海外小説限定(翻訳本)の読書会を開催しました / 2023年5月13日(土)RENS(大阪の箕面にある読書空間)
読書会 2023年5月13日
海外小説限定の読書会は、今回で第6回目となりました。ようやく満席になり紹介される本も増えるので期待感が高まりました。
テーブルに並べられた小説をざっと見ると、その多くがかなり以前に書かれたもので時の洗礼を受けた作品でした。
というわけで紹介された小説はこちらです。
火を熾す / ジャック・ロンドン(柴田元幸翻訳叢書)
■生死をかけた極限の描写を味わいたいあなたにおすすめの1冊
本書では、一本一本の質を最優先するとともに、作風の多様性も伝わるよう、ロンドンの短篇小説群のなかから9本を選んで訳した。『白い牙』『野生の呼び声』の作家珠玉の短篇集。
引用元:(版元ドットコム)より
表題作の『火を熾す』と『一枚のステーキ』が面白かったので、その2作を紹介してくれました。
■興味深い質問
「マイナス100℃の世界で火を熾すことってできるんですか?」
極限、細胞や組織が破壊される生命危機に瀕した氷の世界です。主人公の”火を熾す”ための経験や豊富な知識をもってしてもなかなか火がともりません。
火が燃えるために必要な、燃料、酸素等、低温下、これらの要件をどうのように揃えたのか……。
紹介された方は北海道の根室でマイナス30℃を体感したことがあるそうです。それでもマイナス30℃です。
■参加者が盛り上がったところ
「独り言をいう」
極限の状態には、物理的なストレスや感情的な圧力が加わることがあり、そのような状況下では自分自身に対して話しかけることがあります。
過酷な自然環境での危険な活動、独り(犬が一緒にいるとはいえ)で自己管理をする必要がある。独り言を言うことで、自分自身を鼓舞したり、焦りを和らげたり励ましているのではないでしょうか。
アウシュヴィッツの収容所でも収容された男性たちが”架空の女性”を創りあげて、あたかもその”架空の女性”が存在しているかのように振る舞うことで精神を保ったというような逸話も話題にあがりました。
■この本をより楽しめる情報
『野性の呼び声』『白い牙』といった自然や動物を題材にした作品を書いている著者。今回紹介された『火を熾す』にもそういった短編が収録されています。氷点下での描写が特に秀逸でそれだけでも十分に楽しめます。
また、沢木耕太郎さんのドキュメンタリー作品のような雰囲気もあるとのことでした。
エクスカリバーの宝剣 / バ−ナ−ド・コ−ンウェル (原書房)
■アーサー王物語の入門書としてもおすすめの1冊
五世紀、ブリタニアは闇のふちに立たされていた。ローマ文明の記憶は薄れ、浸透するキリスト教のまえに異教の神々はすたれつつあった。いがみあうブリタニア諸王国も侵略者をまえに結束はしたが,その結束はいかにも脆く、大王ユーサーの権威によってのみたもたれていたのだ。ところが大王にも死期が近づいていた。その跡継ぎは強力な指導者どころか、凍てつく冬の夜に生まれた幼子なのだった…。ユーサーの玉座を守り、諸王国をたばねて敵と対抗できるのはただひとり、アーサーしかいない。聖なる剣を手に、真の戦士アーサーはついに起つ。平和と勝利を奪還するために…。
引用:「版元ドットコム」より
■興味深い質問
「歴史上は存在しない?」
アーサー王が実在したかどうかは、歴史的な論点となっているようです。アーサー王は、中世の文学や伝説の中でしばしば描かれていて、イギリスの民族的アイデンティティーの象徴として、また、キリスト教的な理念や価値観を伝えるためのツールとして利用されてきたのではないでしょうか。
アーサー王の物語がキリスト教の布教を目的として創作された可能性。しかし、これに対して異論もあり、アーサー王のモデルになったような軍事指導者も存在していたのでは? いずれにせよこの物語の影響力は創作物を超越した凄まじいものがあります。
■参加者が盛り上がったところ
「聞き覚えのあるキャラクター」
車田正美さんの漫画/アニメ『聖闘士星矢』にもエクスカリバーを持つキャラクターが登場します。アーサー王物語から派生した様々なアニメやキャラクターが無数に存在します。
お風呂の中で何度も何度も再読されたそうで、年季の入った本。
それだけに紹介された方のこの物語に対する想いや、その語りに熱がこもっていて圧巻の紹介でした。
他にも『三銃士』/アレクサンドル・デュマもお気に入りのようでした。
■この本をより楽しめる情報
この本と併せて『アーサー王と円卓の騎士』ローズマリ・サトクリフ(原書房)も紹介されました。清廉潔白の聖人として描かれている『アーサー王と円卓の騎士』と冷酷無比の悪人のような描かれ方をしている『エクスカリバーの宝剣』。
この2作を読み比べるとより理解が深まるようですので、併読がおすすめです。
二番がいちばん / D.H.ロレンス(理論社)
■自然体の短編集を堪能したいあなたにおすすめ1冊
人間の肉体と精神の一体化からうまれる、精緻な心理描写に優れた作品の多い、D・H・ロレンス。彼の短編作品のなかから「二番がいちばん」「乗車券を拝見します」「木馬のお告げ」ほかで劇薬のような愛の先へ読者を招待する。
引用元:「理論社」HPより
いくつかの短編の中から『木馬のお告げ』を紹介してくれました。
■興味深い質問
「あざとくないんですか?」
教訓めいた主張が強くないので抜群の読みやすさがあります。物語の中で教訓や警句を強く主張することなく、自然な流れの中で人間の行動や心情を描ききっているようです。
ある特定の社会的・文化的背景や基づく倫理観が強ければ、共感できない読者によっては感情移入しにくくなる場合があります。そしてストーリーやキャラクターの描写が破綻する可能性もあります。
そういった主張がほとんど感じられない自然体の本作。
■参加者が盛り上がったところ
「家のささやき」
「お金が足りない」と家がひたすらにささやく描写があるそうです。何かの比喩なのか? 例えば悪魔のような存在を示唆しているのか? その意図が何なのか参加者で話題になりました。
■この本をより楽しめる情報
『チャタレイ夫人の恋人』『息子と恋人』で有名な著者。いくつもの短編集がありそれらに定評があります。
また、装丁が可愛いこのシリーズ。
部屋に飾るだけでも雰囲気を明るくなりインテリアとしても良いです。
恐るべき子供たち / ジャン・コクトー(光文社古典新訳文庫)
■ 詩的で危ういティーンネイジャーの物語を読みたいあなたにおすすめの1冊
14歳のポールは、憧れの生徒ダルジュロスの投げた雪玉で負傷し、友人のジェラールに部屋まで送られる。そこはポールと姉エリザベートの「ふたりだけの部屋」だった。そしてダルジュロスにそっくりの少女、アガートの登場。愛するがゆえに傷つけ合う4人の交友が始まった。
引用元:「版元ドットコム」より
■興味深い質問
「読み始めたキッカケは?」
没後60年 ジャン・コクトー映画祭を観に行かれるということでこの『恐るべき子供たち』を読み始めたようです。また今回の海外小説読書会で紹介するというモチベーションもあったそうです。
■参加者が盛り上がったところ
「危険な年代」
ギャングエイジとして若者が犯罪や暴力に関与する時期が描かれています。背景には、貧困や社会的格差、家庭環境など複雑な原因がありますが、この作品ではかなり詩的に描かれています。
英雄的で悪の存在としてのダルジュロスの放つ石入りの雪玉。恐ろしいです。
『スタンド・バイ・ミー』も話題にあがりました。
■この本をより楽しめる情報
超有名な『恐るべき子供たち』。題名は聞いたことがあっても意外と読んでいない人も多いのではないでしょうか。本書(光文社古典新訳文庫)でも約260ページほどなのですぐに読破できます。
また、挿絵もお洒落で芸術性があるのでそちらも見どころのひとつです。
不吉なことは何も / フレドリック・ブラウン(創元推理文庫)
■設定とキャラが面白いミステリ短編集を読みたいあなたにおすすめの1冊
【名作ミステリ新訳プロジェクト】ふたりの探偵の目前にいて、しかも彼らの目にとまらなかった姿なき殺人者とは? 身代金誘拐事件に巻き込まれた保険外交員の行く末は? 金をたっぷり貯えた老人の家に猛犬がいるのを知った男の計画とは? 奇抜な発想と予想外の結末が光る短編10作と、殺人で終身刑になった男の無実を証明しようと奮闘する刑事を描く名作中編「踊るサンドイッチ」を収録。『真っ白な嘘』に続く、推理短編の魅力たっぷりの『復讐の女神』改題新訳版!(旧訳版から収録作品の変更はありません)
引用元:「版元ドットコム」より
この短編集の中から『毛むくじゃらの犬』と『よい勲爵士(グツド・ナイト)によい夜(グツド・ナイト)を』を紹介してくれました。
■興味深い質問
「この謎には合理的な理由がありますか?」
作中の謎がどのように解き明かされるのか? という興味が湧きます。
ミステリー小説の読者は証拠や手がかりを集めて、アリバイを確認し、犯人の動機を探ったりします。最終的には、登場人物の中に犯人や謎を特定しようすることがあるので、この質問が飛びました。
■参加者が盛り上がったところ
「Shaggy-dog story」
表題作は『毛むくじゃらの犬』。この本の原題は『THE SHAGGY DOG AND OTHRE 』です。
Shaggy-dog storyには、”ばかげていて聞き手には退屈な話”という意味合いがあるそうです。
自分だけ楽しくて、聞いている人は辟易するような場面ってたくさんありますよね。という話題で盛り上がりました。
■この本をより楽しめる情報
設定と謎解きが面白い短編集です。憎めないキャラクターも登場したり、人間関係がキーになっていたり、シェイクスピアの引用で余韻をひくものもあります。
異常【アノマリー】 / エルヴェ・ル・テリエ(早川書房)
■想像を絶する”異常事態”を読みたいあなたにおすすめの1冊
殺し屋、ポップスター、売れない作家、軍人の妻、がんを告知された男……なんのつながりもない人びとが、ある飛行機に同乗したことで、運命を共にする。飛行機は未曾有の巨大乱気流に遭遇し、乗客は奇跡的に生還したかに見えたが――。ゴンクール賞受賞作
引用元:「版元ドットコム」より
■興味深い質問
「実際にこの”異常事態”になったらどうする?」
という質問を、『異常【アノマリー】』を読んでいたほかの参加者が自分の身内に向けて投げかけたようです。
この小説は「あらすじ検索禁止」と書かれているため、ネタバレを避けるためにあらすじすらほとんど話しませんでした。結果として、ふわふわとしたあいまいな紹介になってしまいました。
■参加者が盛り上がったところ
「トランプ大統領?」
フランスのマクロン大統領や中国習近平主席、ロシアのプーチン大統領など実在する人物が作中に登場しますが、アメリカの大統領だけは名前がありません。
Twitterを凍結させられそうなこの大統領、トランプ大統領なのでしょうか……。
そこから小説の中で存命する実際のキャラクターを登場させることについて話題になりました。
実在する人物を登場させることで、物語にリアリティを与えることができますが、リスクも存在します。実在する人物を不適切な方法で描写することで、その人物やその周囲からの批判を引き起こすことがあります。
■この本をより楽しめる情報
帯にもあるとおり、普通の群像劇と思いきやとんでもない”異常事態”が起きます。
その事件には驚かされますが、それだけではなく一人ひとりのキャラクターが立っていて、彼らが抱える問題もそれぞれしっかりと描かれています。
しかもその群像劇は各キャラクターに合わせた文体となっているので、読み応えが十分にあります。
【まとめ】
今回も様々なジャンルの小説が紹介されました。過酷な状況に直面した人々の物語や歴史が垣間見えるアーサー王の物語、秀逸な謎解き、あざとくない自然体、詩的で危うい少年少女……そして未曾有の異常事態。
いくつかの小説はさっそく読んでみたいと思いました。また来月にも「海外小説」読書会を開催したいです。