まわりに読んだ人がいない小説で紹介された『人間の絆』 / サマセット・モーム(2023年1月8日)
腰をすえてゆっくりと読みたい一冊です。
この小説を紹介された方は、ほかの読書会に参加したときにサマセット・モームの代表作のひとつでもある『月と六ペンス』に出会ったそうです。
普段本を読まない人でも知っているぐらいこの作品は有名ですが、若者からすると古典といわれそうな本なので、紹介されたのが意外に思ったそうです。
以降も何度か読書会で『月と六ペンス』が紹介される機会に遭遇したので、実際に読んでみようとしたところこれがとても面白かったとのことです。
数珠つなぎ
他の作品探していると、新潮文庫から出版されているモーム傑作選『月と六ペンス』『雨・赤毛』『ジゴロとジゴレット』『人間の絆』にたどり着いたそうです。
私も気に入った著者の小説を何作か連続で読むことがありますので、すごくこの気持ちがわかります。
読んでいくうちに著者の作風や考え方、文体のリズムがわかってきてさらに熱中できます。
【あらすじ】
「幼くして両親を失い、牧師である伯父に育てられた青年フィリップ。不自由な足のために劣等感にさいなまれて育ったが、いつしか信仰心を失い、芸術に魅了されてパリに渡る。しかし若き芸術家仲間と交流する中で、自らの才能の限界を知り、彼の中で何かが音を立てて崩れ去る。やむなくイギリスに戻り、医学を志すことになるのだが……。――
(引用元:版元ドットコム)
イギリスに戻ったフィリップの前に、傲慢な美女ミルドレッドが現れた。冷たい仕打ちにあいながらも青年は虜になるが、美女は別の男に気を移してフィリップを翻弄する。追い打ちをかけられるように戦争と投機の失敗で全財産を失い、食べるものにも事欠くことになった時、フィリップの心に去来したのは絶望か、希望か。――
この小説は、人生のベスト本に選ぶ方がいるぐらいの世紀の傑作です。
「併読していたんです」
紹介された方は『人間の絆』以外にも同時進行で読んでいた本がありました。
この小説は新潮文庫では上下巻にわかれていて、1,000ページ超のボリュームがあります。
「併読をしながら少しずつ進めていました。間隔が空いてもまたすぐに物語に入っていけるんです。そして、ある時点から読むペースが加速して最後まで読み切ってしまう」
主人公フィリップの恋人に対する考え方、恋愛観に違和感を覚えながらでも引き込まれていく人間の描き方や、ストーリーの力があるようです。
「『月と六ペンス』とどちらが面白かったですか?」
無粋な質問ですが、聞きたくなりました。
2作とも主人公が歩んだ軌跡を辿っていく物語でありながら、異なる印象です。
ストリックランド(月と六ペンス)は芸術に心を奪われた破滅型、一方フィリップ(人間の絆)も投機で財産を失ったりします。
面白かったのは『月と六ペンス』のようですが、単純な比較ができないぐらいでした。物語の厚みでいえば『人間の絆』かもしれません。
「破滅的な経験をされたことがあるのでしょうか?」
「まさか」
上下巻で翻訳者が違う
けっこう珍しいなと感じていたのですが、紹介された方が持っていた『人間の絆』は上下巻の装丁が違ったのです。さらに見比べると上巻の翻訳者が英文学の中野好夫さん、下巻が児童文学も訳す金原瑞人さんでした。
「読んでいて引っかかりはありませんでしたか? 上下巻のつなぎ目はうまく続いていましたか?」
「面白かったので違和感はありませんでしたよ」
これがすべてを物語っていると思いました。これほどの大作なので翻訳も気にならないあぐらいに圧倒的な魅力があるのでしょう。
実は私もこの小説を読んでいたのですが、途中で放置している状態です。
しかも数年前なのでほとんど内容も忘れています。が、今回の読書会で紹介して頂いてまた当時の気持ちが蘇りました。
腰をすえてゆっくりと読みたい小説です。