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読書会 2024年2月23日

歴代の芥川賞・直木賞の作品及び候補作についての感想を気軽に話す読書会を開催しました。
今回の読書会でも、さまざまなジャンルやテーマの作品が紹介されました。
内容には一部ネタバレを含みます。


熱帯 / 森見 登美彦 (文春文庫)

森見登美彦流の入れ子構造の物語を読みたいあなたにオススメの一冊

沈黙読書会で見かけた『熱帯』は、なんとも奇妙な本だった。
謎の解明に勤しむ「学団」に、神出鬼没の「暴夜(アラビヤ)書房」、鍵を握るカードボックスと「部屋の中の部屋」――。
幻の本を追う旅は、いつしか魂の冒険へ!

引用元:「文春」より

■興味深い質問

「入れ子構造ですか?」

物語が他の物語の中に埋め込まれていく、一つの大きな物語の中に小さな物語が次々と現れ、それぞれが絡み合いながら物語が進行していく構造になっています。

「ちなみに以前読書会でヤン・ポトツキの『サラゴサ手稿』という作品が紹介されました。こちらも、非常に複雑な入れ子構造を持ち、物語が多層的に展開していくことで知られています」
物語の深化によって、読んでいる人はただの観察者ではなく、物語の一部として没入することができ、その経験は非常に魅力的ですね。

盛り上がったところ

よくわからないけど、この人の作品は大好き!」

『夜は短し歩けよ乙女』、『四畳半タイムマシンブルース』、『夜行』などは、一見すると理解しにくい設定やバカバカしさがありながらも、その独特の世界観やユーモアがたまらなく楽しいです。
また、文体にも大きな魅力を感じます。少し回りくどい表現が多いものの、その知的で洗練された言い回しには、どこか中毒性があります。読むほどにその独特のスタイルや物語の世界に引き込まれ、他の作品も無条件で手に取ってみたくなる、そんな魅力がこの人の作品にはありますね。

■この本をより楽しめる情報

第160回直木賞の候補作品。著者の独特な文体と世界観、従来の知的遊戯を超えた創造力で読者を魅了します。純文学の要素を含むこの迷宮のような物語、広いイマジネーションを存分に感じられる作品です。


思い出トランプ / 向田 邦子 (新潮文庫)

昭和の雰囲気を感じたいあなたにオススメの一冊

浮気の相手であった部下の結婚式に、妻と出席する男。おきゃんで、かわうそのような残忍さを持つ人妻。毒牙を心に抱くエリートサラリーマン。やむを得ない事故で、子どもの指を切ってしまった母親など――日常生活の中で、誰もがひとつやふたつは持っている弱さや、狡さ、後ろめたさを、人間の愛しさとして捉えた13編。直木賞受賞作「花の名前」「犬小屋」「かわうそ」を収録。

 引用:「新潮」より

興味深い質問

「表題作はないんですか?」

13話からなる短編は、トランプのカード枚数にちなんでいますが、『思い出トランプ』という作品はありません。
日常を舞台にしながらも、ほんのりとした不気味さを感じさせる短編集です。全体としてひとつのまとまった雰囲気があります。

■参加者が盛り上がったところ

「なんともいえぬ昭和感」

昭和時代の独特な雰囲気とその時代の複雑さが描かれています。全体に暗いトーンと昭和特有の感情が漂い、女性の秘めた恐ろしさ、日常の裏に潜む非日常、不倫などの要素が織り交ぜられていますが、表面上は穏やか……。
「昭和の力強さと仄かな暗さが共存して時代の魅力と複雑さを深く感じ取ることができます」

■この本をより楽しめる情報

本作収録の「花の名前」、「かわうそ」、「犬小屋」の三つの短編が第83回直木賞を受賞しました。特に「犬小屋」は、読書会で取り上げられ、注目も集めています。著者は、小説家としての活動だけに留まらず、エッセイの執筆やテレビドラマの脚本作成も手がけており、その多才な才能が垣間見える作品群です。


東京都同情塔 / 九段 理江 (新潮社)

SF要素、異なる世界線が魅せる芥川賞を読みたいあなたにオススメの一冊

2020年春、惣菜店に勤める花は、ニュース記事に黄美子の名前を見つける。60歳になった彼女は、若い女性の監禁・傷害の罪に問われていた。長らく忘却していた20年前の記憶――黄美子と、少女たち2人と疑似家族のように暮らした日々。まっとうに稼ぐすべを持たない花たちは、必死に働くがその金は無情にも奪われ、よりリスキーな〝シノギ〞に手を出すことになる。歪んだ共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解へ向かい……。

引用元:「中央公論社」より

興味深い質問

「東京同情塔? それとも東京都同情塔?」

この作品のタイトルですが、『東京同情塔』という表現の方が口に出しやすく感じるという意見がありました。作中では「東京都」と「同情塔」が韻を踏んでいる説明もあります。言葉の定義(再定義)について触れられていることが、話題になりました。

■参加者が盛り上がったところ

「最近の芥川賞がわからない」

「知人がここ2,3年の芥川賞作品を読んだところ、内容の理解が難しく、5ページぐらい読んで本を閉じてしまった」
芥川賞作品が複雑である理由として、時代の流れを捉えた斬新な試みを行っているのか、それとも意識的に独自のスタイルやテーマを追求しているのか、明確ではありません。現代社会や文化を反映しつつ、新しい表現方法を模索しているのかもしれませんが、その結果、一部の読者にとっては理解しがたいものになっている作品もあります。
(『東京都同情塔』がどうかという話ではなく、最近の芥川賞についての話題です)

■この本をより楽しめる情報

デビュー作「悪い音楽」で第126回文學界新人賞を受賞した後、同年に発表した「Schoolgirl」が第166回芥川賞と第35回三島由紀夫賞の候補に上がり、2023年3月には同作で第73回芸術選奨新人賞を受賞しました。さらに11月には、「しをかくうま」で第45回野間文芸新人賞を受賞しています。そして「東京都同情塔」ではSFの要素もあり、異なる世界線を楽しむことができます。


鍵のない夢を見る / 辻村 深月 (文藝春秋)

■現実の厳しさ、心の影を描いた物語を読みたいあなたにオススメの一冊

わたしたちの心にさしこむ影と、ひと筋の希望の光を描く傑作短編集。5編収録。
「仁志野町の泥棒」誰も家に鍵をかけないような平和で閉鎖的な町にやって来た転校生の母親には千円、二千円をかすめる盗癖があり……。
「石蕗南地区の放火」田舎で婚期を逃した女の焦りと、いい年をして青年団のやり甲斐にしがみ付く男の見栄が交錯する。
「美弥谷団地の逃亡者」ご近所出会い系サイトで出会った彼氏とのリゾート地への逃避行の末に待つ、取り返しのつかないある事実。
「芹葉大学の夢と殺人」【推理作家協会賞短編部門候補作】大学で出会い、霞のような夢ばかり語る男。でも別れる決定的な理由もないから一緒にいる。そんな関係を成就するために彼女が選んだ唯一の手段とは。
「君本家の誘拐」念願の赤ちゃんだけど、どうして私ばかり大変なの? 一瞬の心の隙をついてベビーカーは消えた。

引用元:「BOOK」より

興味深い質問

暗い話ですか? ミステリーではない?

「著者の有名な作品『かがみの孤城』は、困難や苦悩を乗り越えていく中で温かい感動的な作品のイメージがあります。が、『鍵のない夢を見る』は違いますか?」
「そうなんです。『鍵のない夢を見る』では、転落や暗さを感じさせる話が中心で、ミステリーとも異なります」

■参加者が盛り上がったところ

「現実を見ていない」

作中に登場する女性キャラクターたちが、それほど魅力的ではない男性に惹かれる理由について疑問が浮かびました。中には「子育ての現実を甘く見ていた」と感じさせるキャラもいます。彼女たちは、現実から目を背けがちで、行き当たりばったりの行動を取ったり、心の支えを求めて必死になったり、現実とのズレを感じさせるキャラクター。妙にリアルです。

■この本をより楽しめる情報

第147回直木賞を受賞したこの短編集の中で、今回の読書会では『君本家の誘拐』という作品をご紹介いただきました。またこの短編集は必ずしも心地よい作品ばかりではないかもしれませんが、その文筆技術の高さと、深く心を打つ内容が多いようです。


柔らかな頬 / 桐野 夏生 (文春文庫)

冷徹な失踪事件、心が求める救済の物語を読みたいあなたにオススメの一冊

カスミは、故郷・北海道を捨てた。が、皮肉にも、その北海道で娘が謎の失踪を遂げる。
友人家族の北海道の別荘に招かれ、夫、子供と共に出かけたカスミ。5歳の娘・有香が忽然と姿を消す。実は、 石山とカスミと不倫の関係であり。カスミと石山は家族の目を盗み、逢引きを重ねていたのだ。夫と子供を捨てても構わないと決心したその朝、娘は消えた。有香が消えた原因はもしや自分にあるのか? 罪悪感に苦しむカスミは一人、娘を探し続けるが、何の手がかりも無いまま月日が過ぎ、事件は風化してゆく。しかし4年後、元刑事の内海が再捜査を申し出る。カスミは一人娘の行方を追い求め事件現場の北海道へと飛ぶ。——

引用元:「BOOK」データベースより

■興味深い質問

「タイトルの意味は?」

『柔らかな頬』というタイトルは、突如として行方不明になった幼い娘の象徴のように思われます。このタイトルからは、失われた無垢さや、親としての愛情とその失われた存在への切なさが感じられ、言いようのない重苦しさがあります。

盛り上がったところ

不倫エピソードって物語のつかみにいいんでしょうね」

著者には、グロテスクな描写や過激な内容を含む作品が多く、そのようなイメージがあります。今回の作品でも、不倫エピソードが物語の始まりです。このエピソードはかなり長めに描かれていますが、読者を作品の世界に引き込む導入部としていいのでしょうか。
物語へと深く引き込む効果があるのかどうかが問われました。

■この本をより楽しめる情報

第121回直木賞を受賞し、その後映像ドラマとしても制作された作品です。失踪を巡るミステリアスな雰囲気と、それに伴う恐怖感が漂い、生死の重厚感を持っています。読み手に深い印象を残すこと間違いなしです。


【まとめ】

読書会で取り上げられた作品の中には、直木賞を受賞した作品が4作、芥川賞を受賞した作品が1作ありました。
芥川賞受賞作については、気軽に手に取りにくさを感じさせる雰囲気があるかもしれないという話題が出ました。
が、紹介されたすべての作品は、その質の高さがありました。

継続して課題本読書会も募集しておりますので、リクエストがあればご連絡ください。

【課題本一覧】
百年の孤独 / G・ガルシア=マルケス ←6月8日開催予定
重力の虹 / トマス・ピンチョン ←9月開催予定
鳳仙花 / 中上健次 ←未定(参加希望者が2名以上になれば)
幻滅 / バルザック        〃
金閣寺 / 三島由紀夫        〃
海と毒薬 / 遠藤周作        〃

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