、トリィを守るため、いちかばちかの賭けに出る――。

引用元:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「著作権は何年?」

小説の著作権について、以前は作者の死後50年でしたが、2018年から70年に延長されたことで、三島由紀夫や志賀直哉、川端康成などの作家たちの著作権が20年長引くことになりました。

これは残念です。

■参加者が盛り上がったところ

「『ナニワ金融道』の特許版です!」

『特許やぶりの女王』は、青木雄二さんの漫画作品『ナニワ金融道』に近いイメージがあり、例えるならば『ナニワ金融道』の特許版のような作品として紹介されました。

あちらはマチ金会社の営業マンたちと借金にまつわる人間模様であり、その深みと魅力にがこの作品にも備わっているのではないでしょうか。

■この本をより楽しめる情報

第20回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞受賞作

新感覚の特許リーガルミステリー。著者自身が弁理士であり、「知的財産権」に関する専門家です。
物語は知的な社会派ミステリーであり、読者はその奥深い内容に没頭すること間違いなしです!


ハリー・ポッターと賢者の石 / J.K.ローリング (静山社)

■教育論からも読める冒険ファンタジーの1冊

ロンドン郊外の街角で、ある晩、額に稲妻形の傷を持つ赤ん坊が、一軒の家の前にそっと置かれる。その子、ハリー・ポッターは、俗物のおじ、おばに育てられ、同い年のいとこにいじめられながら、何も知らずに11歳の誕生日を迎える。突然、ハリーに手紙が届く。それはホグワーツ魔法魔術学校への入学許可証だった! キングズ・クロス駅の9と3/4番線から汽車に乗り、ハリーは未知の世界へ旅立つ。

引用元:「版元ドットコム」より)

興味深い質問

「『特殊教育の展望』とは?」

ご存じのようにこの物語は魔法の世界を舞台にしたファンタジーであり、主人公のハリーが魔法学校ホグワーツで成長していく姿が描かれています。ハリーは困難な状況に直面し、友情や勇気、自己肯定感を培いながら成長していきます。

一方、特殊教育は個々の学習者の特性やニーズに合わせた教育を提供するための教育手法であり、障害や学習困難を持つ子どもたちが適切なサポートを受けながら成長することを目指しているので、ここに共通点があるのではないでしょうか。

■参加者が盛り上がったところ

「イギリスに魔法学校があっても違和感ないのでは?」

イギリスのエレメンタリースクールやリセは専門性を重視しており、科目ごとに深い専門知識を身につけることが求められるため、「ハリー・ポッター」の世界観における魔法学校の存在に対して違和感がないのでは? という話題で盛り上がりました。

■この本をより楽しめる情報

「ハリー・ポッター」シリーズは世界的に超有名な物語であり、映画化もされていますので、今更説明する必要はありません。が、この名作を「教育的」な観点で眺めることによって、新たな発見や洞察を得ることができるかもしれません。


【まとめ】

19世紀のパリを舞台にした物語から始まり、植物の愛、ギリシャ悲劇、滋賀の破天荒なエピソード、亡命小説、特許リーガル、ファンタジーという、かなりバラエティに富んだ濃厚な読書会が開催されました。

参加者たちはさまざまなジャンルやテーマに触れながら、新たな世界を楽しんでいました。見学された方も積極的に発言し、終始活気あふれる雰囲気の中で進行できました。

またコラボ企画の読書会を開催したいと思います。

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