BLOG

アーカイブ

読書会 2023年12月2日(土)

今回の読書会は、初めての試みとして短編小説に限定して開催しました。短編小説の魅力のひとつには、その手軽さにあります。短い時間でも物語を読み始めて完結させることができるので、忙しい日々の合間にも楽しむことができます。

どんな短編作品が選ばれ、どのような話になったのか、紹介された本はこちらです。

内容には一部ネタバレを含みますので、ご注意ください。


聖母の贈り物 / ウィリアム・トレヴァー(国書刊行会)

■世界的にも高い評価の短編小説をよみたいあなたにおすすめの1冊

普通の人々の人生におとずれる特別な一瞬、運命にあらがえない人々を照らす光-。”孤独を求めなさい”-聖母の言葉を信じてアイルランド全土を彷徨する男を描く表題作をはじめ、ある屋敷をめぐる驚異の年代記「マティルダのイングランド」、恋を失った女がイタリアの教会で出会う奇蹟の物語「雨上がり」など、圧倒的な描写力と抑制された語り口で、運命にあらがえない人々の姿を鮮やかに映し出す珠玉の短篇、全12篇収録。稀代のストーリーテラー、名匠トレヴァーの本邦初のベスト・コレクション。

引用元:「版元ドットコム」より

■興味深い質問

「文体は読みやすいですか?」

文体は、生々しさよりもむしろ瑞々しさが感じられるものです。洗練された言葉選びと新鮮な印象を受けました。特に、短編という形式に適した、スッキリとした読みやすさが際立っています。

■参加者が盛り上がったところ

「アイルランド」

アイルランドはキリスト教徒が多数を占める国であり、プロテスタントとカトリックの信者が共存しています。しかし、その割合は一部の地域を除いて圧倒的にカトリックが多数派です。この宗教的な多様性は、アイルランドの歴史や文化に深く根ざし、またこの短編集のタイトルにもなっている『聖母の贈り物』にも関連性があります。

■この本をより楽しめる情報

ジョイス、オコナー、ツルゲーネフ、チェーホフ等と同列に並ぶほど、最高の短篇作家との評価を受けたウィリアム・トレヴァー。この短編集は、12篇の珠玉の作品を収録しています。その卓越した文学的才能により、ノーベル文学賞候補としてもたびたび名前が挙がっていました。


赤と青とエスキース / 青山 美智子(PHP研究所)

■芸術と人間ドラマの連作短編小説をよみたいあなたにおすすめの1冊

メルボルンの若手画家が描いた一枚の「絵画(エスキース)」。
日本へ渡って三十数年、その絵画は「ふたり」の間に奇跡を紡いでいく――。

 引用:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「短編はあまり読まないんですか?」

紹介された方は普段、短編小説をあまり読まないらしいです。偶然にも短編小説を読む機会があったそうで参加いただきました。が、この短編集、じつは連作短編の構成を持っています。通常の短編とは異なり、各話が互いに関連しながらも独立したストーリーを展開していくスタイルです。物語の流れが変則的であることも、楽しめる要素です。

■参加者が盛り上がったところ

「小道具が描写されるたびにテンションが上がる」

「エスキース」はフランス語で素描や概要を意味し、このタイトルは本作の芸術的な内容が盛り込まれています。作中では絵画に関する小道具が複数の短編をまたいで登場し、読者に連続性と期待感をもたらします。「これは!」という驚きの瞬間が、物語にユーモラスなスパイスを加えます。

■この本をより楽しめる情報

2021年の本屋大賞で2位に輝いた『お探し物は図書室まで』の著者が、新たな創作の境地を切り開いた連作短編集。
絵画愛好者や芸術に興味がある人はもちろん、そうでない人も夢中になれる内容です。芸術に詳しくない読者でも楽しめるよう、普遍的なテーマや人間ドラマが丁寧に描かれています。


地球はおおさわぎ(新選・子どもの文学―SF) / 小峰書店

■大人も楽しめる児童書短編小説を読みたいあなたにおすすめ1冊

興味深い質問

「酔うんですか?」

『ランナー』という短編は、未来のオリンピックを舞台に、選手がベルトコンベアー上で走る独特の競技を描いています。主人公が世界記録を達成するも、観客の殺到に恐れを感じてコンベアを降りると、三半規管の混乱から倒れてしまいます。

「酔っているんですよね。ひとつのことに特化しすぎると、ほかのことがてんでダメになる」恐ろしい話です。

■参加者が盛り上がったところ

「DBの主人公」

表題作『地球はおおさわぎ』は、遠い星から来た石「シリコニイ」が地球の銅像や人形に命を吹き込んで大混乱を起こす物語です。ここから『ドラゴンボール』の話題になりました。孫悟空は強敵との戦いに好奇心を持ちつつ、自衛のために戦っていると。

子どもの頃、「悪い奴」といえば人を殴る、無視する、物を盗むといった行為をする人のことだと思っていました。が、それだけではありません。表面的には繁栄をもたらすが、実はその後に人々を搾取する「そんな恐ろしく悪い奴」がいる。ということを気づかせてくれる短編です。

■この本をより楽しめる情報

表題作の筒井康隆氏、小松左京氏、眉村卓氏を含む名だたる8名の著名なSF作家たちによるアンソロジーです。各作家が独自の視点と創造力を発揮した作品群は、児童書として分類されながらも、その内容の豊かさと深さは大人の読者にも十分に楽しめるレベルです。


人間の尊厳と八〇〇メートル / 深水 黎一郎 (東京創元社)

■精緻な言い回し、思考を刺激されたいあなたにおすすめ1冊

このこぢんまりとした酒場に入ったのは、偶々のことだ。そこで初対面の男に話しかけられたのも、偶然のなせるわざ。そして、異様な“賭け”を持ちかけられたのも―。あまりにも意外な結末が待ち受ける、一夜の密室劇を描いた表題作ほか、極北の国々を旅する日本人青年が遭遇した二つの美しい謎「北欧二題」など、本格の気鋭が腕を揮ったバラエティ豊かな短編ミステリの饗宴。――

引用元:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「走ったことありますか?」

表題作には800メートル走の勝負を持ちかけられるエピソードがあります。読書会の参加者には陸上経験者の方いました。そして800メートル走の厳しさについて語ってくれました。この距離ではダッシュに近しい速いペースが求められ、太腿への負担や肺の激しい負担があります。「絶対に走りたくない」と、ましてやお酒を飲んでいる状態での走行は考えられないそうです。

■参加者が盛り上がったところ

「もしかしてそうなのか。その気になりそう」

作中800メートル走への勝負を説得する際に量子力学やハイゼンベルクの不確定性理論が使われたというユニークなエピソードがあります。この意外なアプローチは、異なる角度からの説得です。
そして尊厳への訴え。「もしかしてそうなのか?」読者もこの説得方法に詐欺に引っかかるような心理状態を引き起こます。「その気になりそう」そのプロセスに「なるほど」でした。

■この本をより楽しめる情報

第六十四回日本推理作家協会賞受賞作を含む五つの謎の短編で構成されています。紹介者は京極夏彦氏のファンで、凝った言い回しを楽しめる方にはおおすすめできとのことです。


執念の家譜 / 永井 路子 (講談社文庫)

■語られていない歴史のドラマを読みたいあなたにおすすめ1冊

三浦光村は元服して初めて、三浦一族と北条氏との40年にわたる暗い宿縁を知る。同じ関東の豪族でありながら三浦氏は、鎌倉将軍家補佐の任を北条氏に奪われ続けたうえに、北条氏は、鎌倉幕府存続のために、地元の豪族・三浦氏を巧妙に利用してきたのだ。だが、三浦氏の北条に対する反撥は、何度かの争いを経て増幅されてゆく……。という表題作のほか、曽我兄弟仇討ちを扱った「裾野」など、精緻な歴史小説の短編6作を収める。

引用元:「講談社BOOK倶楽部」より

興味深い質問

「短編の歴史小説はどういうエピソードがあるんですか?」

長編では語りきれない小さなエピソードや短いストーリーを集めたものです。短編ならではの短い制約の中で、歴史的背景や登場人物の心理を巧みに描くことが、著者の技術の見せ所となっています。特に北条家と三浦一族に関するエピソードは、限られた範囲内で長年の物語が展開されタイトル通りで圧巻です。

■参加者が盛り上がったところ

「大河ドラマ」

「そう言えば、大河ドラマの『どうする家康』の放送がもうすぐ終わりですね」という話から、日本の歴史に関する知識を大河ドラマから得ているという参加者もいました。「もう10年以上も大河ドラマを見続けている」という熱心なファンもいれば、「私は『翔ぶが如く』以来、あまり見ていない」とも。
久しぶりに大河ドラマを観たいという気持ちが再燃しました。

■この本をより楽しめる情報

1985年に出版された後、現在では絶版となってしまったこの作品は、今や古本やKindleのような電子書籍でしか読むことができません。短編集であるにもかかわらず、物語は非常に凝縮されており、各話ごとに強い印象が残るはずです。


何があってもおかしくない / エリザベス・ストラウト (早川書房)

■人生の不完全さに共感したいあなたにおすすめ1冊

生まれ育った田舎町を離れて、都会で作家として名をなしたルーシー・バートン。17年ぶりに帰郷することになった彼女と、その周囲の人々を描いた短篇9篇を収録。卓越した短篇集に与えられるストーリー賞を受賞した、ピュリッツァー賞作家ストラウトの最新作!

引用元:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「悲壮感はないんですか?」

帯には「こんなもんよ。人生なんてのは、こんなもん」という文言。一見するとかなり悲観的でネガティブです。が、実際に読了すると、読後感はこの帯のメッセージとは違ったようです。物語を通じて「そんなに悪くない」という、不思議と肯定的な気持ちにさせてくれる、そんな短編集です。

■参加者が盛り上がったところ

「人生が充実してる人って……」

紹介された方の感想によれば、この作品は人生が充実している人にとっては、特に心に響かないかもしれないとのことです。彼らにとっては、この物語に共感性が低く、あるいは面白くないと感じられるかもしれません。
「しかし、本当に人生が充実している人ってそんなに多くいるのでしょうか!?」という問いが投げかけられ、その場にいた全員が爆笑しました。キレがありました。
たしかにそうなのかもしれません。この反応は、多くの人が感じているかもしれない、人生の不完全さや不確実性に対する共通の認識なのでしょうか。

■この本をより楽しめる情報

前作『私の名前は、ルーシー・バートン』の姉妹作として位置づけられており、さらに多くの賞を受賞しています。ストーリー賞受賞だけでなく、O・ヘンリー賞を受賞した作品も収録されています。さらに、12月5日には『ああ、ウィリアム!』という関連作も出版され、これにより著者の世界観とキャラクターがさらに広がることでしょう。



【まとめ】

短編小説の魅力はそのコンパクトさにあり、ひとつの短い物語の中で、作者は創造力を存分に発揮し、独特のアイデアや深いテーマを掘り下げています。中には長編に負けないぐらいの読後感を得られる作品もあります。

今回読書会では、一冊の短編集で多彩なストーリーがあったり、短編すべてがまとまったひとつの作品を構築する連作短編のようなものまで紹介されました。また機会があれば開催したいと思います。

関連記事一覧