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読書会 2023年6月10日

近畿地方はすでに梅雨入りし、雨が降りそうな中、参加者には箕面まで来ていただき、読書会を開催することができました。

この読書会では、小説であればどんなジャンルでも対象としました。参加者は毎回、どんな作品に出会えるかを楽しみにしています。

今回紹介された小説は、以下の通りです。


恐るべき太陽 / ミシェル・ビュッシ(集英社文庫)

■小さな違和感がスマートに解決されるミステリー小説を読みたいあなたにおすすめの1冊

画家ゴーギャンや歌手ジャック・ブレルが愛した南太平洋仏領ポリネシアのヒバオア島。謎めいた石像ティキたちが見守るこの島に、人気ベストセラー作家と、彼の熱烈なファンでもある作家志望の女性5人が〈創作アトリエ〉のために集まった。だが作家は失踪、彼女らは次々に死体となって発見され……。最後に残るのは、誰? 叙述ミステリーの巨匠ビュッシが満を持して放つクリスティーへの挑戦作。

引用元:「集英社HP」より

■興味深い質問

「キャラクターかぶっていません? 上手く描き分けれているんですか?」

集められた5人は全員が”作家志望”しかも全員女性。この設定において、キャラクターの描き分けがかなり難しいように思えました。

彼女たちの違うバックグラウンドや人生経験、興味関心の違いを通じて、キャラクターの多様性がどう表現されているのか……。

この作品、書簡体(首記)によって描かれている部分があり、視点が人物によって変わってくるのでキャラクターが混同するようなことはなかったそうです。

(瓶の中の手記といえば夢野久作氏の『瓶詰地獄』が頭を過りましたが、こちらは”クリスティーへの挑戦”どういう世界観なのか興味がわきます)

■参加者が盛り上がったところ

「ミステリー小説において効果的な冒頭とは?」

小説の冒頭は読者の興味を引きつけ、物語への関心を高める重要な要素です。
ミステリー小説で一番最初に謎や事件が生じるきっかけとなるエピソードや問題を導入できれば、ページをめくりたくなります。

「ある日彼女は突然、自宅で死体を発見した。犯人は誰なのか? なぜ殺したのか? どうやって……?」

ほかに不審な人物の人影や不可解な行動もあります。
「でも一番は、『登場人物が行方不明』」ではないでしょうか……。

■この本をより楽しめる情報

叙述トリックではなく、叙述ミステリーの巨匠。2023年5月に発刊されたフランスを代表するミステリー作家の最新作です。
かなり気が早いですが、紹介された方はこの『恐るべき太陽』が2023年のベスト本に挙げるほどの推し本でした。


ブルボンの封印 / 藤本 ひとみ (新潮文庫)

■陰謀渦巻くフランス王朝のミステリーを読みたいあなたにおすすめの1冊

1643年5月の夕暮れ、フランス国王ルイ十三世は死の床にあった。その密命を受けた枢機卿マザランは、馬車に大金を積ませて王宮を出発する。だがポン・ヌフの橋までやってきた時、一人の男をはね飛ばした。これがブルボン王朝を震撼させる事件の幕開けとなったのだった。フランス史上最大の謎といわれ、バスティーユに記録を残した秘密の囚人・鉄仮面の正体をめぐる愛と陰謀の歴史ロマン。

 引用:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「車輪の下敷きの意味は?」

作中には貴族の馬車に男が撥ねられるシーンがあります。
この表現は権力や強大な力に押し潰されることを暗示しています。例えば、強大な組織や社会の階層的な力関係の中で、個人が政府や権力者、王族などの力によって虐げられたりする状況を表現するときに使われたりします。

ヘルマン・ヘッセの名作『車輪の下』にも同じく、主人公のハンスが車輪の下敷きになるように、教育制度や社会の圧力によって押し潰される様子を象徴しています。

■参加者が盛り上がったところ

「農業大国こそ飢饉、餓死者が多い理由」

フランスは農業大国という話題になりました。仮に自然災害が起きたとき農作物への影響を及ぼす可能性が大です。洪水、干ばつ、台風などの災害は、農作物の生育を阻害し、収穫量を減少させることがあります。

自国の生産に過度に依存すると、他国からの農産物の輸入や国際的な農業資源の利用を制限することになります。その結果、国内での農作物の生産が減少すると、食料供給が不安定になり、自国の人々に飢饉リスクが高まります。

「食料も2、3週間で尽きますよね」

■この本をより楽しめる情報

この作品にはルイ14世の双子説やすり替わりのミステリー小説のようなストーリーラインに加えて、情熱的な三角関係の恋愛要素もあります。歴史的な背景の裏では陰謀渦巻き、スリリングな展開も。

当時の歴史の知識を持たずとも読み進められるぐらい面白い物語。
紹介者いわく、むしろこの作品を読んでどんどん歴史を知りたくなるそうです。

また宝塚歌劇団でも上演された舞台作品にもなっています。


27000冊ガーデン / 大崎 梢(双葉社)

■あらためて図書館が好きなあなたにおすすめ1冊

星川駒子は県立高校の図書館に勤める学校司書だ。たまたま居合わせた出入りの書店員・針谷敬斗と共に、生徒が巻き込まれた事件の解決に一役買う。そんな二人のもとには、ディスプレイ荒らしや小口ずらり事件など、図書館や本にまつわる謎が次々と持ち込まれる!? 学校図書館を舞台にすべての本好きに贈る、心あたたまるミステリー。

引用元:「版元ドットコム」より

興味深い質問

「思い出の図書館本はなんですか?」

菅野 雪虫氏の『天山の巫女ソニン』です。

紹介者が小学生のときに学校図書館の司書さんからすすめられた一冊です。その本がどんな内容なのかわかりません。面白いかは個人の感性や好みによりますが、自分の読書遍歴を知っている司書さんからの一冊、心に残ったはずです。

■参加者が盛り上がったところ

「図書館は勉強したり、本を静かに読むだけの場所ではなくなってきている」

物語は日常系のミステリーですが、話題は図書館の思い出や、図書館のあり方について広がりました。
かつての図書館は、静かに本を読むための場所としてのイメージが強かったかもしれません。
それが単なる情報の保管庫ではなく、学習や交流の場として新たな役割へと変わりつつあります。
「昔でいえば、なにか個人的な悩みを保健室の先生に打ち明けるみたいに?」

「作家さんはやっぱり図書館で借りるより買ってもらいたいですよね」
図書館で作品が貸し出されることで、作家さんの作品が多くの読者に触れる機会が増えます。その反面、借りるだけで読めるなら購買意欲の低下につながるかもしれません。

■この本をより楽しめる情報

高校の図書館と日常の謎の組み合わです。すでに大人になってしまった人は、学生時代を思い出しながら、本にまつわる日常系のミステリーを堪能してみてはいかがでしょうか。


パタゴニア・エキスプレス / ルイス・セプルベダ(国書刊行会)

■ユーモラスで感傷的な冒険、紀行小説を読みたい1冊

日曜日ごとに教会を「襲撃」した祖父との思い出に始まり、独裁政権下の祖国を逃れ世界各地を経巡った日々、そして、うそつきガウチョや天才科学者たちの待つ「世界の南の果て」パタゴニアへの帰還の旅…。――

引用元:「BOOK」データベースより)

興味深い質問

「南米に旅行したことはありますか?」

私も含めて参加者全員が、南米への旅行経験はありませんでした。この作品は南米の旅行記として描かれていて、その旅先であったエピソードが数々ユーモラスな語り口で描写されています。

新型コロナウィルス感染症の影響でしばらく海外渡航ができなかった時期に疑似旅行として読んでみたいと思わされる作品でした。

航空葬儀社、イルカと少年、第18回嘘つき大会、教会襲撃……日本の文化とは毛色の違ったエピソードが盛りだくさんで追体験できます。

■参加者が盛り上がったところ

「トロピコ」

『パタゴニア・エキスプレス』の舞台は中南米からスペインです。独裁政権下のチリから始まりますが、南米の話題から連想されたのがゲーム『トロピコ』でした。

『トロピコ』は、カリブの島国の大統領となり、島の治世を行うシミュレーションゲームです。プレイヤーは島の発展と島民の満足を追求しながら、政治力学にも注目します。選挙やクーデターの選択肢があり、観光資源の島から軍国主義の島まで自由なプレイができます。

旅の話からそれましたがこのゲーム『トロピコ』がとても興味深くて、一度プレイをしてみたいと思いました。

■この本をより楽しめる情報

著者であるルイス・セプルベダの半自伝的小説です。
パタゴニア地域を舞台にした有名な紀行文学にブルース・チャトウィンの『パタゴニア』があります。こちらもぜひとも併せて読んでみたい作品ですが、このブルース・チャトウィン自身が今回紹介した『パタゴニア・エキスプレス』にも登場します。

ちなみに著者であるルイス・セプルベダは、ヒホン在住時に2019年にアストゥリアス州初の新型コロナウイルス感染者の1人。その後重篤化し、病院で死去しています。


【まとめ】

「『キャラクターかぶっていません?』という疑問を抱える作家志望の5人が集まるミステリー小説から始まり、フランス王国のブルボン朝歴史ミステリ、図書館を舞台とした日常系ミステリ、そして南米旅行のエピソード、読者の興味を引きつける作品ばかりでした。

違ったジャンルの小説を紹介し合って、新しい作品に触れることができるのもジャンルフリーの読書会の醍醐味です。

また折を見て開催したいと思います。

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