「芥川賞」「直木賞」読書会で紹介された『むらさきのスカートの女』 / 今村 夏子(3月4日)
違和感、不気味、ミステリアスな雰囲気の純文学を読みたいときにおすすめの1冊です。
芥川賞で話題になったのはもちろんのこと、ショート動画のTikTokでも話題になったこの作品。今もSNSのタイムラインでよく目にする表紙です。
膝上から布で覆われた人たち? おそらくは二人いるのであろうその絵。素足だけが四本見えています。布は白地の水玉模様で薄そうです。表情はおろか顔や胴体も見えないので不気味です。
私はテーブルに置かれたその本を見つめながら、何か意味深なものを感じ取ろうとしました。が、どうしても理解できず、ただただ不思議な気分でした。
タイトルは『むらさきのスカートの女』。早く紹介を聞きたくなりました。
第161回芥川賞受賞作
ほかにも「太宰治賞」や「野間文芸新人賞」「三島由紀夫賞」などの受賞歴があります。いずれも純文学系の賞であり、今回のエキセントリックな作風も含めて注目の新進作家です。
【あらすじ】
「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性が気になって仕方のない〈わたし〉は、彼女と「ともだち」になるために、自分と同じ職場で彼女が働きだすよう誘導し……。
(引用元:版元ドットコム)より
「『お前はいったい何者なん?』っていう気分になりました」
これは”むらさきのスカートの女”に向けた発言ではなく、その”むらさきのスカートの女”のことを観察し、語る語り手(主人公?)に対してです。
「ともだち」になりたいにもかかわらず、お世話をしてやってる感を醸し出しているようです。
微妙な距離感を保っています。ここがなんともほろ苦いリアルさがあります。
”むらさきのスカートの女”と関係を深めるために複雑な感情を抱えている語り手は、もう少し自分自身を開放すればいいのに……という単純な物語ではありませんでした。
「いくら興味を持ったとはいえ、知らない人を職場に引き込みたいと思いますか?」
読書会参加者は、自分もこの主人公? である語り手と共通するような点があると言います。意外でした。それは職場での振る舞いで、語り手(主人公)同様に業務以外のコミュニケーションはほとんどとらないとのことでした。
ストーカーさながらの不気味さのある語り手です。が、それとは区別して徹底的に職場では人と関わらない描写。この点だけにフォーカスすると、昭和の会社とは違ったプライベートやプライバシーを重んじる令和の会社・組織のあり方が見えてきました。
「読書会に参加しているときと、職場での自分とは、まったく異なる存在です」
読書会に参加者は、自由に自分自身を表現し、思いを共有しながら自己表現されています。一方、職場では、チームや組織体制ごとに協力して仕事を進めることが求められ、個人の自己表現よりも、チームワークやルールに従うことのギャップによるものなのでしょうか。
とはいえ、職場でも”本好き”、”読書好き”をアピールしてみては? という話題で締めくくりました。
それにしてもこの小説の紹介を聞いて頭によぎったのは、アメリカのポスト・モダンの小説家ポール・オースターのニューヨーク三部作でした。一度読んでみて検証してみたいと思います。