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読書会 2023年4月8日

今回で第5回目を迎える海外小説限定の読書会を開催しました。

国内の小説に比べて読者が少ない海外小説。読書会の集まりも国内の小説よりは少ないのですが、今回もお集まりいただきました。

海外小説には非日常の魅力的な物語がたくさんあり、海外小説を読むことで、自分自身の世界観や考え方が広がることもあります。

ということで今回も素晴らしい海外小説が集まりましたので紹介します。


ライフ・アフター・ライフ / ケイト・アトキンソン(東京創元社)

■人生の岐路に読みたいあなたにおすすめの1冊

アーシュラは臍の緒が首に巻きつき、産声もあげずに死亡した。しかし、もし死ななかったとしたら……。幾度も生まれ、様々な死を迎え、幾つもの別の生を生きる一人の女性。スペイン風邪で、溺れて、屋根から落ち、ロンドン大空襲で……、デジャヴュとは生き続けられなかった生のかすかな名残なのだろうか? 運命のすべてを受け入れる〈アモル・ファティ〉の考え方に正面から挑む、人生の分かれ道について考えさせられるコスタ賞受賞の傑作!

引用元:(版元ドットコム)より

RENSの読書会に2回目の登場となりました『ライフ・アフター・ライフ』です。
前回この小説を紹介された方も今回の読書会に参加されていたので、読了した者同士の会話が盛り上がりました。

■興味深い質問

「内容わかりました? 面白かったですか?」

この小説は、一般的なタイムループものとは異なり、人生が繰り返される中で記憶を引き継がずに進みます。厳密に言えば、「なんとなくデジャヴのような感覚」だけが残るとのことです。そのため、この設定にうまく馴染まず、読み進めるのが難しいです。

死後に繰り返される人生。いつ死ぬか、話の内容がどういうものなのかが見えてきません。それは戦争の話なのか、輪廻の話なのか、正しい選択をするまで何度も繰り返されるのか……。統一性のない世界観が人生を問い続けます。

■参加者が盛り上がったところ

「必要以上に最初から優しい人は裏がある?」

小説の中にはいくつもの枝分かれした人生があり、中には暴力が描かれる場面もあります。暴力をふるう人物との初対面では、とても親切な印象があったそうです。

「詐欺師やDV男性にはこの傾向があるのではないか?」という話題が盛り上がりました。

というのも初対面で詐欺師がとても親切で、信用できる人だと思わされることが多いです。ターゲットとなる人々の弱みを突いて、その人々に対して共感し、理解し、協力するような態度を取るからではないでしょうか。

■この本をより楽しめる情報

この本のテーマは何でしょうか? 
参加者の一人が「人生は1度きり。1度しかないから素晴らしい」と言いました。
読んだ人それぞれに異なる感想がある、奥深い作品であることは間違いないでしょう。

ほかにタイムリープのもとしてケン・グリムウッドの『リプレイ』(新潮文庫)クレア・ノースの『ハリー・オーガスト、15回目の人生』(角川文庫)もおすすめです。


血と暴力の国 / コーマック・マッカーシー
(扶桑社ミステリー)

■災厄のような暴力を考えるあなたにおすすめの1冊

ヴェトナム帰還兵のモスは、メキシコ国境近くで、撃たれた車両と男たちを発見する。麻薬密売人の銃撃戦があったのだ。車には莫大な現金が残されていた。モスは覚悟を迫られる。金を持ち出せば、すべてが変わるだろう…モスを追って、危険な殺人者が動きだす。彼のあとには無残な死体が転がる。この非情な殺戮を追う老保安官ベル。突然の血と暴力に染まるフロンティアに、ベルは、そしてモスは、何を見るのか-“国境三部作”以来の沈黙を破り、新ピューリッツァー賞作家が放つ、鮮烈な犯罪小説。

 引用:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「この物語って、ミステリーなんですか?」

私自身、コーマック・マッカーシーの小説を何冊か読んだことがあります。彼がミステリー小説も書いていることを知らなかったので、気になりました。

ノーベル文学賞の候補とも噂される著者にはエンターテインメント性の高い作品より、どちらかとえいえば文学作品が多い印象です。

紹介された方は、扶桑社ミステリーから出版されているので「ミステリー小説」だと思って購入したそうです。この作品がノワール小説なのか、クライムノベルなのかはわかりませんが、タイトルにもある通り、暴力的な内容であることは間違いありません。

■参加者が盛り上がったところ

「地震や台風、津波といった災害のような存在」

「危険な殺人者」は作中で「何を考えているのかわからない」「いや、何も考えていないのかもしれない」「もはや人間でもない?」という不可解な存在として描かれているそうです。

指示されたことだけをこなす機械のような人間。自己判断やクリエイティブなアプローチを用いず、与えられた指示に従って作業をこなすだけで、非人間的な怖さがあります。

さらに著者特有の徹底的に心理描写を排除した書き方がそうさせるのか、話を聞いているとかなり不気味なイメージが浮かび上がりました。

■この本をより楽しめる情報

この小説は『ノーカントリー』という題でクライム・スリラーとして映画化もされています。
また、『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』というタイトルで最近ハヤカワepi文庫から出版もされています。

紹介された方は”アンチクライマックス”と言っていました。そういえば大江健三郎の小説にもいくつかアンチクライマックスがあったなあと思い出していました。


タタール人の砂漠 / ディーノ・ブッツァーティ(岩波文庫)

■現状を変えたい(抜け出したい)あなたにおすすめ1冊

辺境の砦でいつ来襲するともわからない敵を待ちつつ、緊張と不安の中で青春を浪費する将校ジョヴァンニ・ドローゴ-。神秘的、幻想的な作風でカフカの再来と称される、現代イタリア文学の鬼才ブッツァーティ(一九〇六‐七二)の代表作。二十世紀幻想文学の古典。

引用元:「版元ドットコム」より

この小説を読むことになったキッカケ

イタロ・カルヴィーノやアントニオ・タブッキといったイタリアの作家を読んでいて、他にも調べたらディーノ・ブッツァーティに出会いました。

『タタール人の砂漠』というタイトルがどういう意味なのか想像力を掻き立てられました。ちなみにこの小説イタリアで刊行されたのは1940年ですが、岩波文庫からは2013年に出版されていて当時少し話題になったので興味を持っていました。

■参加者が盛り上がったところ

「会社を辞める or 転職すると言ってずっとそのままの人いませんか?」
「だいたい男の人に多いんじゃないですか? 女性は公言せずにサクッと辞めますよ」

この小説の主人公は、砦から飛び出して新しい環境で働きたいと望んでいます。しかし、彼は環境を変えることができず、ずるずると時間を浪費し、何年も砦にとどまることになります。

新しい環境に行くことで何かを失うことを恐れているのかもしれません。もしかすると、砦での仕事が彼にとって居心地が良く、変わることを拒否しているのかもしれません。

このことは、現代の会社での生活でも同様に当てはまるということで話題になりました。周囲を見渡すと、そのような人たちがたくさん存在するのではないでしょうか。

■この本をより楽しめる情報

イタリアを代表する著者の作品は、幻想的で不条理なものも多くありますが『タタール人の砂漠』は読みやすくて、読後も余韻が続きます。

現状を見つめなおすいい機会になると思いますので、興味のある方はぜひとも読んでみてほしい小説です。


神を見た犬 / ディーノ・ブッツァーティ(光文社古典新訳文庫)

■イタリア文学的ショートショート読みたいあなたにおすすめの1冊

とつぜん出現した謎の犬におびえる人々を描く表題作。老いたる山賊の首領が手下にも見放され、たった一人で戦いを挑む「護送大隊襲撃」…。モノトーンの哀切きわまりない幻想と恐怖が横溢する、孤高の美の世界22篇。

引用元:版元ドットコム

興味深い質問

「星新一みたいなんですか?」

この本を読んだ方の中には、星新一氏に似ているという印象を受けた人もいるようです。
紹介された方はそうではありませんでした。

ブッツァーティもSF作品を書いているのでそういった要素があっても不思議ではありません。

■参加者が盛り上がったところ

「降りていくという発想が面白い」

表題作のほかに紹介された短編が『七階』でした。

だいたいの内容は「病院内で患者たちは病気の程度によって7つの階に分かれて入院していて、最上階には軽症の患者、下に行くほど重症の患者がいる」とのことです。

何か理由があって、天にではなく地に下へ下へ降りていく患者……。シュールでありながらブラックなニュアンスは『タタール人の砂漠』にも共通するところがあります。

■この本をより楽しめる情報

ブッツアーティはいくつか短編集を書いていてどれも評価が高く、この作品もハズレはないと思います。短編集が好きな方は、入門編にいかがでしょうか。



【まとめ】

今回の読書会で紹介された海外小説の中には、人生の意義や価値観を考えさせる内容であったり、災厄のような不可解な存在が登場し、読者を緊張感に包ませる物語。そして自分自身を変えることができる可能性を描いた物語、さまざまでした。

物語に込められた深い意味を楽しめる作品が多く紹介されました。
参加者たちは、それぞれのおすすめ作品について語り合い、海外小説の魅力に触れた会となりましたので、『海外小説』読書会は継続して開催したいと思います。


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