5月11日(土)小説(ジャンルは自由)限定読書会開催 / RENS(大阪の箕面にある読書空間)
小説限定(ジャンルは自由)読書会 2024年5月11日(土)
2024年5月11日に開催された、小説限定の読書会から当日の様子をお伝えします。
この日、参加者一人ひとりが自由に選んだジャンルの小説を持ち寄りました。
各作品に対する詳細な紹介と、参加者たちの生の声を通じて、少しでも興味を持って頂ければと思います。
内容にはネタバレも含んでいますので、ご注意下さい。
アルプス席の母 / 早見 和真 (小学館)
■高校野球の裏側に興味があるあなたにおすすめの一冊
秋山菜々子は、神奈川で看護師をしながら一人息子の航太郎を育てていた。湘南のシニアリーグで活躍する航太郎には関東一円からスカウトが来ていたが、選び取ったのはとある大阪の新興校だった。声のかからなかった甲子園常連校を倒すことを夢見て。息子とともに、菜々子もまた大阪に拠点を移すことを決意する。不慣れな土地での暮らし、厳しい父母会の掟、激痩せしていく息子。果たしてふたりの夢は叶うのか!?ーー
引用元:「小学館」より
■興味深い質問
「親が主役ですか?」
この小説は、子供たちではなく親にフォーカスされています。保護者会の様子や保護者間の関係性、親同士の複雑な人間関係やそのヒエラルキー、学校コミュニティ内での競争などが描かれています。
「斬新ですが、けっこう気になります。実際にあるでしょうね」
■参加者が盛り上がったところ
「保護者会の辛さ」
高校野球をテーマにしていますが、注目すべきは選手たちのレギュラー争いや練習の厳しさだけではありません。母親たちの間にも繰り広がる激しいプライドのぶつかり合い、嫉妬や妬み、そして家庭を揺るがす経済的な負担や息子の反抗期といった問題が切実に描写されています。
「息子が野球を先に辞めるか、親が耐え切れなくなるかという、リアルで恐ろしい緊張感がありそうですね」
■この本をより楽しめる情報
『店長がバカすぎて』で有名な著者の本作は全く新しい視点で高校野球の世界です。
スポーツの裏で繰り広げられる親の苦悩と犠牲をリアルに描き出し、高校野球を取り巻く家族のドラマを新しい角度から表現しています。
■興味深い質問
「そんなユニークな仕事があるんですか?」
主人公は靴の製造メーカーから特殊な依頼を受けています。その仕事は、新しく開発された靴を試し履きし、その履き心地や耐久性などについての感想を詳細に分析し、レポートにまとめて提出することです。
「面白い仕事ですね。実際にもありそう」
■参加者が盛り上がったところ
「芸人のようなエンターテインメント性」
主人公には、人と話すのを避けたい時間があり、それを管理するために「沈黙時間表」という独自のスケジュールを作成しています。例えば、月曜日の午前中は気分が乗らず会話を控える、午後からは通常通り会話を再開といった感じです。一方で、もし恋人にこの時間割が発覚した場合、彼女が傷つく可能性があります。
「これって、まるで芸人が持っているエピソードトークみたいですね」
■この本をより楽しめる情報
この作品は2004年にドイツで最も権威ある文学賞であるビューヒナー賞を受賞。主人公はうだつのあがらない日常には悲壮感が漂うことなく、どこかユーモアが感じられます。
また翻訳もユニークで「面妖」という言葉が登場するなど、独特です。
シャルビューク夫人の肖像 / ジェフリー・フォード (ランダムハウス講談社)
■幻想文学に心を奪われるあなたにオススメの一冊
「姿を見ずに、肖像画を描いてほしい」肖像画家のピアンボに突然声をかけてきたのは、両目が白濁した盲目の男。シャルビューク夫人の使いと称し、法外な報酬を口にして肖像画の製作を依頼してきた。屏風の向こうで夫人が語る、過去の話とその声だけで姿を推測するという、その奇妙な依頼に、やがて画家は虜となっていき…。謎の霊薬、奇病の流行-19世紀末のニューヨークを舞台に鬼才フォードが紡ぎ出す、奇怪な物語。
引用元:「版元ドットコム」より
■興味深い質問
「姿を見ずに?」
この物語は、顔を見ずにただ身の上話を聞いて肖像画を描くという、奇妙な依頼から始まるようです。しかも依頼者は視力を失った盲目の男で、その白濁した眼が何かを語るかのように謎に満ちている……。
「冒頭から奇怪なミステリー小説みたいですね」
■参加者が盛り上がったところ
「幻想的な世界観」
紹介者は、以前にもRENSの読書会でいくつかの幻想小説を紹介していただきました。
今回の作品では、雪の結晶を使った未来予知という独特の占い方法が登場します。
雪の結晶が形成するクリスタルの描写は、そのビジュアルが神秘的な雰囲気を醸し出し、話を聞いているだけでもその魔法のような輝きを感じました。
■この本をより楽しめる情報
本作は世界幻想文学大賞とエドガー賞を受賞した鬼才作家による作品です。この作家はその独特の筆致で知られ、読者を常に想像の世界へと誘います。作中で展開される幻想的でミステリアスな世界観は、読む者を瞬く間に物語の渦中に引き込み、幻想文学とミステリーのファンを同時に魅了するはずです。
■興味深い質問
「『グレートギャツビー』に似ていませんか?」
『騎士団長殺し』は、村上春樹氏が影響を受けたとされるフィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』をオマージュしているらしいです。ということでこの質問があがりました。
両作品を比較すると、テーマやキャラクター等に共通する部分があります。
■参加者が盛り上がったところ
「リズムと文体」
読書会で村上春樹氏の作品が取り上げられる際に頻繁に話題になるのは「村上作品の魅力はどこにあるのか?」です。
今回は特に、彼の作品が持つ独特のポップで洗練された文体と、小気味良いリズム感について紹介者から語られました。
■この本をより楽しめる情報
著者の14作目の長編小説は、相変わらずの村上節が炸裂しており、非現実的な要素と深く個人的な部分があります。また重要なキャラクターとして画家が登場し、その芸術的な創作が物語に深みを持たせています。それが村上春樹氏の持ち味である奇妙で魅力的な世界観と相まって、読み応えのある作品に仕上がっています。
■興味深い質問
「児童書ですか?」
ヒトラー政権下のドイツを舞台にしたこの小説は、主人公が戦線に送られる過酷な状況と、ユダヤ人の友人との深い関係性が描かれています。
そのセンシティブなテーマと人物描写により、単なる児童書の枠を超えた読み応えのある内容となっているので、大人の読者にとっても深く考えさせられる作品です。
■参加者が盛り上がったところ
「普通の人が襲撃する怖さ」
戦時下では、知らぬ間に加害者にも、また被害者にもなり得るというのは恐怖ですね。一見平凡な人々の中に潜む暴力の可能性を浮き彫りにし、それが突如として日常を破壊します。
■この本をより楽しめる情報
主人公の誕生から青年期に至るまでの成長が主な内容です。単なるナチス非難の物語としてではなく、個々の視点から多面的に事件を捉え、深く掘り下げています。被害者の視点で記述された物語は、10代の若者たちだけでなく大人にもぜひ読んで欲しい内容です。
■興味深い質問
「スター・ガールは何を考えているんですか?」
彼女は白いドレスを身に纏い、ウクレレを手にランチタイムに独特のパフォーマンスを行い、学校のチアリーディングチームで風変わりな存在です。表面的には自由奔放で個性的な「不思議ちゃん」として振舞っていますが、その奇抜な行動の裏には、どのような意図が隠されているのか、気になります。
■参加者が盛り上がったところ
「一番影響を受けた小説です」
紹介者にとって「一番影響を受けた小説」と言わせるほど、心に残る作品だったようです。
読者によって読む時期や心境によって異なる中で、特別なものだったのでしょう。
「羨ましいです。そういう作品に出会うために読んでいるようなものですね」
■この本をより楽しめる情報
この小説は2000年に初めて出版され、ヤングアダルトの読者を中心に瞬く間に人気を博しました。ニューヨークタイムズのベストセラーリストに名を連ねるとともに、ペアレンツチョイスゴールドアワードとALAヤングアダルト向けトップ10ベストブックアワードを等多くの受賞歴があります。
また書籍の枠を超え、ディズニーによる映画化もされています。
【課題本一覧】
百年の孤独 / G・ガルシア=マルケス ←7月27日開催予定
重力の虹 / トマス・ピンチョン ←9月開催予定
鳳仙花 / 中上健次 ←未定(参加希望者が2名以上になれば)
幻滅 / バルザック 〃
金閣寺 / 三島由紀夫 〃
海と毒薬 / 遠藤周作 〃