海外小説読書会で紹介された『月と六ペンス』 / サマセット・モーム(2023年1月21日)
圧倒的な熱量、芸術好きにもたまらない1冊です。
前回「まわりに読んだ人がいない小説読書会」(2023年1月8日)の『人間の絆』サマセット・モームが紹介されましたときに、『月と六ペンス』も話題にあがりました。
「いろんな読書会でよく紹介される本のひとつがこの『月と六ペンス』です」と。
普段本を読まない人でも知っているぐらい有名な作品ですが、若者から紹介されたのが意外に思ったそうです。
魅力的な小説
ときどきSNSなどでも読了発信されています。流行り廃りがない不朽の名作、読んだ人はその魅力にとらわれて誰かにも”読んでほしい”そんな気持ちになるような内容です。
【あらすじ】
あるパーティで出会った、冴えない男ストリックランド。ロンドンで、仕事、家庭と何不自由ない暮らしを送っていた彼がある日、忽然と行方をくらませたという。パリで再会した彼の口から真相を聞いたとき、私は耳を疑った。四十をすぎた男が、すべてを捨てて挑んだこととは――。ある天才画家の情熱の生涯を描き、正気と狂気が混在する人間の本質に迫る、歴史的大ベストセラーの新訳。
(引用元:版元ドットコム)
この小説は、人生のベスト本に選ぶ方がいるぐらいの世紀の傑作です。
「彼の人間性がクソなんです!」
強烈な一撃です。(これは主人公ストリックランドに抱いた印象)
この発言には、それほど嫌悪感が含まれていないように感じました。その思いっきりの良い言葉には、どこか晴れ晴れとした感触があったからです。
しかし、主人公であるストリックランド自身の振る舞いは、現代のコンプライアンスに反する言動のオンパレードなのです。ここで言及することすら恐ろしい……。
紹介された方が、断言的に主人公のキャラクター性を述べることで、ほかの参加者もより理解ができたように思いました。
こんな最低な印象であったにもかかわらず、この小説を読み終えたあとでは、ストリックランドに対してまた違った評価になったそうです。
最後まで読むと「人間性がクソ」とは違った印象になることがこの小説の最大の魅力なのだと再認識できました。
焼き付いているシーン
「なんといっても壁画のシーンです!」
これはもう百聞は一見にしかず、いや一読にしかずです。
未読の方は読んでみて下さい。熱いです、圧倒的な熱量を体感できます。
(主人公のストリックランドのモデルは、フランスの印象派画家のゴーギャンともいわれています)
「月と六「タイトルの『六ペンス』って意味があるんですか?」
なぜ、三ペンスでもなく、四ペンスでもなく、”六ペンス”なのでしょうか?
読書会の中では答えが見つかりませんでした。
(『月と六ペンス』というタイトルの意味合いについては巻末の解説でなんとなくわかりました。月=芸術的熱量への狂気、六ペンス=くだらない世俗的な因襲)
当時(1919年)、六ペンスの貨幣価値が正確にどの程度だったのかわかりません。それでもイギリスの通貨単位としても少額であったことは明白です。
「六ペンスで何が買えたのか? 六ペンス……六ペンス……」
謎のままでした。
装丁がマットな『月と六ペンス』
「この表紙艶消しで少し高級感がありますね」
「しかも金原瑞人さん」「児童文学といえばこの人ですね」「そうですか。児童文学という印象はそれほどありません」「娘さんは芥川賞作家の金原ひとみさんですね」「金原ひとみさんなんですか!」
というような会話をしながら和やかに『月と六ペンス』の紹介は終わりました。
読書会でも紹介されることが多い名作中の名作です。個人的には読んだ人で「面白くなかった」という感想を聞いたことがありません。主人公は画家のポール・ゴーギャンがモデルだという話もあります。芸術好きな方にもおすすめの一冊です。