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読書会 2023年4月29日

小説であればジャンルが自由ということで、様々なジャンルの作品が紹介されることを期待していました。小説好きなら、他のジャンルにも興味があるはずですから、新しい作品に触れる機会があることは非常に楽しみです。

参加者が自身の興味や嗜好に合わせて、自由に本を持ち込み、最近読んだ面白かった本など、個人的なおすすめ作品が紹介されました。


時計泥棒と悪人たち / 夕木 春央(講談社)

■『方舟』に魅せられたあなたにおすすめの1冊

実業家・加右衛門氏へ贋物の置時計を売ってしまった事実を知った井口。
泥棒に転職をした蓮野とともに、その置時計は加右衛門氏が所有する美術館にあるという情報を得、盗むことを計画するがーー?
(第1章 加右衛門氏の美術館)

激動の大正時代を泥棒たちが大暴れ! 『絞首商會』『サーカスから来た執達吏』にも繋がる連作短編集。

引用元:(版元ドットコム)より

RENSの読書会にも2回登場し、2022年のミステリー小説界隈を沸かせた『方舟』の著者が描く連作短編集です。

■興味深い質問

「もう読んだのですか?」

この作品は、4月26日に発売されたばかりの新刊でありながら、読書会(4/29)で既に参加者の方が読了しており、持参してくれました。

それだけに、他の参加者も興味津々で、今回の読書会では1冊目に紹介され注目を集めた作品です。

■参加者が盛り上がったところ

著者の前作『方舟』やメフィスト賞受賞作『サーカスから来た執達吏』と比較してどういうテイストの作品なのか? という点に話題が集中しました。

7つの連作短編のうち、頭から2作『加右衛門氏の美術館』と『悪人一家の密室』を簡単に紹介されました。物語の設定やキャラクターにも個性があり『方舟』とはまた違った味のある作風のようです。

じつは、紹介者のお気に入りは後半に収録されている『晴美氏の外国手紙』。一番面白かったらしいのですが、この場で話をするには適していなかったので割愛されました。気になります。

なにかと話題になる『方舟』、「絶対面白いので読んでみて下さい」と読んでいない参加者に薦める場面もありました。

■この本をより楽しめる情報

『方舟』作者の新たなる連絡短編集。泥棒✖画家の異色コンビが物語を彩ります。
ボリュームも500ページ超、読みごたえもあり、各話面白くて納得のいくオチになっているそうです。

紹介された方は3日で読了されました。


失われた時を求めて / マルセル・プルースト (岩波文庫)

■文学表現の豊かさを味わいたいあなたにおすすめの1冊

ひとかけらのマドレーヌを口にしたとたん全身につたわる歓びの戦慄―記憶の水中花が開き浮かびあがる、サンザシの香り、鐘の音、コンブレーでの幼い日々。重層する世界の奥へいざなう、精確清新な訳文。プルーストが目にした当時の図版を多数収録。

 引用:「BOOK」データベースより

興味深い質問

「それほど文章表現が美しいのですか?」
「表現するならば、オール俳句です!」

風景、情景の描写がひたすらに美しく、まるで美術館の中にいるようです。印象派の画家が描く絵画のように抽象度が高くて詩的で夢の中。日本で例えるなら極限まで削ぎ落された俳句のよう……そうオール俳句です!

紹介された方は、物語の筋よりその芸術的な描写がいかに素晴らしいかということを高い熱量で語られています。

■参加者が盛り上がったところ

「死を迎えるそのときまでひたすら推敲をしていました」

そんな優美な文体はどのように生まれたのか? 『失われた時を求めて』は著者であるプルーストが生涯をかけて何度も何度も書き直したそうです。自宅で最期のときを迎えたその寸前まで推敲をしていたのではいかと、想像が膨らみます。

「目で見たものや、感じたものをこれだけ何ページにもわたって文章におとしこめる人間はいない」
「それこそChatGPTでも?」

名前や固有名詞から受けるイメージを抽象化させて文章を紡ぐという特殊能力は、繰り返された推敲のたまものではないでしょうか。「無意志的記憶」や「意識の流れ」を可視化させました。

■この本をより楽しめる情報

フランス語の原文で3,000ページ以上、日本語訳ではなんと原稿用紙400字詰換算枚数10,000枚もあるとてつもなく長い小説として世界記録を持っています。そしてジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』と共に20世紀を代表する超大作。

しかも、そのほとんどがため息が漏れるような美しい文章でつづられていますので、一生に一度は読んでみたい作品です。


第169回の直木賞 受賞作に選ばれました。

木挽町のあだ討ち / 永井 紗耶子(新潮社)

■時代小説を敬遠しがちなミステリー好きなあなたにおすすめ1冊

疑う隙なんぞありはしない、あれは立派な仇討ちでしたよ。芝居町の語り草となった大事件、その真相は――。ある雪の降る夜に芝居小屋のすぐそばで、美しい若衆・菊之助による仇討ちがみごとに成し遂げられた。父親を殺めた下男を斬り、その血まみれの首を高くかかげた快挙は多くの人々から賞賛された。二年の後、菊之助の縁者という侍が仇討ちの顚末を知りたいと、芝居小屋を訪れるが――。現代人の心を揺さぶり勇気づける令和の革命的傑作誕生!

引用元:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「なぜこの小説を読もうと思ったのですか? 時代小説をよく読まれているのでしょうか?」
「ネットのレビューには『時代劇に興味がないミステリー好きにもおすすめ』というような内容が書かれていたので惹かれました」

書店で見つけた『木挽町のあだ討ち』帯には”驚愕の真相とは”……帯が持つ魔力。
ジャケ買いをする人も多いので、改めて帯の引力を感じました。

■参加者が盛り上がったところ

「あだ討ちのルールを知っていますか? 細かい条件は他にもいろいろありますが」

1.自分より目上の近親者のあだ討ち(父母・叔父叔母・兄姉……等)
2.お上に「あだ討ち」することを届け出をしなければならない。
3.成し遂げるまで故郷には帰れない。

時代劇を見ていても名を名乗って正々堂々と”あだ討ち”しているシーンが浮かびました。

あだ討ちのイメージについての話題にもなりました。復讐や報復という暗いニュアンスが含まれるため、一般的にはネガティブで怖いなイメージがあります。

しかし、紹介された方は読み終えたあと、爽やかな余韻があったそうです。とにかく良い作品とのことでした。

■この本をより楽しめる情報

時代小説ですが、特別な歴的背景や時代考証がなくても読み易いそうです。トリックも物語も現代の話でもオカシクない、そんな作品です。

特に歴史や時代小説に興味のないけれど、ミステリーが好きな人にはオススメ。


キング / 堂場 瞬一(実業之日本社)

■ アスリートのブラックな苦悩や葛藤を読みたいあなたにおすすめの1冊

五輪男子マラソン代表・最後の一枠の選考レースまで四か月。日本最高記録を持ちながら故障に泣き、復活を期する天才・須田が最有力とされる中、優勝経験がなく”万年三位”の青山に正体不明の男が接触、「絶対に検出されない」ドーピングを勧めてきた。青山は卑劣な手段を一旦は拒むが…。ランナーたちの人生を賭した勝負を活写する傑作長編!

引用元:版元ドットコム

興味深い質問

「エリスロポエチン? なんですか、それ?」

エリスロポエチンは、赤血球を増やすことができるため、マラソンなどのスポーツ競技において、ドーピングに使われることがあります。

選手がエリスロポエチンを使用することで、体内の赤血球量を増やし、酸素運搬能力を高めることができます。これにより、選手は疲れにくくなり、長時間の運動にも耐えられるようになります。

詳しい方が説明してくれました。

小説『キング』においてもこの”エリスロポエチン”のようなものがドーピングに使われているのではないでしょうか?

■参加者が盛り上がったところ

「”正体不明の男”が何度も接触してくる」

ライバルも飲んでいるから、絶対に検出されないから、あの手この手で主人公を口説き落とそうとしてくる謎の人物に興味津津でした。

ずっと読み進めていくうちに「もう、早くドーピングやれば?」というような感情も芽生えるのではないだろうか、と思わせるその巧みな口車に湧きました。

■この本をより楽しめる情報

「チーム」「ヒート」「チームII」と続き著者のマラソンシリーズの原点に位置づけする本作。それらの感動作とは一線を画する苦悩や葛藤が魅力。

アスリートを取り巻くチーム環境(監督やトレーナー協力者)、勝ちに対する姿勢、ドーピングについて考えさせられる作品。


やし酒飲み / エイモス・チュツオーラ(晶文社クラシックス)

■奇想天外な冒険小説を読みたいあなたにおすすめのブラックな1冊

ここはアフリカの底なしの森。やし酒を飲むことしか能のない男が酒づくりの名人をつれもどしに「死者の町」へ旅立つ。頭蓋骨だけの奇怪な生き物。地をはう巨大な赤い魚。指から生まれた凶暴な赤ん坊……。幽鬼が妖しく乱舞する恐怖の森を、まじないの力で変幻自在に姿を変えてさまよう、やし酒飲みの奇想天外な大冒険。魅惑の幻想譚。

引用元:「晶文社」HPより

興味深い質問

「皆さんお酒飲みます? やし酒を飲んだことがありますか?」

■参加者が盛り上がったところ

「主人公はやし酒を10歳から飲んでいました」

冒頭から飛ばしています。あまりにも日本人の価値観と違いすぎる導入部分から、さらに加速するアフリカの民話・神話的な世界観。矛盾や非論理的な物語であり、頭で考えるより、感じることが重要です。

■この本をより楽しめる情報

著者とも交流があった訳者による解説が充実しています。アフリカ文学やチュツオーラへの敬意や愛情に溢れた点もみどころです。


【まとめ】

現代ミステリ小説、文学的な世紀の超大作、時代小説、スポーツ小説に冒険小説と参加者の興味や好みに基づいて、非常にバラエティに富んだものとなりました。

普段読まないジャンルの小説に触れて参加者の皆さんにも刺激になったように感じました。
参加者同士で意見交換をする中で、異なるジャンルの作品に対する解釈や感想が交錯し、新たに積ん読本が増えたことでしょう。

また継続してジャンルフリーの小説読書会を開催していきたいと思います。


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