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読書会 2023年9月2日

9月に入り1回目の読書会もジャンルは自由な小説限定ということで開催しました。

ジャンル制限のない読書会は、参加者が自身の好みや興味に合った作品を選びやすく、異なる視点から物語の楽しみ方を共有できる場でもあります。

紹介された小説は以下のとおりです。
内容には一部ネタバレを含みますので、ご注意下さい。


これはペンです / 円城 塔(新潮文庫)

■”書くこと”を改めて考える思考実験的な小説を読みたいあなたにおすすめの1冊

叔父は文字だ。文字通り。文章自動生成プログラムの開発で莫大な富を得たらしい叔父から、大学生の姪に次々届く不思議な手紙。それは肉筆だけでなく、文字を刻んだ磁石やタイプボール、DNA配列として現れた―。言葉とメッセージの根源に迫る表題作と、脳内の巨大仮想都市に人生を封じこめた父の肖像「良い夜を持っている」。科学と奇想、思想と情感が織りなす魅惑の物語。

引用元:「BOOK」データベースより

■興味深い質問

「外的要因によって言葉が変化する経験ってありませんか?」

上手に字が書けなかったり、慣れない漢字や言葉を書こうとすると、使い方がうまくいかずに違う単語や言葉に置き換えるという経験はよくありますね。

文章を作成する過程で、意図している言葉や表現を正確に伝えるために、文字や言葉の選択は重要です。が、時にはその選択肢というのが外的な要因によって左右される。

読書会の参加者誰もが経験したことのある最も共感できた内容でした。

■参加者が盛り上がったところ

「中国の部屋?」

「中国の部屋」という実験では、一人の人間が中国語の文を処理するためのルールブックを持ち、そのルールに従って中国語の質問に対する答えを出すというものです。しかし、その人間自体は中国語を理解していません。

この実験は、コンピュータがプログラムやルールに基づいて情報を処理する場合、それ自体が意味や理解を持っているわけではい、というものです。

「これはペンです」も思考実験のような要素があり、内容にもとても興味が湧きました。

■この本をより楽しめる情報

芥川賞作家が執筆した思考実験。その深いテーマや難解な表現によって、読者にとって挑戦的な体験をもたらします。この小説を紹介された方も一度読んでその難解さに一度本を閉じたそうですが、再度読み始めました、とのことです。

読者にとって「考えさせられる」体験、問題提起を行っています。複雑さや難解さこそが、この作品の持つ魅力のひとつです。


ヘンリ・ライクロフトの私記 / ギッシング (岩波文庫)

■自身のコンプレックスに向き合うあなたにおすすめの1冊

南イングランドの片田舎に隠栖して独り古典と田園の世界に心豊かに生きる一人物の自伝に仮託して書かれたギッシング(一八七五―一九〇三)最晩年の作.繊美この上ない自然描写は英国人ならざる我々をも魅してやまぬが,何よりも我々の心をうつのはこの作のすみずみにまで行きわたる,自分というものに対する強靭な誠実さである

 引用:「岩波書店」より

興味深い質問

「コンプレックスって誰でも抱えていますよね?」

物語の中でヘンリ・ライクロフトのコンプレックスが春夏秋冬にわたって延々と続きます。人間誰しもが自身の弱点や過去の経験からくるコンプレックスを抱えていると思います。

紹介者自身のコンプレックスが作中のそれと似ていることに感情移入したり、物語への入り込みをより深めることになりました。同じようなコンプレックスを抱えることで、ヘンリ・ライクロフトの思考や感情に対してより理解を示します。

一方で、もし自身のコンプレックスとヘンリ・ライクロフトが持つものがまったく違った場合、そこまで共感しなかったのかもしれません。

■参加者が盛り上がったところ

「美しい田園風景……?」

田園風景や自然描写の美しさを期待して物語を読み始めましたが、予想とは異なる展開に驚いたようです。実際に物語を読んでみると、自然描写が少なく、代わりにヘンリ・ライクロフトの内面や思考が主に描かれていました。

「打算 or 純粋」

打算的な欲求や純粋な欲求、どちらの欲求にも向い、目標を達成する人々が登場します。ヘンリ・ライクロフトにはどちらもなく中途半端な部分を感じ、それが劣等感になっています。この部分に強く共感したそうです。

■この本をより楽しめる情報

「ヘンリ・ライクロフトの私記」は物語のような随筆形式です。作者の思考や感情を独自の言葉で綴られていて、ヘンリ・ライクロフトという現実の出来事とは異なる架空の展開やキャラクターを取り入れることも面白いです。


プロジェクト・ヘイル・メアリー / アンディ・ウィアー(早川書房)

■”人類の危機”理系じゃなくても楽しめる冒険好きなあなたにおすすめ1冊

未知の物質によって太陽に異常が発生、地球が氷河期に突入しつつある世界。謎を解くべく宇宙へ飛び立った男は、ただ一人人類を救うミッションに挑む! 『火星の人』で火星でのサバイバルを描いたウィアーが、地球滅亡の危機を描く極限のエンターテインメント

引用元:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「物語において記憶を失ったキャラクターには、どんな背景があると思いますか?」

物語において記憶を失ったキャラクターに対して、様々な背景が考えられます。作品内で仕掛けがある場合やキャラクターの発展を引き出すために、記憶喪失が使用されることがあります。その背景はとどのようなものでしょうか。

「トラウマや辛い過去」「犯罪や秘密」「人格の転換」……それらは自己防衛から来るものなのでしょうか。

■参加者が盛り上がったところ

「映画化はできるのか?」

SF小説を読むときには、想像力がかなり求められます。特に宇宙空間や未来の技術、異世界の描写など、文字で表現されるイメージを映像化するためには独自のビジュアル表現が必要です。

映画は視覚的な要素が強調されるため、宇宙空間の描写など、見たことのないものを映像化することで、観客に新たな体験を提供することができます。

一方で、宇宙船内の場面が続くなど、映画向きでないのかもしれません。映画はテンポのある編集や展開が求められるため、場面転換やエンターテインメント性が大切です。

■この本をより楽しめる情報

紹介された方によると、高校の物理学の知識で理解可能な内容が散りばめられており、ギリギリの理解範囲で読み進めることができるようです。
読者にとって理科の知識があまりない方でも、物語を楽しみつつ科学的な要素に触れる良い機会です。


愛しのグレンダ / フリオ・コルタサル (‎ 岩波書店)

■現実の向こうに広がる未知なるラテンアメリカ幻想物語を読みたいあなたにおすすめの1冊

都市の闇にひそむ幻想と恐怖,エロスを意欲的手法で書きつぐ,ラテンアメリカ文学の中心的作家コルタサルの代表作.

引用元:「岩波書店」より

興味深い質問

「『クトゥルー神話』のラヴクラフトをご存じですか?」

『クトゥルー神話』は異次元の神話的存在や超自然の要素が登場する作品で、その幻想性の一環として位置づけています。一方で、「愛しのグレンダ」の著者であるコルタサルも幻想的なアプローチをしています。

コルタサルは日常の延長線上に幻想的な要素を取り入れています。またコルタサルは人間の理解が及ばない幻想的な「クトゥルー神話」の舞台装置には批判的なようです。

参加者もラヴクラフトのことはよく知っていたようなので、その対比がイメージできたと思います。

■参加者が盛り上がったところ

「現代にもありそうな話」

表題作の『愛しのグレンダ』は、映画俳優に対するカルト的なファンクラブが成立する様子が描かれています。俳優に対するファンクラブは、現実世界でも多く見られる現象です。ソーシャルメディアの普及により、ファン同士が情報を共有し、交流する手段が増えたことから、映画俳優や有名人に対する熱狂がより広がりやすくなっています。

一方で、作品が描かれた時代背景によっても異なる側面が話題にあがりました。当時はインターネットやSNSが普及していなかったため、ファン同士の直接的なコミュニケーションや情報共有が限られていました。そして推しの俳優の選択肢も少ない……。ファンが俳優に対する熱意をより限定的、直接的に向けていたのかもしれません。

■この本をより楽しめる情報

この短編集は、幻想、ミステリ、リアリスティックといった異なる切り口を通じて描かれた物語群を収録しています。また、物語の結末には複数の受け取り方が可能であり、読者が個々のストーリーを幅広く解釈できます。


今回も楽しく読書会が終わりました。

異なるジャンルの小説が紹介され、どれも読みたくなるような内容でした。

思考実験的な作品、コンプレックスへの向き合い方、科学と冒険を組み合わせた小説、そして現実と幻想が交錯するラテンアメリカ幻想物語。

新たな小説と出会えて、今後の読書ライフが楽しみです。

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