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小説限定(ジャンルは自由)読書会 2024年3月9日(土)

今回も多彩な小説が取り上げられ、興味深い物語が紹介されました。
では早速、各作品についての紹介と参加者の感想をご紹介します。

内容にはネタバレも含んでいますので、ご注意下さい。


ことり / 小川 洋子 (朝日文庫)

■美しい文体と静かな感動を求めるあなたにおすすめの1冊

人間の言葉は話せないけれど、小鳥のさえずりをよく理解し、こよなく愛する兄と、兄の言葉を唯一わかる弟。小鳥たちの声だけに耳を澄ます二人は、世の片隅でつつしみ深く一生を生きた。やさしく切ない、著者の会心作。解説・小野正嗣。

引用元:「朝日新聞出版」より

■興味深い質問

「ポーポー語ってなんですか?」

「ポーポー語とは、たぶん小鳥がさえずるよう音なんですけど、具体的な文字や言葉としては描写されていません。兄さんが話すポーポー語は、具体的な意味がないのかもしれません」
読んだことがない参加者のポーポー語への想像は膨らむばかりでした。

■参加者が盛り上がったところ

「小川洋子に病みつき」

紹介された方は、この小説を非常に気に入っていて、既に4回も読み返したとのことです。特に、小川洋子さんの文体に魅了されています。その文章は洗練されており、美しい言葉遣いが際立っています。日常的な言葉を使いつつも、詩的な美しさがあり、読者の心に深く響く独特の雰囲気を持っています。

■この本をより楽しめる情報

小鳥たちの声に耳を傾けています。著者にとっての会心作であり、やさしさと切なさが見事に融合しています。読書会で紹介された際にも、著者特有の美しい文体と独自の世界観が大きな話題となり、その魅力に深く没入することは間違いありません。


家守綺譚 / 梨木香歩 (新潮社)

■民間伝承や幻想的な物語を読みたいあなたにおすすめの1

それはついこの間、ほんの百年前の物語。サルスベリの木に惚れられたり、飼い犬は河童と懇意になったり、庭のはずれにマリア様がお出ましになったり、散りぎわの桜が暇乞いに来たり。と、いった次第のこれは、文明の進歩とやらに今ひとつ棹さしかねている新米知識人の「私」と天地自然の「気」たちとの、のびやかな交歓の記録――。

 引用:「新潮社」より

興味深い質問

「民俗学?」

日常生活の文化や歴史、そして民間伝承に基づく民俗学的な要素が含まれています。これらが織りなす豊かな日本文化の魅力を感じることができます。読んでいると、日本の伝統や風習、対する関心と理解が深まります。

■参加者が盛り上がったところ

「植物や動物が人間じみている」

作中では、河童や犬、木蓮などの植物や動物が、まるで人間のように振る舞い、物語の中で重要な役割を果たしています。
「どういうことですか?」
「読み進めてみると、これらの非人間的な存在が人間のような感情や思考しているようなんです。ただの背景や装飾ではなく、彼らが示す「人間らしさ」が垣間見えます。

■この本をより楽しめる情報

異界、別世界と現世が融合しつつ、四季の移ろいを生々しく感じることができます。紹介してくれた人は、その独特な世界観に魅了され、何度も繰り返し読みたくなるほどだそうです。また、「家守奇譚」というタイトルも、作品の雰囲気を見事にマッチしています。


細雪 / 谷崎潤一郎 (新潮文庫)

日本文化と流麗な文体を楽しみたいあなたにおすすめ1冊

大阪船場に古いのれんを誇る蒔岡家の四人姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子が織りなす人間模様のなかに、昭和十年代の関西の上流社会の生活のありさまを四季折々に描き込んだ絢爛たる小説絵巻。三女の雪子は姉妹のうちで一番の美人なのだが、縁談がまとまらず、三十をすぎていまだに独身でいる。幸子夫婦は心配して奔走するが、無口な雪子はどの男にも賛成せず、月日がたってゆく。

引用元:「新潮社」より

興味深い質問

「舞台となった時代背景はいつ頃でしょうか?」

『細雪』は、1936年秋から1941年春にかけての大阪の旧家を舞台に展開される小説です。この時期は第二次世界大戦前夜という、社会が大きな変革期を迎えようとしている緊迫した時代背景があります。
当時のドイツとの交流が物語に織り交ぜられており、歴史的な興味深さや変わりゆく時代の中での人々の生活や心情が繊細に描かれています。

■参加者が盛り上がったところ

「谷崎潤一郎の文章」

今回の読書会では、小川洋子さんや梨木香歩さんのユニークな世界観と文体が話題になりましたが、谷崎潤一郎の流麗な文体も同様です。谷崎潤一郎の文章は、長いセンテンスで構成されているにも関わらず、スムーズに読み進めることができる点が特徴があります。これは、彼が日本語の構造を深く理解し、巧みに操ることができたからこそです。
ほかにも『陰翳礼讃』に代表されるような、日本特有の美意識を凝縮した彼の作品は、その美しさにうっとりとため息をつくほどです。日本的な美学を追求し、それを言葉の美しさとして昇華させています。

■この本をより楽しめる情報

『細雪』は、谷崎潤一郎の代表作として知られ、三島由紀夫をはじめとする多くの小説家や文芸評論家から高い評価を受けています。近代文学の傑作として位置づけられ、日本文学の中でも特に重要な地位を占めています。日本語の原題『細雪』とは異なり、海外では『Makioka Sisters』というタイトルで知られている点も非常に興味深いです。


日の名残り / カズオ・イシグロ(ハヤカワepi文庫)

■英国の哀愁を帯びた雰囲気を堪能したいあなたにおすすめの1冊

短い旅に出た老執事が、美しい田園風景のなか古き佳き時代を回想する。長年仕えた卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々……。遠い思い出は輝きながら胸のなかで生き続ける。――

引用元:「Hayakawa Online」より

興味深い質問

「英語版で読んだのですか?」

この小説を紹介された方は、なんと原文(英語)で読んだそうです。原題は『The Remains of the Day』。海外の小説をその原文で読み解き、読書会に参加された方は今回が初めてでした。そのため、他の参加者からも注目を集めました。原文での読書は、作品をより深く、また著者の意図を直接的に理解することができたのでしょうか。

■参加者が盛り上がったところ

「後悔を抱えている」

誰もが人生で何らかの後悔を抱えています。読書会に参加された方々も例外ではなく、それぞれに後悔を持っていることでしょう。カズオ・イシグロの作品には、しばしば暗く、重たいテーマが散りばめられています。この作品における主人公の後悔も、著者の他の作品と同様に深いテーマのひとつ。ただ、老執事の静かな内省と、彼の人生に対する淡々とした受け止め方が、比較的に穏やかな雰囲気を作っていたようです。

■この本をより楽しめる情報

この作品は、第二次世界大戦前の対ドイツ宥和主義者である主人公の元主人に関する部分を、主人公である執事スティーブンスが意図的に曖昧にしています。さらに1993年にはジェームズ・アイヴォリー監督によって映画化され、その繊細な人間関係や時代背景が視覚的にも表現されました。
また、この作品には効果的なメタファーが用いられており、物語の深層やキャラクターの心情を巧みに表現しています。


飛ぶ男 / 安部 公房 (新潮文庫)

■想像の枠を超えた世界観に浸りたいあなたにおすすめの1冊

ある夏の朝。時速2、3キロで滑空する物体がいた。《飛ぶ男》の出現である。目撃者は3人。暴力団の男、男性不信の女、とある中学教師……。突如発射された2発の銃弾は、飛ぶ男と中学教師を強く結び付け、奇妙な部屋へと女を誘う。世界文学の最先端として存在し続けた作家が、最期に創造した不条理な世界とは。死後フロッピーディスクに遺されていた表題作のほか「さまざまな父」を収録。

引用元:「新潮社」より

興味深い質問

「えっ、なんの話ですか?」

安部公房の小説は、常に一般的な発想を超えた独創的な内容で知られていますが、今回紹介された『飛ぶ男』も例外ではありません。ない世の紹介を受けても具体的な物語を把握するのが難しいです。が、その紹介から伝わってくる作品の雰囲気や概要だけで、安部公房特有の奇想天外なアイデアが、展開されています。

■参加者が盛り上がったところ

「安部公房の想像力が一般読者の斜め上」

へんてこな現象を真面目に描写しています。タイトルにある通り、空を飛んでいる男性が登場するのですが、その飛び方が通常の想像を超えています。なんと、時速2、3キロという非常にゆったりとした速度で滑空しているのです。こんなにものんびりと飛行することが可能だとは、普通は思いもよらないでしょう。

■この本をより楽しめる情報

安部公房の生誕100周年を記念して、新潮文庫から2ヶ月連続で新刊が発売されることになりました。第一弾として、この未完の遺作『飛ぶ男』が発売されました。安部公房が1993年に急性心不全で亡くなった後、彼が愛用していたワープロのフロッピーディスクの中から見つかったものだそうです。


罪の声/ 塩田 武士 (講談社文庫)

■未解決事件、実際の事件に基づいたフィクションが好きなあなたにおすすめの1冊

京都でテーラーを営む曽根俊也は、父の遺品の中からカセットテープと黒革のノートを見つける。ノートには英文に混じって製菓メーカーの「ギンガ」と「萬堂」の文字。テープを再生すると、自分の幼いころの声が聞こえてくる。それは、31年前に発生して未解決のままの「ギン萬事件」で恐喝に使われたテープとまったく同じものだった。「ギンガ萬堂事件」の真相を追う新聞記者と「男」がたどり着いた果てとは。――

引用元:「講談社BOOK倶楽部」より

興味深い質問

「ノンフィクションではないですよね?」

「昭和最大の未解決事件を基にして創作されたフィクションの作品です。しかし、何が創作で何が事実に基づくのかを判別するのが難しいほど、膨大な取材に基づく情報量と筆致のリアルさが、まるでノンフィクションを読んでいるかのような錯覚を与えます」

■参加者が盛り上がったところ

「キツネ目の男」

モチーフとなった未解決事件において、重要な人物である「キツネ目の男」の似顔絵は、実際にこの写真を目にした人なら理解できるでしょうが、非常に強烈な印象と異様な雰囲気を持っています。この似顔絵は、見る者の記憶に深く刻まれるほど強いインパクトを与え、事件の不気味さや謎を一層深めていることで話題になりました。

■この本をより楽しめる情報

2016年の「週刊文春」ミステリーベスト10 国内部門で第1位。さらに、第7回山田風太郎賞を受賞。大きな反響を受けて、映画化もされました。未解決事件を深く掘り下げた緻密な物語は、映画でもその緊迫感と迫力が再現されていることでしょう。


アイルランド・ストーリーズ / ウィリアム・トレヴァー(国書刊行会)

■アイルランドの美しい風景と共に物語を楽しみたいあなたにおすすめの1冊

<現代で最も優れた短篇作家>ウィリアム・トレヴァー、『聖母の贈り物』につづくベスト・コレクション第2弾!
稀代のストーリーテラーが優しく、そして残酷にえぐりとる島国を生きる人々の人生模様……

引用元:「新潮社」より

興味深い質問

「統一感がある短編集ですか?」

アイルランドの歴史や宗教的な対立、そしてその美しい風景を切り取ったかのような描写が特徴的です。これらが織り交ぜられ、物語に色彩を加えています。アイルランド特有の文化や社会の背景が色濃く反映されたストーリー、アイルランドの風土や人々の生活、その土地の魂や葛藤、美しさを感じ取ることができます。

■参加者が盛り上がったところ

「アイルランドの料理って美味しいんでしたっけ?」

作中にはマッシュドポテト、ベーコン、コルカノンにホットチョコレートなど、魅力的な料理が目白押しです。

■この本をより楽しめる情報

ジェイムズ・ジョイス、フランク・オコナー、イワン・ツルゲーネフ、アントン・チェーホフといった歴史上の偉大な短篇作家たちと同列に扱われ、現代で最も優れた短篇作家の一人と評される著者による、アイルランドをテーマにした短編集です。
アイルランドに根差した物語を通して、その土地特有の人間関係や文化的背景に深く触れることができるO・ヘンリー賞受賞作を含む全12篇。


【まとめ】

今回の読書会で紹介された作品は、小鳥からアイルランドの風土まで、多岐にわたりました。参加者からはそれぞれの作品の魅力や独特の文体、背景が深く語られ、新たな発見や気づきを得ることになりました。

また、1冊の小説を参加者全員で話す「課題本」読書会も今後予定しております。

【課題本一覧】
百年の孤独 / G・ガルシア=マルケス ←6月8日開催予定
重力の虹 / トマス・ピンチョン ←9月開催予定
鳳仙花 / 中上健次 ←未定(参加希望者が2名以上になれば)
幻滅 / バルザック        〃
金閣寺 / 三島由紀夫        〃
海と毒薬 / 遠藤周作        〃

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