ミステリー・ホラー・SF小説読書会で紹介された『なめらかな世界と、その敵』 / 伴名 練(2月23日)
まさに現代的な日本SFを読みたいあなたにおすすめの一冊です。
エンターテイメント性の高い読書会ということで、本の表紙も制服を着た中世的ティーンエイジャーのイラストです。
「男性ですか? 女性ですか?」
「『なめらかな世界と、その敵』に登場する女子高生です」
装画は、赤坂アカさんという元漫画家のイラストレーター。言われてみれば確かに漫画的・アニメタッチで人目を惹くような色遣いで描かれています。
装丁に負けず劣らずタイトルもスタイリッシュ
ミステリー・ホラー・SFのいずれかに該当するはずですが、タイトルからはジャンルが想像できませんでした。
タイトルの『なめらかな世界と、その敵』は鈴木 健氏の『なめらかな社会とその敵』が元ネタ?
【あらすじ】
いくつもの並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春を描いた表題作のほか、脳科学を題材として伊藤計劃『ハーモニー』にトリビュートを捧げる「美亜羽へ贈る拳銃」、ソ連とアメリカの超高度人工知能がせめぎあう改変歴史ドラマ「シンギュラリティ・ソヴィエト」、未曾有の災害に巻き込まれた新幹線の乗客たちをめぐる書き下ろし「ひかりより速く、ゆるやかに」など、卓抜した筆致と想像力で綴られる全6篇。SFへの限りない憧憬が生んだ奇跡の才能、初の傑作集が満を持して登場。
(引用元:「MARC」データベース)より
違和感
『なめらかな世界と、その敵』は冒頭からちぐはぐさを感じます。
不自然なシーンの断片が描写されています。現実離れしたシーン、よくよく想像するとありえないような出来事が起きます。
世界観や物語の設定を説明しないまま、その違和感を抱きながら読み進めていくこともこの小説の醍醐味のひとつです。
「ファニー・ヴァレンタインのスタンド知っています?」
「知りません。ジョジョは5部のジョルノまでしか読んでいません」
『なめらかな世界と、その敵』に登場する少女たちは、並行世界を行き来することができます。この特殊能力が『ジョジョの奇妙な冒険』第7部に登場するキャラクターのスタンド能力と似ているらしく、誰かに説明するときに例えるとわかりやすみたいです。
芥川龍之介の『侏儒の言葉』
『なめらかな世界と、その敵』に『侏儒の言葉』を思い出させるシーンがあるようです。
登場人物の中に、並行世界を行き来できない少女がいます。そもそも並行世界にいけない私たちが共感できる唯一のキャラクターです。
『侏儒の言葉』には、こういったニュアンスの言葉があります。
泳ぐことを学ばない人に泳げと指図するのも、走ることを学ばない人に駆けろと指示するのも酷なことですーー。
まさか『なめらかな世界と、その敵』の紹介で「芥川龍之介」の名を聞くことになるとは思いもよりませんでした。が、とても分かりやすい説明だと感心しました。
『ひかりより速く、ゆるやかに』
『なめらかな世界と、その敵』ともうひとつ短編を紹介してくれました。
修学旅行の帰路、新幹線の中に閉じ込められてしまうクラスメイトたちの話。
閉じ込められた人たちを外から写真を撮ったり、動画にしたり、彼らの物語を作ったり、それをSNSで拡散~圧倒的に消費してく様がとても現代的だと話題になりました。
短編集の読み順
最後はこの話になりました。
皆さんは短編集を読みむときに、最初から順番に読みますか? それとも気になったタイトルや表題作から読みますか? 決めていませんか?
気になったタイトルや表題作から読むと、最初の話が面白ければ続けて読むことができますし、最初から順番に読むと、作者の思惑やテーマの変化を全体を通して感じられます。
ひとそれぞれ、自分に合った読み方を見つけて、短編集を楽しんでみてください。