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2023年1月28日の読書会

年初に開催した「2022年ベスト本」読書会の第2弾です。
ベスト本にはどうやって出会ったのでしょうか? 

「本屋で表紙やあらすじ、帯をみて面白そうだから買いました」いわゆる”ジャケ買い”が意外と多かったです。そういえば保守的になっているのか私はあまり”ジャケ買い”をしないので、感心してため息を漏らしました。

その中から紹介してくださった本たちはこちらです。

開かせていただき光栄です / 皆川 博子

■多彩なキャラクターたちが登場する物語を読みたいあなたにおすすめの一冊

町18世紀ロンドン。外科医ダニエルの解剖教室からあるはずのない屍体が発見された。四肢を切断された少年と顔を潰された男。戸惑うダニエルと弟子たちに治安判事は捜査協力を要請する。だが背後には詩人志望の少年の辿った恐るべき運命が…解剖学が最先端であり偏見にも晒された時代。そんな時代の落とし子たちが可笑しくも哀しい不可能犯罪に挑む、本格ミステリ大賞受賞作。

 引用:版元ドットコム より

■興味深い質問

「読んだことがあるんですか?」
紹介された方は、この小説を一度図書館で読んでから面白かったので購入したそうです。
「キャラクターが立っていて、シリアスでありながらコミカルな部分にもひかれました」

■参加者が盛り上がったところ

「私も昔読んだことがあって、途中で挫折しました」

他の参加者もこの本を出版当時ぐらいに読んだことがあったようです。(2011年出版)
どこで読むことをやめたのか、なぜやめたのか? もうずいぶん昔のことなので覚えていないようですが、これをキッカケに読まれるのかもしれません。

数年の時を経て、読書会で挫折本に出会う、この偶然の巡り合わせに私は興奮しました。

■この本をより楽しめる情報

2012年に本格ミステリ大賞を受賞作。
タイトル『開かせていただき光栄です DILATED TO MEET YOU』について
元は(お目にかかれて光栄です」/ delighted to meet you)という言い回しを、死体解剖を連想させるように言い換えて(開かせていただき光栄です / dilated to meet you)としています。

文化功労者にも選ばれた本格ミステリ・幻想小説の重鎮である皆川博子氏のピリッと刺激的なタイトルから描き出される磨き上げられた物語。

■こちらの記事も併せて読みたい


方舟 / 夕木 春央

■迫りくるスリルを肌で感じたいときにおすすめの1冊

9人のうち、死んでもいいのは、ーー死ぬべきなのは誰か?

大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。
翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれた。
――そんな矢先に殺人が起こった。
――タイムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。

引用元:版元ドットコム

■興味深い質問

「再読されたんですか? 伏線がわかりましたか?」

紹介された方は、再読してその伏線やキャラクターの言動、違和感を洗ったようです。
一度最後まで読んでいるので、物語の端々に隠された手がかりや暗示されたものを見つけられ感心していました。

■参加者が盛り上がったところ

「オチがわかりません。カスリもしなかったです」

『方舟』を読んで気持ちよく騙されましたようです。紹介された方の表情は晴れやかで、さっぱりとした爽快感が漂っていました。
「ロジックで解けるかもしれませんが、やっぱりひらめきがいるんです!」
ひらめき、いい言葉です。

■この本をより楽しめる情報

週刊文春ミステリーベスト10国内部門第1位やMRC大賞2022第1位の作品です。
2022年の本屋大賞にもノミネートされています。

SNSで読書アカウント界隈で毎日見かけるほどの盛り上がりを見せていた衝撃作。
RENSの読書会でも『方舟』は2度目の登場です。


侍女の物語 / マーガレット・アトウッド

■フェミニズム&ディストピア小説を読みたい人へおすすめの1冊

侍女のオブフレッドは、司令官の子供を産むために支給された道具にすぎなかった。彼女は監視と処刑の恐怖に怯えながらも、禁じられた読み書きや化粧など、女性らしい習慣を捨てきれない。反体制派や再会した親友の存在に勇気づけられ、かつて生き別れた娘に会うため順従を装いながら恋人とともに逃亡の機会をうかがうが…男性優位の近未来社会で虐げられ生と自由を求めてもがく女性を描いた、カナダ総督文学賞受賞作。

引用元:版元ドットコム

■興味深い質問

「世界情勢が悪化する過程は徐々にではなく、急速に変化するのではないでしょうか?」

『侍女の物語』はディストピア小説といわれていますが、その状況へ陥る過程も少し描かれています。
通常の生活環境が一変するさま、それは何年何十年もかけてではなく一瞬で変容していくーー、まさに現実の社会でも起こりえることです。

■参加者が盛り上がったところ

「ジャンルはSFに該当すると思いますが、その世界観というか設定が説明されずに徐々に明らかになっていきます」
SF小説の多くは冒頭から前提条件のような説明すべきポイントを明確にしてから、物語が展開される傾向にありますが、この点おいては『侍女の物語』は特異です。

■この本をより楽しめる情報

カナダ総督文学賞やアーサー・C・クラーク賞の受賞作であり、フェミニズム小説としても注目されています。

「ハンドメイズ・テイル / 侍女の物語 」としてHuluでドラマ化、また映画化もされています。
続編として2020年には『誓願』が出版され、ただのSFディストピア小説で片づけることができない問題作。


可制御の殺人 / 松城 明

■理系ミステリ、プログラミング好きにおすすめの1冊

女子大学院生が自宅の浴室で死亡しているのが発見された。警察は自殺と判断したが、その裏には人間も機械と同じように適切な入力(情報)を与えれば、思い通りの出力(行動)をすると主張する謎の人物・鬼界が関わっていた・・・・・・。小説推理新人賞で選考委員からその才能を高く評価された著者によるデビュー連作短編。

引用元:版元ドットコム

■興味深い質問

「中二病的なあれですか?」
「はい、そうでね。そういった部分もあるのかもしれません」

主人公?(謎の人物・鬼界)の思考や実験的な行動が、中二病っぽくてどこか親しみを覚えたのでこの質問がでました。(鬼界というネーミングも実に中二病っぽい響きがあります)

■参加者が盛り上がったところ

「変に重たい過去とかを背負ってないんです」
紹介された方の好みとしては、主人公や主要な登場人物に何か過去に起こった辛い体験による心の傷や、闇を抱えていない方が良いらしいです。

一方、もう一人の参加者は「重たい過去を持ったキャラクターに魅了される」と正反対の意見で面白かったです。

■この本をより楽しめる情報

著者自身も工学部出身の理系であり、その知見がいかんなく発揮されているとのことです。
短編「可制御の殺人」で第42回小説推理新人賞最終候補にもなっており、新進気鋭の注目作家です。


赤い蝋人形(新かぐや姫) / 山田風太郎

■なぜ犯行を行ったのか? 人の心、動機に興味があるなたにおすすめの1冊

電車火災事故と人気作家の妹の焼身自殺。二つの事件を繋ぐ驚愕の秘密とは。表題作の他「30人の3時間」「新かぐや姫」等、人間の魂の闇が引き起こす地獄を描く傑作短篇集。

「地獄だ。人間地獄がここにある。
推理に何が救えよう」 ――米澤穂信氏、震撼

それでも、読むのを止められない。
2022年、山田風太郎生誕100年!

引用元:河出書房新社 より

■興味深い質問

「重たい過去を背負っているんですか?」
『可制御の殺人』の紹介のあとの流れで、この話題になりました。

■参加者が盛り上がったところ

「犯人を当てることより、なぜそんなことをしたのか? 動機に興味があります」
表題作の『赤い蠟人形』という短編集の中でも一番お気に入りだったのが『新かぐや姫』でした。

俗に言う「ホワイダニット」(Why done it = なぜ犯行を行ったか)と呼ばれる犯行動機に魅かれ、共感とも違う表現のしがたい感情になったようです。

■この本をより楽しめる情報

言わずとしれた山田風太郎氏の傑作選。忍法帖シリーズや時代物以外でも幅広く質の高い作品を出版し、推理本格ミステリに独特の世界観が加わった珠玉の短編集は必読です。

■こちらの記事も併せて読みたい


ほんまにオレはアホやろか / 水木しげる

■最近なんだか落ち込んでいるあなたにおすすめの1冊

子供の頃から勉強嫌い。就職してもすぐにクビ。戦争で片腕を失い、九死に一生を得るも赤貧時代が待っていた。だけどクヨクヨする必要はない。それはそれなり、救いがあるものなのだ。激動の昭和史と重ねつつ、『テレビくん』で講談社児童まんが賞受賞までを綴ったおとぼけ自伝。読めば元気がわくこと必至!

引用元:版元ドットコム

■興味深い質問

「えっ、片腕を失っているんですか?」
戦争で敵機の爆撃により左腕を負傷し切断しています。

「幼少の頃から妖怪に慣れ親しんだのも水木しげる氏のおかげです。怯えながらでもおどろおどろしい妖怪本を食い入るように読みましたけど、その情報は知りませんでした」

■参加者が盛り上がったところ

「昨年はこの本を読んで元気になりました」
紹介された方は個人的にこの本にかなり勇気をもらえたらしいです。著者の人生に対するポジティブな見方や楽観的な考え方にふれると、辛いことを笑い飛ばせるはずです。

本のページにはいくつかの挿絵があって、それがまたユーモアに溢れています。

■この本をより楽しめる情報

『ゲゲゲの鬼太郎』や『悪魔くん』で知られる著者による新たな一面が垣間見えます。
鳥取県境港市には”水木しげるロード”や”水木しげる記念館”があります。 http://mizuki.sakaiminato.net/



化け者心中 / 蝉谷 めぐ実

■江戸時代の呼吸を存分に味わえる1冊

その所業、人か鬼か―時は文政、所は江戸。当代一の人気を誇る中村座の座元から、鬼探しの依頼を受け、心優しい鳥屋の藤九郎は、かつて一世を風靡した稀代の女形・魚之助とともに真相解明に乗り出す。しかし芸に心血を注ぐ“傾奇者”たちの凄まじい執念を目の当たりにするうち、藤九郎は、人と鬼を隔てるもの、さらには足を失い失意の底で生きる魚之助の業に深く思いを致すことになり…。善悪、愛憎、男女、美醜、虚実、今昔―すべての境を溶かしこんだ狂おしくも愛おしい異形たちの相克。

引用元:版元ドットコム

■興味深い質問

表紙を見て「何を食べているんですか?」
「鳥? 錦鯉?」

読書会を始める前に”ジャケ買い”について話題になっていました。
タイトルの『化け者心中』と表紙の雰囲気はかなりマッチしています。デザインもイラストの美しさも、表紙を見ただけで期待が持てます。

■参加者が盛り上がったところ

「舞台に対するその姿勢が見事です」
紹介された方は演劇にも明るく、『化け者心中』に登場する稀代の女形の人物像(その描き方)について称賛していました。

■この本をより楽しめる情報

選考委員全会一致の圧倒的評価を得て11回小説野性時代新人賞を受賞。
紹介された方が、導入の部分を少し話してくれました。すぐに引き込まれて続きが知りたくなるようなそんなお話です。


グッバイ、コロンバス / フィリップ・ロス

■アメリカの青春を感じられる1冊

アメリカを代表する作家、フィリップ・ロスの伝説の青春小説が待望の新訳で瑞々しく甦る。

真夏のプールで運命的な出会いを果たしたニールとブレンダ。二人はたちまち引かれ合い、結婚を意識し始める。若い男女の恋には危うさがつきまとい、季節の移ろいとともに、輝かしい日々は過ぎ去っていく。はかなくほろ苦い青春期の恋を瑞々しい文体で描いた永遠の名作。

引用元:Amazon より

■興味深い質問

「ライ麦畑でつかまえて、のような? 青春小説ですか?」
「そうですね共通する部分があると思います」
日本の小説と少し違うのは、独白型の心情吐露がつらつらと並べられているのではなく、洒落た感じでのカラッとした文体で描かれています。

■参加者が盛り上がったところ

「それにしても10代の頃の淡い恋愛って良いですよね」
懐かしさと、甘酸っぱさ、苦味を噛み締めて話をしました。

■この本をより楽しめる情報

著者は全米図書館賞を2度受賞ほか数多くの受賞歴があるアメリカ文学を代表する作家のひとりです。
当時のアメリカにおけるユダヤ人家族の貧富や生活習慣が読み取れます。


【まとめ】

参加された方は、本を選ぶときに賞レースを勝ち抜いた作品であるとかは気にしていない、と断言していました。例えば、芥川賞や直木賞、本屋大賞だから読む、といったことはなく純粋な読書欲と直感で手にするようでした。

その中から選出された2022年ベスト本、面白くないわけがありません。

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