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小説限定(ジャンルは自由)読書会 2024年8月31日(土)

小説限定の読書会が開催されました。
語り手の不穏な雰囲気とミステリー傑作選、生と死の選択、松永久秀の複雑な人物像。過激な社会批判や、自由と反抗精神も注目を集め、各作品の魅力が熱く語られました。

それぞれの作品に込められたテーマや背景が、参加者たちによって話され盛り上がりました。

内容にはネタバレも含んでいますので、ご注意ください。


五人目の告白 / 小林 泰三 (創元推理文庫)

■ミステリーホラーが好きで、緊張感のある物語を求めているあなたにおすすめの一冊

自分の中には凶悪な人格が眠っている──記憶にない動物殺しや対人トラブルに苦しむ青年は、ノートを介して「敵対者」との対話を試みるが、忌まわしき存在はついに殺人にまで手を染め……ーー

引用元:「東京創元社」より

■興味深い質問

「どの短編が印象に残っていますか?」

「『獣の記憶』と『独裁者の掟』は印象にのこっています」
この短編集には、量子力学やブラックホールといったSF的な要素あり、サスペンスやミステリーホラーなど幅広いジャンルが絶妙にミックスされています。

■参加者が盛り上がったところ

「語り手が信用できない」

「全編を通じて、不穏な雰囲気が漂うんですよね。読んでいると、どこかしら“語り手”が信用できない感じがして、ページをめくるたびに不安が募っていくんです。」
「そうそう、小林泰三さんの作品にはまさにその独特の不気味さがありますよね。語り手が見せる“ほんの少しのズレ”や、微妙な違和感が積み重なって、心理をじわじわと揺さぶってくるんです」

■この本をより楽しめる情報

著者は『玩具修理者』で第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した実力派。その後もSFの賞を受賞し、ホラーとSFが絶妙に入り混じった独自の作風が魅力的です。このミステリー傑作選でも、その独特なスタイルで、ホラーとSFが同居する小林ワールドが凝縮された一冊となっています。


モレルの発明 / アドルフォ ビオイ=カサーレス (水声社)

幻想文学ファンにオススメの一冊

二つの太陽、二つの月が輝く絶海の孤島での「機械」、「他者性」、「愛」を巡る謎と冒険。ーー

 引用:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「1回目は?」

「初めて読んだときは、その複雑さゆえに内容を完全に理解できなかったのですが、どこか引き込まれるような感覚があり、すぐに再読したいという気持ちが湧き上がりました」
「たしかに名作といわれる小説って何かあるに違いないと感じますね」

■参加者が盛り上がったところ

「あなたならA.Bどちらを選びますか?」

Q.あなたは余命1週間と宣告され、1週間後、確実に死にます。
A.死の不安、恐怖、苦痛があっても、それらを耐えて、死へ向かう現実の1週間を選ぶ。
B.過去の人生の最も幸福だった1週間にタイムトラベルすれば、その1週間のうちは繰り返し幸福に生きることができるなら、現実の生を捨て、過去の生を選ぶ。

というような問いが紹介者から投げかけられ、参加者全員で頭を悩ませました。
ちなみにもちろん正解はありません。

■この本をより楽しめる情報

アドルフォ・ビオイ・カサーレスは、ボルヘスとの共著でその名を知られる幻想文学の作家です。彼の作品は、映画『去年マリエンバートで』に大きな影響を与えたといわれています。カサーレスの作品は、現実と幻想が錯綜する世界を紡ぎ出し、視覚的イメージと感覚的に訴えるものがあります。


じんかん / 今村 翔吾 (講談社文庫)

■松永久秀の「悪人」像に新たな視点で描く物語、歴史ファンにおすすめの一冊

主家を乗っ取り、将軍を暗殺し、東大寺大仏殿を焼き払う。
悪名高き武将・松永久秀は、織田信長に二度目の謀叛を起こしていた。
だが信長は、「降伏すれば赦す」と言う。
驚愕する小姓・狩野又九郎を相手に信長は、
世人は知らぬ久秀の壮絶な半生を語り始める――

引用元:「講談社BOOK倶楽部」より

興味深い質問

「北方謙三さんに似てる?」

「解説は、あの北方謙三さんが書かれています。そう思うと、確かに本作の雰囲気や文体には北方さんらしさを感じる部分があります。ハードボイルドな空気感というか、言葉選びが鋭く、どこか重厚なニュアンスが感じられました」

鋭く、しかし一切の無駄を排したどこか孤独な闇を抱える文体なのでしょうか。北方謙三ファンも必読です。

■参加者が盛り上がったところ

「キャラを明確に描いてる」

「主人公は、あの悪名高き戦国武将・松永久秀。しかし、この物語では彼を単なる悪人として描いているわけではありません。むしろ、深く掘り下げられた彼の人物像が善悪だけでは測りきれない複雑な内面が感じられます。巧みに人の心を掌握し、時には冷酷な判断を下しながらも、自らの信念や理想を持って戦う姿が見え隠れします」

■この本をより楽しめる情報

第11回山田風太郎賞の受賞作。そして解説は北方謙三さん。戦国の闇に生きた悪名高き武将・松永久秀。その「悪」の魅力と人間らしさを、現代を代表する歴史作家が見事に描き出しています。


野蛮なアリスさん / ファン・ジョンウン (河出書房新社)

現代韓国文学の最前線、過激な挑戦作を読みたいあなたにオススメの一冊

「私はアリシア、女装ホームレスとして、四つ角に立っている」
ソウル郊外の農村コモリに建設される大規模マンションを巡り、人々の欲望がどこまでも加熱する――凶暴な母と年老いた父、そして沢山の食用犬と暮らす少年アリシアの、たったひとりの戦い。ーー

 引用:「河出書房新社」より

興味深い質問

「不思議の国のアリスが好きなんですか?」

「はい、そうなんです。実は今回この作品を手に取ったのも、もともとファン・ジョンウンのファンというわけではなく、大好きな『不思議の国のアリス』にちなんだタイトルに惹かれたからなんです。『アリス』に関連する作品はつい気になってしまって、他にも『アリス殺し』も読みましたよ」

「ああ、それはさっき紹介された『五人目の告白』の小林泰三さんの作品ですよね」

■参加者が盛り上がったところ

「村上龍や金原ひとみ」

「『野蛮なアリス』——そのタイトルが示す通り、かなりバイオレンス小説です。「女装ホームレス」といったインパクトがあります。さらに野蛮で下品な暴言が飛び交う場面も多々あります。その過激さは、かつての村上龍さんや金原ひとみさんの作品を思わせます」

「現代の小説ではなかなか見られないですね。ここまで挑戦的でエッジの効いた作品だと、かえって新鮮ですね」

■この本をより楽しめる情報

韓国日報文学賞、シン・ドンヨプ文学賞、イ・ヒョソク文学賞……数々の名誉ある賞を総なめにしています。
現代韓国文学界の最前線を走る女性作家が手掛ける、圧倒的な物語。


オン・ザ・ロード / ジャック・ケルアック (河出文庫)

■ビートジェネレーションやヒッピー文化に興味があるあなたにオススメの一冊

ーーそこにはジャズやマンボが鳴り響き、ドラッグや安酒が行き交い、果てしない道を走りとばす車があった。これはケルアック(=サル・パラダイス)の自伝的小説で、20代の後半に盟友ニール・キャサディ(=ディーン・モリアーティ)と広大なアメリカを横断した旅物語だ。キャサディは類希な表現力と奇想天外の思考、誰も予想だに出来ないパワフルな行動力の持ち主で、その存在無くしてこの物語は世に生まれ得なかった。ーー

引用元:「河出書房新社」より

興味深い質問

「この話は実話ですか?」

「実話をベースにはしていますが、完全に事実に基づいているわけではありません。かといって、完全なフィクションでもないんです。登場人物には実在の人物をモデルにしたキャラクターもいます。物語の中には、実際の出来事や人物が元になっている部分もあれば、寓話的な要素が散りばめられていて、実際と虚構が絶妙に入り混じっている感じです」

■参加者が盛り上がったところ

「アメリカ横断」

「この小説の巻末には、物語の舞台となったアメリカ横断ルートの詳細な道路地図が掲載されています。実際にアメリカを訪れたことがある方や、旅行好きな方にとっては、この地図を見ながら登場人物と一緒に旅をしているかのような感覚を味わえますよ」
物語とともに、広大なアメリカの風景を想像しつつ、リアルな道のりを辿る楽しみが感じられる一冊です。

■この本をより楽しめる情報

この小説は、「自然な散文の要点」として称され、ビートジェネレーションやヒッピー文化の象徴として今なお語り継がれる名作です。著者が紡ぎ出す自由奔放な言葉と、規則に縛られない文体は、当時の若者たちの反骨精神や自由への憧れを見事に表現しており、文学界だけでなく、音楽やミュージシャンたちにも多大な影響を与えました。

この作品には、明確なストーリーの起承転結はありませんが、その断片的なエピソードの積み重ねが、まるで一緒に旅をしているかのような感覚になり、広がるアメリカの大地と、その中で出会う人たちとの交流が描かれています。



【課題本一覧】   
幻滅 / バルザック   ←11月23日(土)開催予定
重力の虹 / トマス・ピンチョン ←12月21日(土)開催予定
金閣寺 / 三島由紀夫   ←未定(参加希望者が2名以上になれば)
海と毒薬 / 遠藤周作        〃

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