【読書会】開催の感想 小説限定(ジャンルは自由) / 2023年10月7日土曜日 RENS(大阪の箕面にある読書空間)
読書会 2023年10月7日
今回の読書会も”オールジャンルオッケー”という開かれたテーマで参加者それぞれが自由に選んだ多種多様な小説が紹介されました。
あくまで個人の感想です。
ユリウス・カエサル ルビコン以前──ローマ人の物語 / 塩野七生(新潮社)
■ローマといえばこの歴史小説だと自信を持ってオススメできる1冊
前人未到の偉業と破天荒な人間的魅力、類い稀な文章力によって“英雄”となったユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)。古代から現代まで数多の人がカエサルに魅きつけられ、政治・思想・演劇・文学・歴史等々、数多の視点からカエサルに迫った。それら全てをふまえて塩野七生が解き明かす、ローマ人カエサルの全貌―ルビコン川を前に賽が投げられた時まで。――
引用元:「BOOK」データベースより
■興味深い質問
「以前、塩野七生さんの本を読んで挫折しました。少し読みにくかったように感じましたが、どうですか?」
タイトルは「ユリウス・カエサル」なので、もちろんカエサルにスポットはあったっているのですが、他の歴史小説と少し違ったアプローチをとっています。
「一言でいえば人物史ではないんです」
カエサルの生き様や彼を取り巻く状況を同時に丁寧に描き出していくので、人物だけに焦点を絞った歴史小説とは異なる読み応えがあります。これが、一部の読者には新しい発見をもたらす一方で、人物史な歴史小説を期待している読者には違和感を与えるかもしれません。
■参加者が盛り上がったところ
「ドラゴンボール的な世界観で”俺TUEEEE”」
ユリウス・カエサルは、多くの敵を倒し、同時に彼らを理解し、また彼らから理解されることで支持を得ました。そしてそれを繰り返し勢力を拡大していきます。
『ドラゴンボール』も、悟空が強敵たちと戦いながらも、戦闘後はかつての敵を仲間に加えていきます。ピッコロやベジータのように、一度は敵として対峙していたキャラクターも、時間とともに彼の仲間となり、共通の敵に立ち向かっていきます。
こうした視点から、カエサルとドラゴンボール的な世界観の間にはある種の類似性を見出すことができるかもしれません。かなり面白い視点でした。
■この本をより楽しめる情報
歴史小説を手がけるさいには、時代の背景や事実関係を細かく検証・考証しなければなりません。誤りがあれば、評論家に厳しい評価を受けることもしばしばです。
特に海外やローマを題材にした作品には、完結していないものも多い、とも……。が、ここでご紹介するのは、そんな困難を乗り越えて生み出された壮大な作品です。
単行本で全15巻におよぶ歴史小説!!
■興味深い質問
「翻訳は読みやすかったですか?」
『平家物語』にはいくつかの翻訳があり、各翻訳者が込める解釈や感情は異なり、それぞれの版が持つ独自の価値があります。紹介者が以前読んだ『平家物語』は暗く、重い印象がありました。
物語の違った側面や、その時代の人々の厳しさ、悲劇の深さが伝わります。
一方で、吉村昭氏の翻訳について触れると、彼は『平家物語』の多くのエピソードに深い理解を示しながらも、その古文を現代語に訳す際には、特に「読みやすさ」がありました。その翻訳は、物語の登場人物たちの感情や動機を明瞭にし、物語自体のドラマティックな側面を強調しています。
各翻訳を読み比べることで、平家物語の多面性や深さに気づくことができ、より豊かな理解が得られるでしょう。
■参加者が盛り上がったところ
「ジンギス・カン」
平家時代、そしてそれに続く源氏時代は、日本の歴史の中で非常に重要な時代です。その期間については実際に多くの論争が存在します。その時代がどれぐらいの期間続いたか、真の終焉については諸説あります。
諸説ありと言えば、源義経が北海道からモンゴルに渡ったという話が挙がりました。これは歴史的事実として認知されているわけではありませんが、民間伝承として語り継がれています。彼が最後に目撃されたのは、本州最北部とされ、そこから彼が逃れて北海道、さらにはモンゴルに渡った……。そして、ジンギスカンという、また別の地域で英雄とまでいわれる人物とを結びつけることで、世界史の中においてもファンタスティックな流れになっています。
■この本をより楽しめる情報
『平家物語』は、日本の歴史と文化を鮮烈に描き出した叙事詩であり、その成立は鎌倉時代とされています。
時を経て、吉村氏の翻訳で『平家物語』は、単なる歴史物語ではなく、生死、愛憎、名誉、悲劇といった普遍的テーマを私たち現代の読者にも感じさせます。遠い過去の物語を時を経て、ここで新たに体験することができます。
冷静と情熱のあいだ Blu / 辻 仁成(角川文庫)
■男性視点で描く異国情緒溢れる恋愛小説を読みたいあなたにおすすめ1冊
あのとき交わした、たわいもない約束。10年たった今、君はまだ覚えているだろうか。やりがいのある仕事と大切な人。今の僕はそれなりに幸せに生きているつもりだった。だけど、どうしても忘れられない人、あおいが、心の奥に眠っている。あの日、彼女は、僕の腕の中から永遠に失われてしまったはずなのに―。切ない愛の軌跡を男性の視点から描く、青の物語。
引用元:「BOOK」データベースより
■興味深い質問
「この小説に影響を受けてイタリア旅行に?」
『冷静と情熱のあいだ Blu』、その物語は情熱的でロマンティックなイタリアのフィレンツェを舞台にしています。フィレンツェの美しい街並み、芸術作品、そしてロマンティックな雰囲気が物語においてもその魅力を発揮しています。
そして、あまりにも美しい小説の世界観に触れたため、この小説の紹介者は、実際にイタリア旅行に行ったそうです。
■参加者が盛り上がったところ
「サントラが良かった。というか映画が印象的」
紹介者は開口一番、「サントラが良かった」と言いました。紹介者が絶賛する『冷静と情熱のあいだ Blu』のサウンドトラックは、吉俣良氏によるものです。
小説とサントラと映画、それぞれの要素がどのようにリンクし合い、ひとつの作品として成立しているのか、言葉にはしなかったものの感情を揺さぶる様子が伺えました。そのメロディは、物語のシーンシーンに寄り添いながら、時には登場人物の心情を繊細に、時にはダイナミックに表現していたのでしょうか……。
また参加者の中にもこの映画を観た方がいて、主演を務めた竹野内豊さんと韓国の女優ケリー・チャンのことも思い出されました。
■この本をより楽しめる情報
「男性作家の描く恋愛小説」
当然ながら男性作家による恋愛小説は、女性の視点とは異なる感性があります。男性作家の筆がどのように恋愛をスケッチし、キャラクターの内面を探るのかには、多くの読者が興味のある点ではないでしょうか。
また同じ恋愛の物語を別視点から描かれた『冷静と情熱のあいだ Rosso』という小説があります。これは、『冷静と情熱のあいだ Blu』の対となる作品であり、著者である江國香織氏による別の視点から綴られた小説です。
この二つの作品を同時に読むことは、まるで異なる角度から一つの美しい風景を眺めるかのよう。同じテーマに対する男性作家と女性作家の異なるアプローチや解釈、キャラクター造形や情感表現に触れ、それぞれが持つ微妙な違いや深層を楽しむことができます。
僕の名はアラム / ウィリアム・サローヤン(新潮社)
■アルメニア移民のユーモラスな日常を読みたいあなたにおすすめ1冊
僕の名はアラム、九歳。世界は想像しうるあらゆるたぐいの壮麗さに満ちていた――。アルメニア移民の子として生まれたサローヤンが、故郷の小さな町を舞台に描いた代表作を新訳。貧しくもあたたかな大家族に囲まれ、何もかもが冒険だったあの頃。いとこがどこかからか連れてきた馬。穀潰しのおじさんとの遠出。町にやってきたサーカス……。素朴なユーモアで彩られた愛すべき世界。
引用元:「版元ドットコム」より
■興味深い質問
「ザクロとイチジクは神話的な意味合いがあった?」
ザクロを砂漠に植えるエピソードがあります。一見、とるにたらない話かもしれませんが、一歩踏み込んで考えてみると、この果物自体には裏の背景があるのでは? という鋭い質問が飛びました。
ザクロは、その鮮烈な赤と多くの種を持つ実から、生命力や豊穣、そして再生の象徴とされています。古代ギリシャ神話で冥府の女王となるペルセポネが食べてしまったザクロの実。また、聖書でもザクロは言及され、特に約束の地を示す豊かなフルーツとされています。ほかにイチジクもまた、聖書において平和と安息の象徴とされています。このように、ザクロとイチジクは神話や聖書において、重要な象徴として描かれています。
ある物語が、ザクロを砂漠に植えるシーンを描く場合、これは単なる日常的なエピソードではなく、生命の持つ強い意志や奇跡、希望を表現している可能性があります。
「多分そういった意味はないようにも感じましたが、読み込みが足りなかったのか、また再読してみます」
■参加者が盛り上がったところ
「大きなオチのない連作短編」
大きなオチや劇的なクライマックスを持たない連作短編集も、心地よい余韻を与えてくれることがあります。この連作短編は、アルメニア人の移民一家を中心に彼らの日常のドラマを描いており、その細やかな人間模様が読者に深く訴えかけてくるものがありました。
その中には「痛い親戚」が織りなすユーモラスなエピソードがあり、ここちよい読後感と、思わずくすりと笑ってしまう瞬間をもたらしてくれます。どこにでもいる「ああ、またか」という、ちょっぴり困った親戚の存在感と、その中で芽生える家族の絆や小さな冒険が、読者に親しみやすさと安らぎをくれるのです。
そんな話をしていると「ちょっと読んでみたいかも」という参加者の声があり、嬉しかったです。
■この本をより楽しめる情報
『村上柴田翻訳堂』は、村上春樹氏と柴田元幸氏、二人の著名な作家・翻訳家がタッグを組んで、彼らが個人的に心に留めている、もしくは埋もれてしまっている小説を再評価し、新たな世代の読者と共有しようというプロジェクトです。
そこで発掘された小説なので面白くないわけがありません。
鵼の碑 / 京極 夏彦(講談社ノベルス)
■待望の17年間、百鬼夜行シリーズの新刊!
百鬼夜行シリーズ17年ぶりの新作長編がついに!殺人の記憶を持つ娘に惑わされる作家。消えた三つの他殺体を追う刑事。妖光に翻弄される学僧。失踪者を追い求める探偵。死者の声を聞くために訪れた女。そして見え隠れする公安の影。発掘された古文書の鑑定に駆り出された古書肆は、縺れ合いキメラの如き様相を示す「化け物の幽霊」を祓えるか。シリーズ最新作。
引用元:「版元ドットコム」より
■興味深い質問
「描写がないんですか?」
この作品は、描写がほとんど存在せず、物語はほぼ会話とキャラクターによる説明で構築されています。一般的には、描写が少ないと読者は物語に没入しにくくなり、キャラクターや背景が浮かび上がらないものとなりがちですが、『鵼の碑』では全くそのようなことがないようです。
それどころか、キャラクターたちの会話が非常に魅力的であり、読者をストーリーの世界に深く引き込んでいきます。京極夏彦氏は、会話文を通してキャラクターたちのパーソナリティを巧みに表現し、彼らの間の関係性を繊細に描き出しています。言葉のやりとりの中でキャラクターたちの心情や考えが明らかにされ、彼らの背後にある深い背景や心象風景が透けて見えてくるのです。
■参加者が盛り上がったところ
「魍魎の匣です」
『鵼の碑』を語る前にまずは「京極堂・百鬼夜行」について話されました。このシリーズは、緻密なプロットと深い人間洞察で読者を魅了し、多くのファンを持つ作品群です。特に、『魍魎の匣』は、その中でも紹介者から“だんとつのオススメ”とされるほどでした。
このタイトルは、シリーズ愛好者やホラー・ミステリーファンのだけではなく広く知られており、その言及だけで興味を掻き立てられます。誰もが知っているタイトルではあるものの、紹介者の熱量も相まって、未読の方々は「読んでみたくなった」と感じるものです。
■この本をより楽しめる情報
「鵼の碑」は、京極夏彦氏による「京極堂・百鬼夜行」シリーズの待望の新刊として、17年の長い時を経て読者の前に登場しました。この長いインターバルは、ファンの間で想像をかき立て、彼らの期待を高ぶらせるものとなりました。
長きに渡る沈黙を破り発刊された「京極堂・百鬼夜行」シリーズ。『鵼の碑』は、かつてのファンはもちろん、新たな読者にとっても魅力的な一冊となっています。
【まとめ】
今回は、ローマ時代を舞台にした壮大な歴史小説や、濃密で情熱的な日本の歴史を描いた作品、切なくも温かい恋愛小説、アルメニア人移民一家の日常をリアルに綴った作品、そしてなんと17年ぶりに刊行されたある人気シリーズの新刊など、参加者の心を躍らせる多彩なセレクションが登場しました。
次回の読書会は10月21日を予定しており、久々に特定のジャンル、具体的にはホラー・ミステリー・SF小説を予定しています。
そして、課題本の読書会も開催したいと考えています。こちらでは、事前に特定の本を選定し、その本について深く掘り下げたいです。もしリクエストがあれば、お気軽にご連絡ください。