7月20日(土)小説(ジャンルは自由)限定読書会開催 / RENS(大阪の箕面にある読書空間)
小説限定(ジャンルは自由)読書会 2024年7月20日(土)
小説限定の読書会が開催されました。
今回は、5冊の多彩な作品が紹介されました。
医療の進歩と人間関係が交錯する「華岡青洲の妻」、食を通じた人間ドラマを描く「まぎわのごはん」、豊臣家の栄華と崩壊を描いた「豊臣家の人々」、少年たちの成長を描いた青春小説「夏の庭」、そして監視社会の恐怖を描いたディストピア「2084 世界の終わり」
それぞれの作品に込められたテーマや背景が、参加者たちによって話されました。
内容にはネタバレも含んでいますので、ご注意下さい。
華岡青洲の妻 / 有吉 佐和子 (新潮文庫)
■歴史的偉業の裏に隠された人間ドラマを楽しみたいあなたにオススメの一冊
世界最初の全身麻酔による乳癌手術に成功し、漢方から蘭医学への過渡期に新時代を開いた紀州の外科医華岡青洲。その不朽の業績の陰には、麻酔剤「通仙散」を完成させるために進んで自らを人体実験に捧げた妻と母とがあった――美談の裏にくりひろげられる、青洲の愛を争う二人の女の激越な葛藤を、封建社会における「家」と女とのつながりの中で浮彫りにしたーー
引用元:「新潮社」より
■興味深い質問
「被験体が犬→猫→妻・母親ですか?」
「そうなんです! この小説の見どころのひとつは、世界で初めての全身麻酔の実験に、なんと華岡青洲の妻と母親が自ら立候補する場面なんです。これだけでも驚きますよね。歴史的な医学の瞬間に、家族がどんな覚悟を持って臨んだのか……」
「この設定だけでも、興味深いです」
■参加者が盛り上がったところ
「皮肉の利いた嫁姑問題」
「家に帰らない夫を持つ妻が苦しむ一方で、全身麻酔の被験体として自ら立候補する姑。その背景には、息子(夫)への絶対的な信頼(あるいは不信)があるのでしょうか? あるいはそれ以上のものが……?」
「聞いているだけで、ぞくぞくしますね」
■この本をより楽しめる情報
女流文学賞の受賞作。医師である息子の世界的な功績の陰で、女同士の微妙な力関係とせめぎ合いが繰り広げられるこの展開、ただの医学の進歩を超えて、人間関係の深いドラマが描かれています。
■興味深い質問
「主人公えらい荒れてますね?」
「そうですね」
タイトルやほんわかした印象を与えるだけに、すさんだ主人公とのギャップがありますね。聞いていると主人公の激しい感情や荒んだ面も気になりました。でも、実際に読んでみると、主人公の内面や背景が深く掘り下げられていて、印象がまた大きく変わるかもしれません。
■参加者が盛り上がったところ
「実際にこんな食堂ありそうですね」
「現代の高齢社会において、ビジネスの観点から見ても流行りそうです。患者に適した料理に、様々な病気を抱える人々が訪れるという設定が、まさに今の時代に合ってます」
「こういったお店、本当に存在しているんでしょうか? あったらぜひ行ってみたいものです。」
■この本をより楽しめる情報
現役医師が描く圧巻のデビュー作。
実際に医師として現場に立つ著者だからこそ描けるリアルな視点が詰まっています。描写が良く人間ドラマもリアルに表現されている点が見どころです。また、テーマが現代社会の医療や社会問題にもぴったりとマッチしています。
豊臣家の人々 /司馬 遼太郎 (中公文庫)
■豊臣家の栄華と崩壊に興味があるあなたにオススメの一冊
北ノ政所、淀殿など秀吉をめぐる多彩な人間像と栄華のあとを、研ぎすまされた史眼と躍動する筆でとらえた面白さ無類の歴史小説。
引用元:「中央公論新社」より
■興味深い質問
「周囲の人々を通して秀吉(豊臣家)を浮かび上がらせているんですか?」
「そうなんです。秀吉自身だけでなく、養子、異兄弟、そして側室といった豊臣家に関わる様々な人物にスポットを当てた9作の短編小説集です」
■参加者が盛り上がったところ
「養子」
「戦国時代における養子は、単なる家族という枠を超えて、政治的な目的や戦略的な要素が強く絡んでいますよね」
「たしかに、養子って『人質』としての側面もありますね。敵対関係にあった勢力同士が一時的に和解する際や、同盟を固めるために子供を交換するなんて」
「実際、豊臣秀吉もこれを巧みに利用し、政権の安定を図った一方で、養子と実子の間の権力闘争が結果的に豊臣家の崩壊を招く要因の一つとなったのではないでしょうか」
■この本をより楽しめる情報
全9話の短編で、各話で異なる人物が描かれている一話完結の短編集です。
豊臣秀吉は日本の戦国武将の中でも屈指の人物です。その周囲の人々の物語も歴史や人間ドラマとして非常に興味深く、二重に楽しめる作品です。
■興味深い質問
「死にそうな老人を探す?」
「そうです」
「この設定だけでも、もう何が起こるのか非常に気になりますよね。さらに、その老人を塀の外から監視するというシチュエーションも引き込まれます」
「つかみが強いですね」
■参加者が盛り上がったところ
「スタンド・バイ・ミー」
「少年たちと死をテーマにした物語。まるで『スタンド・バイ・ミー』を思い出しましたね」
「私も同じことを感じていました」と、参加者の何人かが声をあげました。
「確かに、似てるなって思っていました」
■この本をより楽しめる情報
少年時代の心の揺れ動きを繊細に描いた青春小説。少年たちの成長とともに、彼らの内面の葛藤や変化が秀逸に表現されています。
また映画や舞台化もされてきました。タイトルは、ブラジルのギタリスト・作曲家セルジオ・アサドの同名組曲『夏の庭』から着想を得たものです。
2084 世界の終わり / ブアレム・サンサル (河出書房新社)
■息苦しい本格的なディストピア小説が好きなあなたにオススメの一冊
2084年、核爆弾が世界を滅ぼした後、偉大な神への服従を強いられる国で、役人アティは様々な人と出会い謎の国境を目指す。ーー
引用元:「河出書房新社」より
■興味深い質問
「ジョージ・オーウェルの『1984年』の続きですか?」
「ジョージ・オーウェルの『1984年』の続きですか?」
「はい、そうです。」
この作品は、オーウェルの『1984年』で描かれたディストピア世界を引き継いだ物語です。原作でおなじみの「自由は隷従」「戦争は平和」「無知は力」といった象徴的なキーフレーズも登場し、全体主義が支配する恐ろしい未来像が再び描かれます。オーウェルの鋭い批判精神と社会風刺が、今作でも色濃く反映されており、現代の読者にも強烈なメッセージを投げかける内容となっています。『1984年』の余韻をさらに深めたい方に、ぜひ読んでいただきたい作品です。
■参加者が盛り上がったところ
「息苦しいディストピア」
読んでいるだけで息苦しさを感じるほど、監視社会の圧力が強烈に伝わってくる作品です。
全てが監視され、自由が完全に奪われた世界で、人々がどのように生きているのか。
「もし、こんな未来が現実になれば……本当に恐れています」
■この本をより楽しめる情報
アカデミーフランセーズ大賞を受賞したディストピア長編。
その帯には「オーウェルの『1984年』、ウエルベックの『服従』のさらにその先を描く」とあり、現代社会への鋭い批判を織り交ぜた作品です。オーウェルの世界観をさらに加速させた、息苦しいほどの監視社会が読者を圧倒し、考えさせられること間違いなしの一冊です。
【課題本一覧】
星を編む / 凪良 ゆう ←10月19日(土)開催予定
幻滅 / バルザック ←11月23日(土)開催予定
重力の虹 / トマス・ピンチョン ←12月21日(土)開催予定
金閣寺 / 三島由紀夫 ←未定(参加希望者が2名以上になれば)
海と毒薬 / 遠藤周作 〃