2022年ベスト本読書会で紹介された『赤い蝋人形(新かぐや姫)』 / 山田風太郎(2023年1月28日)
なぜ犯行を行ったのか? 人の心、動機に興味があるなたにおすすめの1冊です。
2022年ベスト本で山田風太郎さんの作品に遭遇するとは思っていなかったので、ひとりテンションがあがっていました。この本は5番目に紹介されたのですが、初っ端からその不可解で謎めいた表紙に注目していました。
アイシャドウの濃い少女? 半分ひらかれた瞳からは光が失われて怪しげな眼差しを向けています。タイトルには『赤い蝋人形』。
面白さが保証された短編集
言わずとしれた山田風太郎氏の傑作選。忍法帖シリーズや時代物以外でも幅広く質の高い作品を出版されています。
紹介された短編は、表題作の『赤い蠟人形』ではなく『新かぐや姫』という物語でした。
【あらすじ】
電車火災事故と人気作家の妹の焼身自殺。二つの事件を繋ぐ驚愕の秘密とは。表題作の他「30人の3時間」「新かぐや姫」等、人間の魂の闇が引き起こす地獄を描く傑作短篇集。
「地獄だ。人間地獄がここにある。
推理に何が救えよう」 ――米澤穂信氏、震撼それでも、読むのを止められない。
(引用元:河出書房新社)
2022年、山田風太郎生誕100年!
『新かぐや姫』の主人公欣一郎は、遊郭と歓楽街を一屋にあつめた「東京阿呆宮」という魔窟の経営者です。
過去には3歳の愛娘を病気で亡くしています。
新かぐや姫 「愛する義妹の孕む子の父親探しに狂奔するアプレ遊廓の経営者」
(引用元:BOOKデータベース)
「主人公は重たい過去を背負っているんですか?」
『新かぐや姫』の紹介の前には『可制御の殺人 / 松城 明』という小説の紹介がありました。
『可制御の殺人』を紹介された方はの好みとしては、主人公や主要な登場人物に何か過去に起こった辛い体験による心の傷や、闇を抱えていない方が良いらしいです。
このあとの流れで『新かぐや姫』の紹介だったので、この話題になりました。
キャラクターに重たい過去や背負っているモノがあるのか、ないのか、あまり深く考えたことがなかったので、この視点は興味深かったです。
過去に辛いトラウマや経験を持ったキャラクターは、行動の動機付けになったりストーリーに起伏を与える材料になります。
一方で、特別な過去がなかったり、語られないキャラクターは肩の力を抜いて楽しめます。
そして『新かぐや姫』の主人公には”重たい過去”があります。
「犯人を当てることより、なぜそんなことをしたのか? 動機に興味があります」
俗に言う「ホワイダニット」(Why done it = なぜ犯行を行ったか)と呼ばれる犯行動機に魅かれ、共感とも違う表現のしがたい感情になったようです。
事件が起きたとき、なぜ犯行に及んだのか? その必要性があったのか?
誰かを救いたい。そんな気持ちが行動に繋がる……。
昭和前期の匂い
「美しくて、恐ろしい」恐怖の中に美的な要素が融合した物語に既視感を覚えました。
恐怖や不安が緊張感を生んで物語の中へと引きずり込んでいく感覚です。
夢野久作や江戸川乱歩が頭に過りました。
「怪しい物語」、不確定なことや不可解なことが多く、”謎”に魅了されます。
不確実な世界観が昭和前期の香りを乗せていました。