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読書会 2023年7月1日

この日も梅雨の時期で、雨が降っていましたが、足元の悪い中でも、読書会に参加していただきました。
おかげさまで、小説限定の読書会は満席です。
では、どのような作品が紹介されたのか、内容はこちらです。


ラブイユーズ / バルザック(光文社古典新訳文庫)

■一級のクズ対クズの人間喜劇を読みたいあなたにおすすめの1冊

元近衛竜騎兵のフィリップは、酒や賭博に興じ、勤め先や家族の金を使い込んだ挙げ句、軍の謀議に関与して収監される始末。息子を溺愛する母は、釈放に必要な金を工面しようと実家の兄に援助を求めるが、そこでは美貌の家政婦とその恋人が家長を籠絡して実権を握っていたのだった……。

引用元:「光文社古典新訳文庫」HPより

■興味深い質問

「当時もロトシックスのような宝くじがあったのですか?」

主要な登場人物である悪漢フィリップのエピソードです。
フィリップは、おばさんが当たるはずの宝くじを買うべきお金を持ち逃げしました。驚くべきことに、彼はその罪悪感も抱くことなく、堂々と悪党ぶりを発揮しています。

宝くじの資金に確保していたお金を盗られたおばさんの失意は聞いているだけで可哀そうでした。

ところで、当時1800年中盤のフランスにもロトシックスのようなものがあったそうです。おそらく国営であちこちの地域で開催されていたとか。

それにしても悪党とギャンブルって相性がいいですね。

■参加者が盛り上がったところ

「とにかくフィリップがクズなんですよ。クズ!」

この小説に登場する悪党たちのエピソードは、社会的な倫理や良識に対する欠如が露骨に描かれています。彼らの行動は本当に”クズ”なんです。

紹介された方もこの”クズ”というワードを連発していました。その品性や道徳性に欠けた存在です。
しかし、不思議なことに、彼らに対して愛着を感じてしまうこともあるそうです。

ある場面では”毒を以て毒を制す”ではありませんが、悪党対悪党の場合、とても頼もしいんですよね。

■この本をより楽しめる情報

著者が体系化した超大作「人間喜劇」の中でも飛びぬけた悪党が登場する本書。600ページ超で描かれていますが、特に予備知識がなくてもその物語の世界観やストーリーラインがとても面白くて一気に読めるそうです。

また、本書で活躍するキャラクターが他の小説にも登場したりと、スピンオフ感覚で「人間喜劇」を楽しめるので興味のある方はどうぞ。


海も暮れきる / 吉村 昭(講談社文庫)

■死に直面した俳人の最期を見届けたいあなたにおすすめの1冊

「咳をしてもひとり」「いれものがない 両手でうける」――自由律の作風で知られる漂泊の俳人・尾崎放哉は帝大を卒業し一流会社の要職にあったが、酒に溺れ職を辞し、美しい妻にも別れを告げ流浪の歳月を重ねた。最晩年、小豆島の土を踏んだ放哉が、ついに死を迎えるまでの激しく揺れる八ヵ月の日々を鮮烈に描く。

 引用:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「主人公の心境の変化はあるんですか?」

プライドの高い俳人が酒に溺れ、妻と別れ、島へと療養に訪れるという物語が描かれています。
彼が島での生活を通じて島の人々との交流を持つことになり、その変化が気になりました。

この俳人の高慢で傍若無人な振る舞いや心境に、島での経験がどのような変化をもたらしたのかです。
島の人々から受けた温かいもてなしや思いやりは、彼の心を癒し、自己反省を促すかもしれません。

■参加者が盛り上がったところ

「今はアプリで俳句も作れますよね」

現代では、アプリを使って簡単に短歌や俳句を作成することができるそうです。また、ラッパーが短歌や俳句を取り入れてラップを披露することも珍しくありません。

このような現代の状況において、プライドの高い俳人である主人公が直面するとしたら、彼の反応は一体どうなるのでしょうか? この興味深いトピックについて、盛り上がりました。

■この本をより楽しめる情報

遠藤周作氏と同時代に生き『熊嵐』や『高熱隧道』のような鬼気迫る作品ではありませんが、小豆島の静かな波、そして孤高の俳人としての”尾崎放哉”の最期が生々しく描かれた傑作です。


鈍色幻視行 / 恩田 陸(集英社)

■不穏な雰囲気が漂う”恩田ワールド”を堪能したいあなたにおすすめ1冊

謎と秘密を乗せて、今、長い航海が始まる。
撮影中の事故により三たび映像化が頓挫した“呪われた”小説『夜果つるところ』と、その著者・飯合梓の謎を追う小説家の蕗谷梢は、関係者が一堂に会するクルーズ旅行に夫・雅春とともに参加した。船上では、映画監督の角替、映画プロデューサーの進藤、編集者の島崎、漫画家ユニット・真鍋姉妹など、『夜~』にひとかたならぬ思いを持つ面々が、梢の取材に応えて語り出す。次々と現れる新事実と新解釈。旅の半ば、『夜~』を読み返した梢は、ある違和感を覚えて――

引用元:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「印象深いシーンはなんですか?」

人と別れるとき、手を振るのはその対象の人物にではなく、過去に対して手を振っている――。

別れの瞬間に手を振る行為は、ただその相手に向けてではなく、過去の思い出や経験、共有した時間に向けられるものなのでしょうか。手を振ることで、過去との絆や繋がりを示し、それとは別に人の人生は新たな道へと分岐していくのでしょうか……。わかりません。

このような些細なシーンでも、著者の独自の感性や洞察力によって生まれたものだと思います。著者の筆力や創造力に脱帽し、作品の魅力に引き込まれるのは間違いありません。

■参加者が盛り上がったところ

「呪われた小説(作中作)」

この小説では、作中の物語が映像化される計画が進められますが、予期せぬ事件が発生し、結局はその映像化が断念されるという展開が描かれています。

このエピソードは昔テレビで見た胡散臭いエジプトのピラミッドと「ファラオの呪い」を思い出させました。この伝説は、撮影クルーがピラミッド内で起こる怪奇現象や災難に見舞われるというもので、不気味な魅力を持っていました。

恩田陸さんの作品にも一見普通の日常や風景が、どこか不穏な空気に包まれているように感じられます。独特な筆致を持ち、物語の舞台に奇妙な出来事や恐ろしい影が潜んでいるような描写を緻密に織り交ぜています。

■この本をより楽しめる情報

この作品は連載が始まってから約15年もの間、執筆され続けてきました。著者は随所で修正や推敲を重ねながら、ついに作品を完成させました。連載当初から約15年という長い期間をかけて執筆されたこの作品は、著者の情熱と努力の結晶です。

また作中作である『夜果つるところ』も出版されています。

↓恩田陸さんのインタビュー(集英社文芸ステーション)

https://www.bungei.shueisha.co.jp/interview/nibiirogenshikou/


アリアドネの声 / 井上 真偽(幻冬舎)

■無理難題に挑みたいあなたにおすすめ1冊

巨大地震発生。地下に取り残された女性は、目が見えず、耳も聞こえない。光も音も届かない絶対的迷宮。生還不能まで6時間。想像の限界を超えるどんでん返し。救えるはずの事故で兄を亡くした青年・ハルオは、贖罪の気持ちから救助災害ドローンを製作するベンチャー企業に就職する。業務の一環で訪れた、障がい者支援都市「WANOKUNI」で、巨大地震に遭遇。ほとんどの人間が避難する中、一人の女性が地下の危険地帯に取り残されてしまう。それは「見えない、聞こえない、話せない」という三つの障がいを抱え、街のアイドル(象徴)して活動する中川博美だった――。

引用元:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「どうやって助けるんですか?」

一人の女性が地下の危険地帯に取り残されるという状況が描かれています。しかも、彼女は「見えない、聞こえない、話せない」という三つの障がいを抱えています。

小説の結末に関してはネタバレは避けられましたが、この難題がすっきり解決されるのであれば著者の創造力やストーリーテリングの手腕に感嘆です。

■参加者が盛り上がったところ

「アリアドネはテセウスに捨てられた?」

この小説のタイトル「アリアドネの声」には、ギリシャ神話に登場するアリアドネのエピソードが関係しています。アリアドネは有名な神話の一つであり、迷宮の入り口に糸を結び、それをたどって迷宮から脱出しています。そのため、希望の光と用いられることがあります。

一方で、テセウスに捨てられたという説も存在します。そうであれば、このタイトルが衝撃的で物議を醸すものとなるのではないかと盛り上がりました。

■この本をより楽しめる情報

著者は『恋と禁忌の述語論理』で第51回メフィスト賞を受賞され、ほかにも多くのミステリー文芸賞にランクインしています。

またこの小説は、新聞の広告でも宣伝されていたようです。広告を見た人々は、タイトルや簡単なストーリーの紹介文から、興味を引かれたはずです。


盤上の夜 / 宮内 悠介(創元SF文庫)

■ボードゲームが好きなあなたにおすすめ1冊

星川駒子は県立高校の図書館に勤める学校司書だ。たまたま居合わせた出入りの書店員・針谷敬斗と共に、生徒が巻き込まれた事件の解決に一役買う。そんな二人のもとには、ディスプレイ荒らしや小口ずらり事件など、図書館や本にまつわる謎が次々と持ち込まれる!? 学校図書館を舞台にすべての本好きに贈る、心あたたまるミステリー。

引用元:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「少年ジャンプ的な要素があるんですか?」

紹介された方は、作中に少年ジャンプのような要素が含まれているとおっしゃってました。友情の描写はあまりないかもしれませんが、主人公が何かを失い、瀕死の状態になった後に這い上がり、パワーアップしていくという展開。

まさに「ドラゴンボール」や「聖闘士星矢」の世界観に近い感覚を味わえるとのことです。とても個性的な読み方で、興味深くて新鮮な気持ちになりました。

■参加者が盛り上がったところ

「盤上ゲームのルーツ」

チェスや将棋の起源については、様々な説があり、その中でも興味深いのが起源がインドにあるという話でした。

古代のインドで駒を使ったゲームが行われ、その中でチェスの原型が生まれました。ご存じの通りチェスは取られた駒は生き返りません。主に西洋にひろがってきました。
一方、東洋の文化圏では将棋が発展し、奪った駒を再利用するというルールになったとか。

■この本をより楽しめる情報

囲碁、チェッカー、麻雀、古代チェス、将棋……にまつわる6つの短編集です。

『第33回日本SF大賞』『第1回創元SF短編賞 山田正紀賞』『第147回直木賞候補作』そして、『あとは野となれ大和撫』で第157回直木賞候補作になり、第49回星雲賞を受賞されているので本作にもSF的な要素があります。


存在の耐えられない軽さ / ミラン・クンデラ(集英社文庫)

■アダルティな恋愛哲学小説を読みたいあなたにおすすめの1冊

「プラハの春」とその凋落の時代を背景に、ドン・ファンで優秀な外科医トマーシュと田舎娘テレザ、奔放な画家サビナが辿る、愛の悲劇-。たった一回限りの人生の、かぎりない軽さは、本当に耐えがたいのだろうか?甘美にして哀切。究極の恋愛小説。

引用元:「版元ドットコム」より)

興味深い質問

「クンデラ・言語学?」

『存在の耐えられない軽さ』は当初チェコ語で書かれていましたが、プラハの春以降フランス語に翻訳されています。ミラン・クンデラ自身は言語学に明るかったのかはわかりません。

が、チェコは地理的な立地から、周囲の国々と陸続きで接しており、そのため様々な言語が交わっていたと言われています。この多様な言語環境が、チェコを言語学の分野で優れた国となっていたのではないでしょうか。

■参加者が盛り上がったところ

「パルメニデス」

光―闇、細かさ―粗さ、そして軽さと重さ。作中には、ギリシャの哲学者パルメニデスによるこういったものを肯定的・否定的にどうとらえるか、という二項対立が書かれています。

話は変わりますが、太宰治の小説『人間失格』では、興味深い言葉遊びが描かれています。主人公が内省的になったり、退屈な時間を潰すために名詞を「悲劇名詞」と「喜劇名詞」に分類するゲームです。
これが思い出されました。

■この本をより楽しめる情報

恋愛、哲学、政治……様々な要素が入っていますが、それを考えなくてもいいぐらいにキャラクターが魅力的でストーリーも面白いのですべての人におすすめできる内容です。

本書は、集英社文庫からチェコ語の翻訳、河出書房新社からはフランス語から新訳されています。


【まとめ】

小説のジャンルを限定しない読書会は、参加者が様々な小説を紹介しました。好みのジャンルだけでなく、久しぶりに耳にする作家や最新のトレンド作品も取り上げられました。多様な作品が集まり、興味深い会話が交わされました。

次回は課題本です。
凪良ゆうさんの『汝、星のごとく』、はじめて読むので楽しみです。
興味のある方はどうぞご連絡ください。

『汝、星のごとく』読書会はこちら

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