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小説限定(ジャンルは自由)読書会 2024年5月4日(土)

今回もさまざまな小説が取り上げられました。
では早速、各作品についての紹介と参加者の感想をご紹介します。

幻影の書 / ポール・オースター
蝿の王 / ウィリアム・ゴールディング
源氏物語 / 紫式部,A・ウェイリー
死にがいを求めて生きているの / 朝井 リョウ
雨の午後の降霊会 / マーク・マクシェイン

内容にはネタバレも含んでいますので、ご注意下さい。


幻影の書 / ポール・オースター(新潮文庫)

■謎とアイデンティティを解き明かす旅が好きなあなたにおすすめの1冊

その男は死んでいたはずだった──。何十年も前、忽然と映画界から姿を消した監督にして俳優のへクター・マン。その妻からの手紙に「私」はとまどう。自身の妻子を飛行機事故で喪い、絶望の淵にあった「私」を救った無声映画こそが彼の作品だったのだから……。へクターは果たして生きているのか。そして、彼が消し去ろうとしている作品とは。--

引用元:「新潮社」より

■興味深い質問

「ミステリー風ですか?」

「ストーリーラインを聞いていると、少しミステリー要素も入っていそうですね?」
「そうなんです。著者のポール・オースターはミステリーが好きで、ポール・ベンジャミンという別名義でミステリー小説を書いています。他の作品にもミステリアスな事柄が含まれていることが多いんです。ミステリーの要素を巧みに織り交ぜることで、ページをどんどんめくっちゃいます」

■参加者が盛り上がったところ

「カメラワーク」

この小説『幻影の書』は、映画監督兼俳優のヘクターマンを追う物語です。読んでいると、まるで映像が浮かんでくるような詳細なカメラワークの描写が特徴的です。場面転換やカット、アップとルーズショットなど、映画的な技法が巧みに取り入れられています。
読んでいるとはまるで映画を観ているかのような臨場感を味わうことができます。詳細なカメラワークの描写が、物語を一層魅力的なものにしており、ヘクターマンの世界をよりリアルに感じさせてくれます。

読書会でも、紹介された小説が映画化されているのか? とよく話題になることが多いです。

■この本をより楽しめる情報

今年2024年4月30日に他界した著者。アイデンティティの幻想とその追求というテーマを独特の世界観で描く物語で有名です。人によっては最高傑作とされる本作は、多くの読者に愛されており、文句なしに面白い作品です。そしてミステリアスでスリリングなストーリー展開も楽しめます。


蝿の王 / ウィリアム・ゴールディング (ハヤカワepi文庫)

少年の本性とモラルに向き合いたいあなたにおすすめの1

飛行機が墜落し、無人島にたどりついた少年たち。協力して生き抜こうとするが、次第に緊張が高まり……。。――

 引用:「Hayakawa Online」より

興味深い質問

「そんなにディテールに凝った描写ですか?」

『蠅の王』の冒頭では、少年の外見描写はもちろん、無人島の風景が非常に丁寧に描かれています。例えば、つる草が絡みついた木、引き裂かれた木の幹、腐りかけたヤシの実、そして薄紅色の花崗岩の高台など、細部まで詳細に描写されています。
「以前少し読んだことがありますが、詳細は覚えていませんね」

■参加者が盛り上がったところ

「近未来である必要はあるの?」

物語の舞台は、第三次世界大戦が起こっているらしい状況下。少年たちの旅客機が南太平洋の孤島に不時着します。
「SF作品です。でもなぜ近未来に設定されているのでしょうか? 近未来という設定は、第三次世界大戦が勃発した背景のためだけなのでしょうか」
島の描写が鮮明なほど、現実味を持たせつつも、物語の中で起こる凄惨な状況が映えるのでしょうか。
「それにしもて『蝿の王』なんてタイトルは悪い予感しかないですよね」

■この本をより楽しめる情報

本作は、イギリスの権威ある文学賞である「ブッカー賞」やノーベル文学賞を受賞した著者の代表作です。そのタイトル『蝿の王』は、聖書に登場する悪霊の君主「ベルゼブブ」に由来。以降、数々の作品に影響を与えています。日本の漫画コミックでも『漂流教室』や『ドラゴンヘッド』といった作品にそれがみられます。


源氏物語 / 紫式部,A・ウェイリー (東京創元社)

■逆輸入の世界的な日本の古典を読みたいあなたにおすすめの1冊

光り輝く美貌の皇子シャイニング・プリンス、ゲンジ。 日本の誇る古典のなかの古典、源氏物語が英訳され、ふたたび現代語に訳し戻されたとき、 男も女も夢中にさせる壮大なストーリーのすべてのキャラクターが輝きだした! 胸を焦がす恋の喜び、愛ゆえの嫉妬、策謀渦巻く結婚、運命の無常。──。

引用元:「左右社」より

興味深い質問

「とんでもない天才ですね?」

この『源氏物語』の翻訳者アーサー・ウェイリーは、驚異的な言語の才能に恵まれていました。彼はイタリア語、オランダ語、ポルトガル語、フランス語、ドイツ語、スペイン語の六カ国語を読み、さらにフランス語、ドイツ語、スペイン語の三カ国語を流暢に話すことができたそうです。

外国人のウェイリーが『源氏物語』を世界屈指の名作と感じ、それを長い歳月をかけて翻訳したことはとんでもないことです。ウェイリーが発見するまで、『源氏物語』を知る人は欧米にはほとんどいませんでした。彼は1,000年間眠り続けたこの古典を目覚めさせ、その真価を蘇らせました。そしてウェイリーの翻訳を通じて、『源氏物語』は最高峰の文学として全世界に知られるように……。
「『源氏物語』対する熱意が圧巻ですね」

■参加者が盛り上がったところ

「どのページでもいいので、読んでみてください」

ウェイリー版の「源氏物語」を紹介された方は、全四巻をテーブルに積み上げました。

初めは外国人が訳した「源氏物語」に感情移入できるのかと疑っていましたが、実際に読んでみるとその美しさと精緻さに驚かされます。ウェイリーの訳には、エンペラー、パレス、レディ・ムラサキ、ティーパーティといった単語が散りばめられており、これが原作の持つ雅な雰囲気と異なる気品があるんです。

読んだ参加者全員が絶句し、そして絶賛の声が上がりました。
「宇治に行きたくなります!」

■この本をより楽しめる情報

数ある「源氏物語」の翻訳の中でも、ウェイリー版は特に異色の存在です。この逆輸入盤とも言える「シャイニングプリンス」は、世界各地に日本文学の素晴らしさを広めました。その翻訳は一読すると奇抜に思えるかもしれませんが、しっかり『源氏物語』の世界観を見事に体現しています。なにより愛情が込められています。


死にがいを求めて生きているの / 朝井 リョウ (中公文庫)

■若者の感情と承認欲求について読みたいあなたにおすすめの1冊

植物状態のまま眠る青年と見守る友人。二人の間に横たわる〝歪な真実〟とは? 平成に生まれた若者たちが背負った、自滅と祈りの物語。――

引用元:「中央公論新社」より

興味深い質問

「対立はあるのでしょうか?」

以前RENSの読書会で紹介された螺旋プロジェクトの「もののふの国」に引き続き、平成を舞台にした「海族・山族」の物語です。

「対立はないというか、あるというか、どうしても対立は生まれます」
現代社会においても、異なる背景や価値観を持つ人々の間に対立が生じることは避けられません。

■参加者が盛り上がったところ

「本質は承認欲求」

今の時代ならではの「ただ生きるだけでは意味がない」「他者からの承認欲求を満たしながら生きていきたい」という、言語化が難しい現代社会の若者たちにとっての微妙な欲求が、作品内で表現されています。
読書会の参加者の中には、著者の作品をいくつか読んだことがある方もいました。その方たちは、「この作者は本当に、若者を描くのがとてもうまい」という点に共感していました。

■この本をより楽しめる情報

RENS読書会の常連さんから、著者の中でも一番の傑作と評価される本作。若者の苦悩、承認欲求、死にがい、生きがいといったテーマを深く掘り下げています。


雨の午後の降霊会/ マーク・マクシェイン (創元推理文庫)

■ラストの衝撃を受けたいあなたにおすすめ1冊

霊媒マイラが立てた計画は、奇妙なものだった。子どもを誘拐し、自らの霊視で発見に導けば、評判が評判を呼び、彼女は一流と認められるはずだ。そして、夫ビルと共謀し実業家クレイトンの娘を誘拐。夫には身代金を要求させ、自分は娘を霊視した、とクレイトンに伝える。すべては計画どおりに進んでいたが……。

引用元:「東京創元社」より

興味深い質問

「物語ではなく、タイトルだ好きなんですか?」

なんといってもこのタイトル『雨の午後の降霊会』がとても魅力的です。ちなみに映画版のタイトルは『雨の午後の降霊祭』、さらには『雨の午後の降霊術』というバリエーションもあります。このセンスの良いタイトル。

「でも、本当、『蠅の王』のように、タイトルからして絶対に悪いことが起こりそうですよね」
確かに、このタイトルは不吉な予感を漂わせています。ホラー作品と思うかもしれません。物語の核心に触れる前から、何か恐ろしい出来事が起こるのではないかという期待感を抱かせます。

■参加者が盛り上がったところ

「ほかに好きなタイトルの小説は?」

ほかに良いタイトルはありますか?
そうですね、例えばJ.M.スコットの『人魚とビスケット』やP.D.ジェイムズの『女には向かない職業』、ジョナサン・レセムの『銃、ときどき音楽』などが挙がりました。

「『源氏物語』の話ですが、その中に「雲隠」という巻名があるのをご存じですか? この巻は本文が存在しないのです。意図は不明ですが、その空白が読者にさまざまな解釈があるようですが、非常に意味深です」

■この本をより楽しめる情報

なんといっても、この小説の「待ち受ける最終7ページの衝撃」は見逃せません。



【課題本一覧】
百年の孤独 / G・ガルシア=マルケス ←7月27日 開催予定
重力の虹 / トマス・ピンチョン ←9月開催予定 
幻滅 / バルザック  ←11月開催予定
金閣寺 / 三島由紀夫 ←未定(参加希望者が2名以上になれば)
海と毒薬 / 遠藤周作        〃

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